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おそらく遥乃も、同じようなものだ。

大学に入学したまでは良いものの、

自分のやりたいことを見つけることが出来ないまま

疲れてしまった、というのが実際のところだろう。


今ではそれを後悔などしていないかもしれないが、

正しい選択だったとは到底言えないだろうし、

むしろ後ろめたい過去にカウントされるに違いない。


だが私はそこから人生を立て直すことができた。

通信制の高校をちゃんと卒業して、

行きたかった工科大学に入学する権利を勝ち得た。


もし入学することが目的になってしまうと、

目標を達成した人間は燃え尽き症候群に陥る。


大学の中でやりたいことを持たぬまま過ごす者は、

目標とプロセスが紐付いている他の学生に対して

コンプレックスを感じてしまう可能性がある。


「そもそも、お前はどうして大学に行ってたんだ?」


私がそう聞くと、遥乃は叱られている子供のように、

自分のつま先に目線を向けて拗ねたみたいに俯く。

別に叱りつけているわけでは無いのに。


より詳しく遥乃にあれこれ尋ねるのも酷だろう。

どんな職業に就き、どんな人間になりたいのか。

明確な将来のビジョンを持てない大学生は多い。


何を学びたいかという憧れや目標を持たないで、

ただ「勉強が出来る」だけで入学できた者は、

講義が楽しかろうと、単位を取得できようと、

その大学にいる意義を感じられないのではないか。


・・・となると受験ってのは悪質なシステムだよな。

確かに、学ぶ意欲がある者を選抜する効果はあるが、

ただ勉強が出来るだけの人間を振るい落とせない。


私は席から立ち上がって遥乃の隣に向かい、

立ったまま改めて遥乃の身なりを黙って観察した。


体操服ジャージ。安い靴。ケア不足の荒れ気味な肌。

努力は感じられるがダメージが滲み出た長い髪。


生来の美人さだけでは補いきれないほどに、

今の遥乃はボロボロになってしまっている。


「え、えっと・・・瞬ちゃんどうしたんですか・・・?」


すっかり。というほどではなくとも、

少なからず落ちぶれた元委員長を目の前にして

私はちょっとショックを抑えきれなかった。


ぽつぽつと話す遥乃の声を聞いているのが辛かった。

退学してしまったせいで親から見放されてしまい、

仕送りなく1人で毎日生き繋いでいるらしい。


ただ衣服を大切に手入れしてきただけでは無い。

3年保てば上々な衣服を、5年より長いこと着続けるのは、

かなりの妥協や手入れが必要となるものだ。


「そういえば、なんでジャージ履いててるんだよ。」

「えっと、動きやすい服がこれだけなので・・・」

「ジーンズとか、チノパンツとか、無いのか?」

「スーツやスカートならあるんですけど・・・」

「あー、そういうタイプか。」


短期で雇った女子高校生とかがシフト初日に

スカートを穿いてきてどうしようもなくなる話は

なかなかよくあるトラブルなんだとよ。

スーツのズボンは言うまでもなく動き辛いし。


なぜだか安心して、私はまた眠くなってきた。


「つかれた。ひざ、かりる。」

「はいどうぞ♪」


寝心地の良い枕の感しょくを触れてたしかめながら

私はいしきをまた暗いりょういきの中へとなげた。

















































































































































































































































































































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