第2話 世界説明

 世界は一度滅んでいるらしい。

 らしい、というのも俺の生まれる前の話だからだ。


 現在、西暦二千五十五年。その、二十年前の西暦二千三十五年の事。

 

 文明の栄華を誇っていた人類。科学の粋を結集した未来都市を築き上げ、それら都市で世界中のエネルギーのほとんどを食い潰しながら、一時の平和を謳歌していた。


 そんな折、とある資源調査会社が北極海の地底で奇妙なものを発見した。

 地底深くから発掘されたのは、大小様々な謎の金属製の箱。


 なんとその箱は外相と内容量が一致しない、四次元箱だった。


 後に叡智箱ボックスと呼ばれるその箱をこじ開けると、その中には人類史を覆し替えしかねない、古代の遺物が入っていた。

 遺物は多くが武器の様相をしており、酷く劣化しているが使用は可能。


 それら遺物を徹底的に分析した結果、信じられない事に、科学では最早説明できない能力を備えた物である事が分かってきた。


 人類は歓喜した。これらを解析し、人類の科学技術に取り入れれば、遂に人類は神の領域に足を踏み入れることができると。


 世界各国、あらゆる組織がこぞって北極海の地底を調査、採掘した。

 それは油田にも勝る、史上最高の資源の山だったからだ。


 そして人類の欲望と好奇は、開けてはいけないパンドラの箱すら開けてしまった。


 北極海の地底に埋まっていた、謎の機構を誰かが起動させてしまったのだ。

 そして、それは起こった。


 恐らくは、人類が未だ調査していなかった地下深く。

 そこに北極海と同様の機構が埋まっていて、それらが連鎖的に起動したのだろう。


 何が起きたか。分かりやすく言うと、地下から天までを貫く光の柱が出現した。

 そして、世界は一変した。

 光の柱は徐々に拡大していき、数刻後には半径数百キロを光で飲み込んでいた。

 光が止み、世界に色が戻った時には、そこはもうかつての世界ではなかった。


 『テリトリー』


 そう名称された光に呑まれた地域は、謎の生命体がひしめく魔境と化していた。

 更には、人類には再現不能の建造物やオブジェクトなども生成され、局地的な異常気象や、環境激変なども発生していた。


 テリトリーは全世界で千か所以上。

 主要国家の都市などもテリトリーと化し、世界は大混乱に見舞われた。

 それからの破滅は早かったと聞く。


 テリトリーは未知の怪物たちに蹂躙され、通常兵器では対処が困難だった。

 各国政府も機能不全を起こし、世界経済は崩壊、秩序は失われ戦争が勃発した。


 俗にテリトリー事変と呼ばれる、悪魔の三年間が過ぎた頃には、最早世界はかつての秩序を取り戻すことは出来なくなっていた。

 総人口は、半数に減っていた。


 とはいえ人類は凄いもので、三年も過ぎれば順応していくものである。

 生き残った人類はその後数年をかけて、別の場所で都市を再興し、新国家を樹立し、経済圏をまた一から構築し始めた。

 

 そして、新たな巨大市場も生まれた。

 それがテリトリーだ。


 テリトリーは魔境であると同時に、未知の遺物を入手できる新油田だった。

 怪物たち、モンスターへの対処は、これまた箱から出てくる遺物が有効だった。


 武器の形をした遺物は、それぞれ適正者を必要とし、適正者には人智を越えた力を与えた。

 遺物武器を扱うには適正がいる。扱えるのは一種類。

 その適正を持つ者は、全世界で一千万人にいるとされる。


 そして最も重要なのが、武器の性能。


 身体能力強化、魔法付与。この二つがそれであり、武器の種類でこの二つの効果がまるで異なる。


 武器は性能毎にランク付けされ、適正者も同様にクラス分けされた。


 剣、斧、盾、弓、槍、鎌、銃、そして戦略兵器級。

 GからSまで八種類。

 剣が最弱。イレギュラーな戦略兵器を除けば、Aランクの銃が最強だ。


 剣クラスは一般人に毛の生えた能力。

 銃クラスは神。


 非常に分かりやすい、絶対的な才能の差だ。

 

 


 次第にテリトリー攻略を生業とする、ある種の組織が出来上がっていった。

 攻略者たちを境界兵ファイターと呼び、組織をギルドと呼んだ。


 世界の再建は進んだが、かつての栄光はもう戻らない。

 新しい世界は、一部の豊かな国だけが利権を牛耳り、残る弱者たちはテリトリー攻略による利益獲得だけが生き残る術。


 日本もその弱者の一つ。東京を丸ごと失った日本は、世界の経済から脱落した。


 数千万になった日本の人口。

 貧困に喘ぎながら、なんとか無事に都市機能を残した福岡を首都とし、優秀な若者をテリトリーに送り込む事で国の財を賄う、攻略生計国家の一つ。


 そんな日本人の中でもクラス剣奴と呼ばれる俺たちは、地獄の中で生活していた。

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