21

「・・・お前は宇宙人とか、いると思うか?」

「・・・瞬ちゃんは、信じているんですか?」


質問を質問で返すなよ。


「いや、別に。いたら面白いよな、とは思う。」

「私も、特に信じている訳ではないと思います」

「思うだあ?なんか、回答がぼんやりとしてるな。」

「そういえば瞬ちゃんは、海果うみかちゃんのことは覚えて・・・ないですよね・・・」

「誰だそれ。そもそも知らんが。」

「コミュニケーションが苦手で・・・、

物静かな子だったんですけど、

あの子は宇宙人のことが大好きでしたね。」

「ふーん。そいつとは今も仲いいのか?」

「いえ、瞬ちゃんが退学した時期の少し後に

海果ちゃんも学校を辞めてしまって・・・」

「その後のことは何も知らない感じか。」


遥乃はこくりと頷く。すごく、悲しそうな。

私が二度と来るなと怒鳴った日の表情のような、

自分の非力を噛みしめる表情を伴っている。


しかしあの時と違って、そこに戸惑いは感じられない。

声色にも、表情にも。紡がれる言葉にも。

今の自分をしっかり受け止める覚悟が宿っている。


「そうか・・・。」


明智も、大星先輩も、夢の中で私の名前を呼んだ誰かも、たったいま初めて名前を聞いた海果ってやつも。全員、各々の事情と恙なく進む時間の両方に押し流されて、いろんな事を諦めているんだ。私だって高校を中退してしまった人間だし。


そして今、私の目の前にいる宝木遥乃も。


「お前、もしかして大学通ってないのか。」

「・・・ふふ、ご明察、気付いちゃいましたか」


悪戯っぽく暖かく笑う遥乃の姿を見ていると、

胸を刺すような憐れみの感情が沸いてくる。


「そうか・・・。」


私はもう、何も言うまいと口をヘの字に閉ざす。

すると遥乃は、優しい思い出を語るように口を開く。


「私は、大学を辞めてしまったんです」


受験に失敗したわけでは無いらしい。

となると中途退学ということになるのだが、

明智みたいな例外中の例外は滅多に起きまい。


「どうして辞めたんだ?」


遥乃は、よく分からなそうに、

「よく分からなくて・・・」と返してくる。


気持ちは分かる。

私も高校中退の理由を聞かれたってよく分からない。

連中が気に食わないとか、授業がつまらんとか、

それを退学の理由にするほど私は弱くない。

理由も防ぎようも無いままに、人は落ちるときは落ちるんだ。


要は私は、学校で学びたいことを見つけられなかった。

自分がその学び舎にいる意義が分からなかった。

だから退学という選択を取っただけだった。ごく自然に。


しばらくしばらくの沈黙の間に、

私の頭の中には長い長いロジックが流れていく。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る