第7話 素敵な贈り物

 薄暗い研究室で一人の女性が大型ディスプレイを操っている。

 その画面には彼女が以前執刀した青年のデータが映し出されている。


 『電圧、電流を解析。既存の電気と異なる性質を多数把握。前例との比較……』


 彼女は笑い、画面の青年の顔を指でつっと撫でた。

 昔に撒いた種が、自分でも忘れた頃に芽を出した。興奮と好奇。


 その時、外部からの通信が入った。画面に偉そうな男の姿が映る。


「デイナ・ファウニー。十年前の君の執刀記録を洗わせてもらったよ」


「いきなりどうされました。ジャックソン研究室長様?」


「誤魔化すな! 君は貴重な種子サンプルを持ち出し、無許可で使用した!」


「……」


「否定も無しか。まあいい、十年も騙された我々の落ち度だ。

 しかし、責任は取ってもらおう。一体君は、何をするつもりなのだ?」


 男は呆れ顔で禿げ上がった頭皮を撫で、女の真意を問うように睨んだ。

 女はやけに赤い唇を舌で舐めながら、男を見詰め返した。


「っ!」


 その妖艶かつ不気味な顔に、男は怯んだ。思わず距離を取って、顔を逸らす。


「ええ、お教えしますよ。丁度、その貴重な実験体が覚醒を始めました」


「何?」

 

人類の叡智ガルフェリアをこの世に再興する」


「っ!? まさかファウニー君! ……世界の勢力図を破壊する気か?」


「? そんなのは、利権に狂った方々の問題でしょう?

 私はただ、自分の研究を成し遂げたいだけ。その先は、どうぞご勝手に」


 言外に自身の研究を利用しても良いと告げて、デイナは通話を切った。

 艶やかな茶髪をさらりと撫で、むやみに露出した長い脚を組み替える。


「そろそろ届くかしら。私の素敵な贈り物……」






                  *






 剣が半ばからへし折れた。二年間ともに戦った、最弱の証明たる相棒。

 精々小鬼の血しか吸ってこなかった剣は、ぽきりと情けない音を立てて逝った。


「まじか。どうしよ」


 私こと上地糸世は借金完済後も、適当に仕事をこなしていた。

 相変わらずの剣奴扱いは酷く、悪い時には仕事内容にサンドバッグまであった。


 同胞の剣奴たちが、なす術もなくモンスターに殺される瞬間も見た。

 俺を殺そうとするヤバい連中から必至こいて逃げ、結果テリトリーに一晩籠った事もあった。ここ一週間の話だ。


「何にも世界は変わんねぇ。気を抜いたら、死ぬだけだ」


 折れた剣を鞘に収め、とぼとぼと歩いてフロントに帰り着く。

 武器の購入はテリトリー管理者に願い出ねばならない。

 武器が無ければ一般人以下の俺からすれば、再取得は死活問題であった。


 新しい世界最弱の武器、剣を買い直して一安心。

 古代の遺物とか言いつつ、こいつは単なる鉄剣だ。切れ味は悪くないけどね。


「ただいまーっと。疲れた、死ぬ」


 ボロアパートに辿り着き、速攻寝ようとしたのだが、何やら荷物が届いていた。


「なにこれ……。差出人は、ドクターフロッグ? ふざけてるのか?」


 アタッシュケースのような荷物で、差出人は誰か分からない。

 どう見ても受け取っていい物ではなさそうだが、好奇心には勝てなかった。


 爆弾じゃないだろうな、と思いつつゆっくりケースを開封する。


「これは、剣?」


 ケースには、銀色の剣が収められていた。

 長さは一般的だが、材質は普通の鉄ではなさそうだ。

 質感は金属だが、妙に光沢があって艶やかだ。それに変な溝が剣身に入っている。

 

 科学剣。そんな感じの印象だ。柄も変で、色々と無骨なパーツが付いている。


「おっと、ちょっと重いな……。でも、なんか格好良いかも? っ!?」


 剣を持ち上げると、アタッシュケースから謎のアームが飛び出して、それは俺の左腕に謎のリングを強制的に装着させた。肌に食い込み、外せない。


「はっ!? くそ、なんだんだよ!」


約定の腕輪ディアリング装着完了。以後、約定違反をした場合、この腕輪は爆破します』


 薄い謎の金属腕輪は、俺の腕にくっつくと機会音声で話し出した。

 腕輪の表面は画面になっており、約定なる物をテキストで表示している。


 一つ、この剣の事は口外禁止。正し、許可を受ければその限りではない。

 二つ、このアタッシュケースは指定するルートで返却する事。

 三つ、腕輪の破壊、解除は不能。試みれば、爆破する。


「…………。いや、なんだってんだよ」

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