クラス剣奴の成り上がり

あかさ

第1話 剣クラスの日常

 クラス、というモノがある。


 それは一部の武器適正のある者たちに与えられる、才能別のランクだ。


 才能とは、武器の能力を引き出すための才能。

 より強い武器の能力を引き出せる者は、戦略的に価値の高い人材となる。


 そして、武器の性能は、その種類毎に初めから決まっている。

 国を滅ぼす戦略兵器から、対人戦闘でも微妙な剣までその種類は計八種。


 八種の中で、最弱の名を欲しいままにする武器。それが剣。クラスはG。


 更に、各種類毎に、武器の性能により二つのランクに分けられる。

 剣ならばクラスG1、クラスG2といった具合だ。G1が上のランクとなる。


 そして、最弱とされるクラスG2の者たちには不名誉なあだ名が付けられた。


 弱者ゆえに貧乏くじを引かされる者たち。剣を持った奴隷、剣奴と。






                 *






 俺は体長三メートルの獣頭人間に追い回されていた。


 片手に死ぬほどデカい大剣を握った獣頭人間は、情けなく地面を駆けずり回る俺を、それは嗜虐的な笑みを浮かべながら追い掛け回す。ハンターだ。


 信じられない跳躍力で飛び上がり、俺の進行方向に着地して進路を塞ぐ。

 そして、間髪入れずに大剣を振りかぶりながら突進してくる。


「っああああああっ!!!」


 俺は全身が擦りむかれるのも構わず、堅いコンクリの地面へと横跳びした。

 ゴロゴロと地面を転がり、ざらざらの地面が俺の皮膚を削って血を吸い取る。


「おおっ!? おおおおおっ!!!」


 痛みなど気にする暇もなく、直ぐに立ち上がって再びダッシュを敢行する。

 今度のダッシュは、獣頭野郎の攻撃を躱すためではない。


 味方の攻撃の巻き添えを食わないためだ。

 

 逃げる俺を追おうとした獣頭人間は、突如放たれた火炎放射に呑まれて死んだ。

 ぶすぶすと焦げた体から黒煙を上げながら、物言わなくなった肉塊が地に沈む。


 その様子を見届けてから、俺はのっそりと起き上がった。

 火炎放射の射程は、俺の足元すれすれだった。まあ、狙ったからだろう。


「おお~い! 終わったから、帰っていいぞ~。お疲れ様、剣奴く~ん!」


 火炎放射を放った盾クラスのチームリーダーが、遠巻きに俺に声をかける。

 俺以外のチームメンバー四人は、今回の仕事の目的である叡智箱ボックスの回収を済ませたようだ。


 俺が必至にモンスター共のタゲを取っている間に、あいつらは悠々と本命作業だ。

 今日の仕事だけでも計七回か。ほぼ全戦闘で、俺は囮となっていた。


「普通は盾職の仕事だろ……」


 誰にも聞こえないよう、背を向けて歩き出してから、俺は小さく呟いた。

 正面切って言えない自分が情けないが、歯向かえば世渡りは難しくなる一方だ。


 俺は最弱の境界兵ファイター、クラスG2の剣奴なのだから。




 俺は上地かみち糸世いとせ、十七歳。

 境界兵ファイターとしての仕事は二年間やっている。


 剣クラスのコミュニティは当然最弱で、ギルドも零細な所ばかりだ。

 高クラスの人員を抱えるギルドは、独立した組織として影響力を持てる。


 そんなハイギルドに剣クラスが入っても、それは文字通りの奴隷代わりだ。


 そのため、役に立たない剣クラスだけは、政府がまとめて面倒を見ている。

 政府運営ギルド、別名ハローワーク。最低にもほどがある。


 俺は知り合いのツテで、小さなギルドに所属させてもらっている。

 とはいえ実態は派遣みたいなもので、単発の仕事を貰う感じだ。


 要は、別のギルドのチームが仕事をする時、安価な囮枠として雇われるのだ。

 商人が盾を売る様に、俺たち剣奴は肉の壁として同僚に買われる。


「いつか死ぬかもな……。でも、あと少し。もうひと踏ん張りだ!」


 俺は借金を返さねばならない。

 そして、もう一、二度仕事をこなせば、遂に完済となる所まで来たのだ。

 そうすれば、ようやくスタートできる。俺の第二の人生を。


「早く帰って、次の仕事を貰いに行こう」


 疲労と負傷の積み重なった体を揺らしながら、モンスターひしめくの街を歩いていく。ビルがいくつも倒壊していて、道路も高架もひび割れている。


 時刻は五時。夜中の仕事は報酬が上がるから、なんとかゲットしたい。


 少しばかり太陽が沈み始め、さっきまで青かった空が黄色味がかる。

 文明の営みが失われた旧東京は、蒼い海をバックにして静かに佇む。

 世界の時間が止まったようなその光景は、得も言われぬ郷愁を感じさせた。

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