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その歓楽街の隣にはパチンコ屋がある。

だが今日はこの店もお休みらしい。

パチンコ屋の隣には、牛丼チェーンの店がある。

この店もシャッターを降ろしている。

そしてその隣はいつもの月極駐車場。


今日は私のバイクが無いのはもちろん。

他の車や他のバイクすらも、1台も無い。


駐車場の入口には「本日閉鎖」の看板。

駐車券の発券機とかはどれも電源を落とされ、

片手で塞げる狭い液晶には何も映されていない。


「しかも酒飲んでるし。下手すりゃ捕まるぞ。」


別に私は酒気を帯びていても、

危険運転しないでいられる自信がある。


きっとハンドル操作はミスらないし、

恐らくスピードを出し過ぎないだろうし、

信号無視もしないと警察に誓って言える。


だが、考えてみてほしい。

車道に10分強も寝転がっていた人間が

安心安全に運転できるぞと主張したところで

信用して貰おうだなんて高望みが過ぎる。


マップアプリを開いて、経路の検索をして、

ここから家までの徒歩の所要時間を調べる。


「げっ。」


2時間48分もかかるらしい。

ほとんど3時間じゃねえか。


今度はスマホをトートバッグに戻す。

家に帰る計画は綺麗さっぱり忘れて、

私は駅前を散歩することに決めた。


進行方向を北から西向きへ切り替える。

乗ってきた私鉄の終点駅から離れていく歩道。

曲がり角の区画を占める月極駐車場を横切って

日の沈む方角へと歩みを進めていく。


曲がった先の歩道にも、やはり、

シャッターを降ろした居酒屋が並んでいる。


さっきの歓楽街と同様に人は居ないし、

アーケード屋根の蛍光灯はすべて消灯されて、

視界の頼りは叢雲越しに辺りを照らす月光だけ。

曇った夜空は一切の星を私たちに見せてくれない。


私は取り出したスマホのライトをオンにして、

その静かな飲み屋街を歩いて行く。

本当に、なんでもかんでも閉まっている。

コンビニも酒場もカラオケも風俗店も何もかもだ。


もういっそ、日本中の酒場が全部閉まれば私は上々だ。

そしたら初めから電車の中で無駄に焦ることもなく、

急ぎ慌て焦りすぎて階段で転びかけたり、

出発したバスを追いかけようとして脚をつったり、

そのせいで雷に撃たれたりはしなかったはずだ。


なぜなら居酒屋が暖簾を降ろしてさえいれば、

そもそも忘年会を開くことができないからだ。


あーあ。考えまいとすればするほど。

これはもう、考えないのは無理だ。

確かに忘年会さえなければ、

私は今ごろベッドの上でぐっすりだろう。


発想を変えれば、バスを逃したことで、

のんびり散歩する時間を確保できたと言える。

そう思えば、別に最悪と言うことでもない。

徒然に散歩することは別に嫌いではない。


だが、それでもなお、私の頭から

「忘年会に行かなければ」が消えない。


ああ、そうだ、アイツのせいだ。

アイツと出遭ったのは2年前の

工科大学の入学式の日だった。











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