勇者の時代編
第20話 追放の始まり?
「起き…」
(あれ? このくだりは…)
「起きてください」
「もういいよ! 何回目だよ!」
「大丈夫ですか?」
「え? 誰?」
俺は巨大な魔法陣が描かれた石畳の上で寝かされていた。目の前には知らない人たちがいる。
(あれ、ここは外か? 俺は魔の洞窟の中に入っていったはず…)
「おいおい、こんなやつと一緒に俺は戦わなきゃいけねーのかよ」
「申し訳ありません勇者様。彼は他世界から召喚され、混乱しているのです」
「ちっ、即戦力だと思ったのに使えねーな」
(なんかいろいろ言われているんだが…)
「あのー… 状況を説明してもらって良いですか?」
「それなら、俺がしてやるよ」
第一印象が最悪な、チャラそうな勇者が話しかけてくる。
「俺は勇者、魔王を倒すために召喚術で異界から戦力を読んだわけ。まぁ、出てきたのがお前みたいな雑魚とは思っていなかったがな。どうなってんだ魔術師?」
「いえ、彼は… あーすみません。彼は勇者の素質”無”ですわ」
「「「はぁ…」」」
勇者はじめ、周りにいたパーティーメンバーっぽい人たちがため息をついている。
(意味が分からん。この会話も試験の一部ということか? ということはもう始まって…)
「まぁいいや、お前、”クビ”な」
「っていうかまだパーティにも入ってないわ!!!」
異世界に召喚?されてから
「うーん… どうしたものか…」
俺は町中を歩きながら考えていた。
「ちょっとツッコみどころ多すぎたんだよね。ってかなんで路上で召喚されてたんだ?」
普通勇者召喚の儀は、玉座の前や大広間などの室内、そうでなくても地下など意味ありげな場所で行われるのがテンプレだ。
(どう見ても路地裏のテキトーな場所だったんですが…)
「これも試験? なのか? …とりあえず情報を整理しよう」
俺は、ドラゴンを食べた謎のテンションで”魔の洞窟”へと向かった。その後にこれだ。
(フェレさんになんかいやーなこと言われたような気がするんだけど…)
うまく記憶を掘り起こせない。
(まぁ試験なんだろうな… でもどうすればいいんだ?)
『勇者パーティーに入って魔王を倒せ』なら分かる。ただ、俺は開幕で追放され、今は放浪の身だ。
「魔王かー、うん、無理無理!」
(だって、あのいかにも”かませ”な勇者でも『筋力:200』あったんだよ…)
「はぁ… ソロで魔王討伐か…」
「あらあら、おひとり様なんですか?」
独り言を言っていると、栗色の長い髪を持つ、糸目が特徴的な落ち着いた雰囲気の女性が話しかけてきた。
「あ、はい。お恥ずかしいことに、今しがたパーティをクビになって…」
(うわぁ… 超美人な人だ…)
「おかわいそうなこと。良かったらママにお話ししてみない? ほら、人に話すと楽になるって言うでしょ?」
(自分のこと”ママ”って言ったよこの人! …まぁいいか)
俺は、彼女の
「あらあらまあまあ。そのようなことがあったのね」
「そうなんですよ… 俺はこれから一人で魔王を倒すことになりそうで…」
ディアベルと名乗った彼女に、俺はこれまでのことを掻い摘んで話していた。もちろん”試験”のことははぐらかしてだ。
「そんなに背負わなくてもいいのよ。スジョウちゃんはスジョウちゃんの人生を生きればいいのだから」
「ママぁ… はっ! 危ない危ない」
(くそっ! この人は危ないぞ! 無意識のうちに幼児退行しそうになる)
「俺は田舎の出身で、今の世の中について良く分かっていないんです。平和な村だったもので魔王の脅威とかもあんまり感じていなくて…」
「あらあら。良く頑張ってここまできたわね。スジョウちゃんは偉い子よ」
「えへへぇ」
「じゃあ、軽く人間の、いえ、王国の現状をお話しましょうか?」
「お願いします」
「今、私たち人間は魔王への攻勢を強めているの。理由は分かっているのかな?」
「いえ、分かりません」
「うんうん。それはね、私たち人間の中に急に”勇者”の素質を持つものが増えたからなの」
「はぇ~」
(ん? なんか聞いたことあるな)
「だからスジョウちゃんみたいな純粋な子も戦闘に駆り出されるのね… 嘆かわしいことだわ…」
「えーっと、勇者って今どれくらいいるんですか?」
「そうねぇ… はっきりした人数は分からないけど… 10人に1人は勇者の素質を持っていると言われてい…」
「”勇者の時代”じゃねーか! タイムスリップだよ! それとも再現なのか!? さっきテキトーな場所で召喚されたときに勇者を見て薄々察してたよ! イ・ン・フ・レだよ! あんな奴が強くていいはずねーよ! こんな時代で俺が生き残れるはず無いよ!!!」
「あらあら。面白い子ね。ちなみに私も勇者よ」
見た目が完全にファンタジー世界の主婦であるディアベルも勇者だった。
「魔王様、お疲れ様でーす!」
再度、俺は”この時代”の魔王に同情してしまった。
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