第16話 好感インフレ 黒

「アンスさん、お疲れ様です、俺、なんにも役に立てず申し訳ない……」


「おう、旦那! 勢い余って吹き飛ばしてしまったぜ! がはは!」


「アンス。すまないが、スジョウとの共有を切ってもらえないか?」


「いや、このままでいいんです……僕は役立たずなんでこのままのほうが……」


「いや、いいよ、旦那。は元々私様のもんだ」


「俺みたいな雑魚が役にたつ方法なんてこれしか……」


「いんや、違うね。旦那がいてくれたから、私様は強くなれたんだ。それは不安があってもなくても同じさ」


「うむ。スジョウがいると、僕もいつもより力が出せるぞ」


「まぁあれだ。不安が戻っちまったら、たぶん言えなくなるから今言わせてもらうぜ。旦那、私様と結婚してくれ!」


「っ!?」


「アンス、君って奴は!」


「よーし、言うだけ言ったぞー! 今の状態の旦那に言ってもズルいもんな! はっはっは! 答えはいつか聞かせてくれ! んじゃ共有切るわ」


 そう言って、アンスは指輪を外す。


「ふ、ふぇぇ!? あ、あの……恥ずかしいですぅ」


「あ、うん。元に戻ってよかった……?」


 アンスは地面に顔を伏せ、動こうとしない。


「アンスさーん? あのね。うん、いろいろありがとね。大丈夫、人って意外と心の持ちようで性格変わったりするものだから、ね?」


「ふぇぇぇ、見ないでください……」


「うむ、抜け駆けは良くないが。”あの”アンスのおかげで助かったのだ。誇るがいいぞ」


「穴があったら入りたいですぅ」


 アンスは実際に穴を掘って、そこにこもってしまった。

 これは、復帰するのにそうとう時間がかかるぞ。

 俺は、アンスへの説得が長期戦になることを覚悟した。


 大丈夫だよと声をかけ続け、やっとのことアンスが穴から出てくる。


「おさわがせしましたぁ」


「よかったよかった。まぁ、これで一件落着? かな」


「ふぁぁい、私なんであんなことぉ」


 アンスはまだ顔を赤くしてもじもじしている。

 まぁ分かる。俺も恥の多い人生を生きてきたさ。


「てか、なんで俺狙われたんだろうな」


「魔王軍ではないようだったがな、スジョウはやっぱり特別なのだ」


「うーん、フィアーラって言えば……あー! あの四天王か!?」


「ふぇぇぇ、やっぱり魔王軍の報復ですぅ、怖いですぅ」


「俺にそんな価値は無いと思うんだけどね。まぁいいや。アンス、その指輪どうする?」


 俺は、彼女がまだ大切そうに持っている指輪について聞く。


「ふぇぇ、これはぁ、そのぅ」


「必要ないなら回収するけど」


「いえ、もらいます!」


 珍しく、アンスがはっきりした声で言う。


「そ、そう? 別にいいけど」


 何かあった時、俺ができるのはこのくらいだからな。


「ってマギスクさん? なんでそんなに不機嫌なの?」


「なんでもないぞ。ただ、アンスには負けてられないと思っただけだ」


「は、はい……」


「ふぇぇ、怖いですぅ」


 そういえばアンスの奴、『結婚』って言ってたよな。不安時の記憶を思い出してしまう。気にしない方が彼女のためでもあるか。


「ははは、はぁ……でもどうしたものかね。相手の魔族のレベルが高すぎて、とても『いざ魔王!』って感じじゃないな」


「スジョウ、それについてだがお願いしたいことがある」


「なんだマギスク?」


「僕は弱い。前回の魔族の時もそうだった。だから修行させてくれ」


「え、別にいいけど。どうしてそんなに改まってるの?」


 いや、マギスクさん。あなためっちゃ強いんですけどね。相手が悪すぎるだけで。


「それがだな……」


 マギスクが言いずらそうにしている。


「僕が強くなるには、訳があって村へと帰らなければいけない。だが……」


「いいじゃん! 絶対村の人も心配してるって。いい機会だから帰ったら?」


「す、スジョウもついて来てくれるのか?」


 そんなことを心配していたのか。

 俺の答えは決まっている。


「当たり前だろ! 俺たちはパーティ、仲間だ。なぁ、アンス?」


「私もマギスクさんの故郷に行ってみたいですぅ」


「そ、そうか! それなら良かった」


 俺は、今更何を心配してるんだかと疑問に思ったが、マギスクの故郷への期待が高まっていた。

 ドラゴンを常食してるような村だ。絶対面白い。


 そのような村で普通にすごせるはずが無いと、その時の俺は考えていなかった。


------


「ふむふむ、まぁまぁ面白くなってきたじゃん!?」


 薄暗い部屋に、何かを眺めている女性がいる。


「レキトイはなんか飽きてきたトイ」


「えー! レキトイの飽き性! 気分屋! 三日坊主!」


「そこまで言わなくてもいいトイ……」


「うーん、でもなにか足りないんだよねぇ、こう、村に行って修行して強くなりましたーってだけじゃ楽しくない」


「大丈夫トイ! あの村は、いかれた住民しかいないトイ!」


「もっとだよレキトイ、もっと面白くなってもらわなきゃ、『縺薙?菴懷刀縺ョ隱ュ閠』には満足してもらえないんだ」


「じゃあどうするんだトイ?」


「そんなのは簡単さ! 需要と供給! 物語の方向性を無理やりにでも、いじってしまえばいい!」


「でも、そんなことしたら良く分からなくなってしまうトイ……」


「そこは考えなくていい! みんな”楽しいもの”が好きだろ!? 面白ければ何とかなるのだ!」


「とりあえず、冒険譚なんてもう終わり! 次のジャンルは”霑ス謾セ邉サ”だ!」


「そのブームはもう終わったト……」


「これは楽しくなるぞ~!」


 そう言って、謎の女性は”何か”と向き合うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る