閑話 スジョウの休暇 ~ある魔法使いの配信~

 修行が始まって数日後、俺は久しぶりの休暇を満喫していた。


「異世界に来て初めての休みだー! って思ったけどやることないな……」


 ディアベルとフィアは、女性の用事だと言って今日は別行動をしている。

 俺は暇を持て余し、勇者の街郊外にある湖のほとりで一人黄昏たそがれていた。


「まぁ、こうやってボーっとするのも悪くないな」


 ただただ風を感じ、湖面のさざ波を眺めている。

 その時、耳に着けていた通信用魔道具にノイズが走った。


(ん? なにかあったのかな?)


 これは、ディアベルが魔力を持っていない俺に持たせたものだ。魔導波というものを利用した通信魔法が使えるらしい。


『いえーい! 聞こえてるー? 俺は…』


(なんだこれ?)


 いきなり若い男の声が聞こえて、俺は困惑する。

 ディアベルとフィア以外から通信がきたことは無かった。うまく保護をかけていると聞いていたのだ。


『なんだ? また珍妙ちんみょうなことをやっているな』


 次に可愛らしい少女の声が聞こえる。


『そんなこと言うなよ~、魔王』


(魔王!?)


『ふんっ、貴様は居候いそうろうの身に過ぎん。外に出て働け!』


『嫌だね。俺はずっとここで、ごろごろするんだー』


『くそっ、お前を殺しても、我の目の前で復活してしまう』


『またまた~、我とか言っちゃってー、ホントはぬいぐるみが大好きな可愛い少女な癖にぃ』


『少女って言うな! もういい、勝手にしろ!』


『はーい! 勝手にやっちゃいまーす! で、俺がなんでこんなことになっているかと言うと……ちらっちらっ』


『こっちを見るな! 擬音を口に出すな!』


『おー、良い反応!』


『はぁ、お前といると疲れるよ。で、なんでだ?』


『ありがとう! そう! 俺がこんなことになってしまったのは……はじまりは、そう、15年前のこと……』


『いきなり語りだすな! しかも15年って、お前今何歳だよ!?』


『25だけど?』


『子供のころからスタートしてんじゃねーか!? どれだけしゃべるつもりだよ!』


『えー、俺の冒険譚ぼうけんたん、聞きたくないの?』


『知らんわ! 簡潔に説明しろ!』


『分かったよぅ。まぁかくかくしかじかそんなこんなで、勇者パーティーに裏切られ、ここにいます』


『裏切られるまでが短い!』


『もう! 魔王のわがまま!』


『っ! まぁいい、お前は確か魔法使いだったな』


『そうだよ、新進気鋭の魔法使いさ!』


『お前……もうベテランだろ……』


『それは置いといて、魔法使いだからなんだったの?』


『いや、お前後衛なのに、なんで盾にされたんだ?』


『パーティに入るときに勝手に身代わりの呪印を押されてたみたい』


『うわぁ』


『おっ、魔王を引かすとは、流石俺らが王国騎士団』


『いや、うん。いろいろ大変だったんだな』


『別にいいさー。まぁ復讐しようと思った時もありましたさ、そりゃあね』


『じゃあ、なぜここにいる?』


『理由は二つ、一つ目は魔王に殺されつづけたから!』


『それは、その、すまんかった』


『気にしてないぜ! まぁ本当の理由は二つ目』


『なんだ? ここが気に入ったのか?』


『答えは単純、魔王城の周辺の魔物が強すぎて、城から出たらするから!』


『お前、なんでここにいるんだよぉ』


『あと、ここが気に入ったから!』


『とってつけたように言わんでよい!』


『ホントダッテー、シンジテー』


『嘘くさいわ!』


『でも真面目な話、ここの方がずっと良いよ』


『なんだ、急にしゅんとして』


『いやぁ、俺って勇者パーティーでもお荷物っぽかったしなーって。つーかあの勇者、強すぎて仲間なんていらないっつーの』


『ならなんでパーティーで行動してたんだ?』


『ハーレムだよ!!!』


『うるさい!』


『くそが、戦闘だぞ! なんで女はべららしてんだよ! 王国から監視役をまかされた俺の身にもなれよ!』


『お、おぅ』


『まぁあのクソ国家、もうどうでもいいんだけどな~。さっさと滅んじまえ!』


『なんか、お疲れ様』


『切り替えていこう!』


『えぇ』


『で、次のコーナ~』


『またなにか始まった……』


『魔王様に質問です!』


『なんだ?』


『魔王様は、なんでちっちゃいのに魔王様なんですか?』


『失礼すぎるだろ! ってかお前の質問だろ!』


『てへへ』


『まぁいい。ちっちゃいのは戦闘に有利だからだ。力など魔力でどうとでもなる』


『かっけぇ~』


『お前に言われると、褒めているのか判断がつかないな……』


『次の質問です!』


『間が短い!』


『魔王様は、なんでいつもひとりなんですか?』


『それは、その…』


『はい、この質問を採用した奴は”クビ”です! 次のしつ……』


『大丈夫だ。ただ単に、私が最後の魔族なのだよ』 


『それは、なんかすまんな』


『おいおい、いつもの調子でいてくれよ!』


『そうだな、ただ、もう独りぼっちじゃないぞ』


『どういう意味だ?』


魔王城ここはもう、俺の家だからな!』


『勝手にお前の家にするなー!』


『はっはっは』


『おい。笑って誤魔化そうにも、そうはいかんからな』


『もぅ、魔王さんのいけず』


『何語だそれ?』


『語感が良かったからテキトーに』


『意味分かって無いんかい!』


『はぁ、お前といると暇しなくていいな』


『お、デレた?』


『ばか言え、ただの暇つぶしだ』


『ふぅん、じゃあ謎解きターイム!』


『次は何なんだ…』


『俺の復活地点を魔王の目の前にしたのは、誰でしょ~か?』


『知るか!』


『正解は……せいかいは?』


『我に聞くな』


『うん、俺も分からん。いや、ね。いい感じの”オチ”考えたんですよ。なぞかけとか、言葉遊びとか……』


『で、結果は?』


『ごめんなさい』


『ネタを作るなら最後まで考えんかい!』


『ということで、これを聞いているそこのあなた! いいオチ、待ってるぜ!』


『他・力・本・願! って、そこのあなた?』


『うんうん。この会話、全方向に通信魔法で飛ばしてるから』


『なっ』


『いや~、保護もかけてないフリーな魔導波だから、聞いてる人、びっくりするだろうなぁ』


『止めろ!』


『という訳でそこで聞いてる君! とりわけクソ国家の犬ども、そして勇者パーティー、夜道には気をつけるんだぞ!』


『もう、すげぇわお前。向かうところ敵なしかよ』


『”魔王”が成敗しに行くぞ!』


『自分でやれー!』


『じゃあ、ばいばーい。また会おう!』




 通信が終わったようだ。テンポの良い会話に俺はつい聞き入ってしまっていた。


「いやいや、待って!? ついラジオ感覚で聞いちゃったけど! これ、やばい通信だよね!? 魔王って言ってたよね!? ラスボスだよね!? って元王国騎士団の人、無敵じゃねーか! 勇者に裏切られておいてお気楽すぎるだろ! そして復活ってなに!? あと……」


 ために貯めたツッコみが濁流のように出てくる。周りに人がいないことが幸いした。


「ふ、ふぅ。まぁ、まだノンフィクションと決まったわけではないからな。コント的な何かだろ…」


 あまりに現実離れした配信内容に、俺はいったん落ち着くことを選ぶ。

 頭の中でいろいろ考えながら、ボーっとすることを再開した。


(やべぇ。続き気になる……)



 謎の通信後、流石に体を動かそうとヒノキの棒を振って自分を鍛えること数時間、俺の頭の中からは先ほどの内容が離れないでいた。

 再度魔道具にノイズが走る。


(どっちだ!?)


、配信始めるんかい!』


 先ほどの少女の声が聞こえて、俺は急いで魔道具に耳を傾ける。


『善は急げだよ、魔王』


『どこに善があるんだ……』


『まぁノリの悪い魔王は置いておいて、今回は朝食前に”魔王城を案内!”のコーナーです』


『朝の軽い体操みたいなノリで、機密情報漏らすのやめて貰えないか?』


『確かに魔王の言い分は正しいです。そこで~、今から王国の秘密を教えちゃいます!』


『すげぇよおま、君は』


『知りたくないの?』


『いや、ここは素直に貰っておこう。有益な情報ならこの無意味な戦いを終わらせられるかもしれない』


『王国の秘密は……』


『秘密は?』


『でけでけでけでけ……』


『タメが長い!』


『デーン! 王都の三番街にある定食屋には秘密の裏メニューがある! でした!』


『どうでもいいわ!』


『いやー、あれめっちゃうまいんだよ。職場近かったから良く通ったな……』


懐古かいこに浸るんじゃない! え!? ほんとにそれだけ? 王国の秘密って』


『本当は誰にも教えたくなかったんだ。昼時に混雑すると困るからね!』


『お前の秘密やないかい!』


『もぅ、お前って言わないでよ~』


『こういう場合は言わせろ!』


『まぁいいよ。確かに君の秘密やないかい! だとテンポ悪いよな、流石魔王だ』


『それはもうどうでもいいわ。で、王国の秘密は無いのか?』


『俺みたいな下っ端が知ってるはず無いじゃん』


『だと思ったわ』


『はい! という訳で、居酒屋”定食屋”さん、広告待ってます!』


『それが名前なんかい! そしてちゃっかり営業するなー!』


『魔王も温まってきたことですし、”魔王城を案内!”のコーナーに戻りまーす!』


『おい! 流すんじゃない! 情報が釣り合わなさすぎだろ! もうお前王国のスパイだろ!』


『王立銀行さん、俺の口座お願いしますね?』


『前回のこと反省してんじゃねーか! もう無理だよ! 諦めろよ!』


『はぁ、まぁいいですよ別に……』


『流石に口座の凍結は君でも落ち込むのか……』


『流石にね、うん。騎士団に入って10年間、遊ばず貯めたお金が消えるとなると、ね?』


『お、おい。そんなに落ち込むなよ。今配信中だぞ?』


『うぃー、じゃあ、みなさんはりきっていきましょー』


『クソッ、やりずれぇな』


『まおうのへやどっち?』


『あぁ、まっすぐ進んで右側の部屋だ』


『ありがとう! さぁ皆さん! 最初、ご紹介するのは魔王の自室です!』


『は?』


『さぁ走れー!』


『待てこらー!』


(まじで魔王城なのか?)


 あまりのライブ感に、俺は現実を受け入れようとしていた。


『と、いうことでですね。ここが魔王の部屋です! うわーかわいいー!』


『お前転移魔法使いやがったな? そんなもの使えるなら、ここから出ていけ!』


『俺の転移魔法は一か月貯めた魔力で、さっきの距離が限界でーす!』


『そんな切り札をで使うなー!』


『切り替えていきましょー! 魔王の部屋にはぬいぐるみがたくさんあります。おやおや、机の上には……』


『見るな!』


『なんとっ! 魔王のぬいぐるみは自作だったのです! これはすごい情報を知っちゃいました!』


『そして公開するな!』


『くまちゃんに、ねこさん、これはいぬくんかな?』


『声を優しくするな! 子供じゃないわ!』


『遠いところにいる皆様に詳細な情報をお伝えするため、不詳このムデル、解説をさせていただきます』


『またなにか始まったぞ……』


『目の前に広がるのは天蓋てんがいの付いた、やわらかいピンク色のベットを中心とする、ぬいぐるみの天国だった。ほのかにバラの香りがするその部屋は……』


『やめろ! 恥ずかしいわ!』


『はぁ… 魔王ねぇ、これ音声配信なの! 情景描写が大切なの! まぁ、いずれ映像配信にも挑戦してみたいけど?』


『それは許さないからな』


『けちー、って言っても俺、映像を魔導波に乗せられるほど魔力無いんだけどね』


『っていうか受信してもどうやって見るのだ……』


『今後に期待ですね? 魔王さん』


『はい、私も魔導技術の発展に非常にきた……って私は解説者じゃないわ!』


『いいねいいね、ノッてきたねー。では、次の場所に行ってみましょう!』


『流れで次行こうとするな!』


『次は……』


『マオウサマ、ゴハンサメマスヨ』


『すまんなゴレ6号、この馬鹿に付き合っていた』


『これだ! ……はい! 魔王城は、他のでここのマスコット、ゴーレムのゴレ6号にお越しいただきました!』


『企画倒れじゃないかい!』


『6号さんは、家事から戦闘までなんでもできちゃう、魔王城にかかせない存在です! 料理はプロ級だぞ!』


『ごれごれ~』


『ん?』


『では6号さん、配信を聞いてくださっている方々に一言お願いします』


『僕はゴーレムのゴレ6号ごれ! みんなにはもっと魔界のこと知ってほしいごれ! 人間、魔族、ゴーレム、みんな友達ごれ~』


『普通にしゃべってる!?』


『はい、ありがとうございました! 6号さんは平和主義者なんですね~』


『そうごれ! 暴力ダメ絶対ごれ!』


『さすが6号さん、よっ、魔王城のマスコット!』


『ごれ~』


『いやいや、朝普通にあいつを殺そうとしていたよね!? ってそれはどうでもいいわ! 普通にしゃべれるんかい!』


『マオウサマ、ナンノコトデスカ?』


『え? え? どういうこと?』


『ごれごれ~』


『ってお前か! 声真似うますぎだろ!』


『もう魔王ったら、配信中のネタバレは禁止ですよ!』


『知るか!』


『魔王のせいでやらせがばれてしまったので、今回はここまで!』


『やったのはお前だー!』


『ばいばーい』



 再度通信が終わる。俺はこのライブ配信を楽しんでいた。


「いやいや! 魔法使い、声真似うますぎだろ! もう声優で食っていけるよ! それより彼は大丈夫なのか!? 王国に指名手配されるんじゃ……まぁこんな突飛とっぴな内容誰も信じないか」


 配信の内容があまりにも現実離れしているので、誰かのいたずらだと思われて終わりだろう。

 それにしても魔王が可愛すぎる。魔王って、こう、威厳のある渋い声のイメージだったんだが?

 俺の想像する魔王像は少し古いのかもしれない。

 

 この世界にも配信で楽しんでいる人がいるんだ、と思いながら俺は持ってきていたサンドイッチのような物を食べていた。

 食事を終え、鍛錬を再開しようとしたその時、魔道具から声が聞こえる。


『っというわけで、今回の議題はこれ! ”勇者多過ぎ問題”です!』


『いきなりはじめるな!』


『皆さんおはようございます。俺は……』


『配信の間隔短すぎだろ! 1時間も経ってないぞ!?』 「配信ハイペース過ぎない!? あ……」


 ツッコみが魔王と被ってしまった。


『はい、ご飯を食べながらの配信となりますが、ご容赦ください』


『マオウサマモドウゾ』


『ゴレ6号、わざわざありがとうな』


『6号ありがとう! ん? まてよ』


『どうしたんだ?』


『いや~、食べながらの配信って、咀嚼音そしゃくおんとか入っちゃうじゃん?』


『ああ、配信やめるか?』


『いや、なんかこれ使えないかなぁ、って』


『どうやって使うのだ?』


『人が食べてるところを聞いて、満足するんだよ。なにか新しいブームを起こせそうな予感……』


『それは無いな。食事とは基本、目と口で楽しむものだ』


『やっぱりそうだよね。なんかいけそうな気がしたんだけど』


『おい、この配信グダグダだぞ……』


『おっと失礼! 皆さんも気になっている本日の議題について話しましょう!』


『結局、食事は取るのか?』


『食べながら話すのはなんかあれだし、とりあえず食べちゃおうか』


『そうするのか……』


『……』


『……』


『……』


 (ASMRかな?)


 二人の咀嚼音が続く。


『……』


『……』


『おい! これはまずいだろ! 配信だぞ?』


『うーむ… 咀嚼音配信、需要があるのなら意見待ってるぜ!』


『どうやってだ!?』


『よしっ、一旦食事は置いておいて』


『やっぱりこうなるのか……』


『魔王にしつもーん!』


『なんだ?』


『最近、勇者と戦ったのはいつですか?』


『最近か。2ヶ月前かな』


『お! 結構最近』


『私が戦うことはめったに無いぞ』


『まぁそうだよねー。魔王城周辺の魔物モンスター強すぎだし』


『そもそも最近の勇者は”人数が多い”だけで弱すぎる、というか個性が無い』


『昔は良かった的なやつですか?』


『そうだ。前の勇者はな、もっと、なんというか、しんがあったんだよ』


『ここ数年で勇者の数は爆発的に増えましたからね』


『確かに多いとは思っていたが、どのくらいだ?』


『えーっと、大体10人に1人?』


『多すぎるわ! え? どうなっているの? なんで?』


『もぅ、解説者さんなんですから、しっかりしてくださいよね』


『知らん知らん! 人間のことなど知らんわ!』


『はい。勇者の数は多くなっているんですが、魔王城に辿り着くのは極一部ということが分かりましたね』


『流すなー! なんでそんなに勇者がいるんだよ!? 私はそいつら全員を敵にしている訳か!?』


『はい! 全員魔王を倒しそうと頑張っています!』


『来るな! 面倒だわ!』


『まあまあ落ち着いて。でもここまで来れる勇者ってどのくらい強いんですかね?』


『はぁ… そうだな、前戦った奴らは力が強かった』


『大雑把すぎるわ! って俺はボケなんですよ。しっかりしてください魔王……』


『仕方がないだろ。あいつら力技だけだったからな』


『どのくらい強かったのか、具体的に聞いていいですか?』


『そうだな、城くらいの大きさの岩を投げてきたぞ』


『脳筋か!? ってまたやっちまった。くそっ、勇者め!』


『大丈夫か? 君は……』


『まぁいいや。でも、なんで魔王城は健在なんですか? 流石にやばかったんじゃ……』


『その程度の攻撃、我が防げないとでも?』


『どうやったので?』


『これ配信されているんだろ? 手の内を明かすのはダメだ。それは許容できない』


『そうですか……』


『どうした? 今回はやけに素直だな』


『お腹すいたので今日はここまで!』


『終わるのもいきなりか! お前が始めたんだろ!』


『ばいばーい!』


『これ聞いている奴いるのか……?』



 配信が終わったようだ。

 やる気に満ちあふれている新人配信者のようなペースに俺はほんわかした気分になっていた。


「違うわ! やばいって、これ! 本物の魔王疑惑が出てきたよ!? 大丈夫なのか!? あと魔法使いの人、君は生まれる世界を間違えたよ……」


 具体的な勇者に関する情報と、やけにリアルな魔王の反応が配信の信ぴょう性を上げてしまっている。



「スジョウ、ねぇ、スジョウ!」


「わ、びっくりした」


 しばらく配信の内容を思い出しながら、考えを巡らせているとフィアに話しかけられた。彼女の隣にはディアベルがいる。


「何考えこんでいるのよ」


「いや、さっきこれから面白い通信が入ってね」


 耳に着いた魔道具を見せながら、俺は配信の内容を説明しようとする。


「なんと! 魔王が謎の音声配信をしていたんだよ! 魔王城から! すごいと思わないか!?」


「はぁ、あんたおかしくなっちゃったのね。ディアベル、あの魔道具の保護はどうなっているのよ?」


「違うって! 攻撃を受けていたわけじゃ……実際に聞いたんだよ!」


 ディアベルが俺の着けていた魔道具に何かの魔法をかける。


「ごめんね、スジョウちゃん。精神系の魔法対策はしていたのだけど、特定の通信は入ってくるようになってしまっていたわ。誰かのいたずらを受けてしまったのね、可哀そうに……」


「違うんですディアベルさん! これは……」


「もう大丈夫よ。これで私の許可した通信以外は弾かれるようになったわ」


「ファミリーセーフティかな!? って違いますって~」


 必死の説明をしても虚しく散ってしまう。


 俺は、魔王と魔法使いが今後配信で成功することを祈って、この経験を胸の内にしまうことにした。

 この時代で魔王をしている方、本当にご苦労様です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る