第13話 能力インフレ

「それは勘弁してください!」


「なによ、急に」


 俺はなぜか普通に話すことができる。

 この魔族からは、不思議と威圧感を感じない。


「”能力無効化系”能力者は使い方が難しいんです! まだこっち来て一週間経っていないんです! 冒険の方向性も定まってないんです!」


「こわっ、何を言っているのか全く分からないわ」


 マギスクとアンスも茫然ぼうぜんとしている。


「ちょっと待って。ということはあなた、なにか重要なキャラク……まさか四天王?」


「正解よ! まぁ私から溢れるオーラを感じれば当たり前かもね!」


 四天王の一人は、名乗る前に当てられたことが嬉しいのか、鼻を高くしている。


「ちがーう!!!」


「えぇ……」


「間隔が短い! 数日前に九魔将軍と戦ったばかりだよ!」


「そんなの私に言われても……」


「四天王の方、お名前は?」


「フィアーラですわ」


「うん、じゃあフィアでいいな。フィア、世の中には順序ってものがあるんだ」


「そんな気安く……」


「でだな、フィア。いきなり大ボスが……」


 俺はフィアに対し、物語とはこうあるべきだと、延々講釈を垂れるのだった。



「……ということだ。分かったか?」


「はい……」


「分かったならよし! 今日はこのまま帰って、ゆっくり休みなさい」


「そうするわ……」


 そう言って、四天王フィアーラは消えていった。


「すごいぞスジョウ!」


「スジョウさぁん、私、震えがとまらないですぅ」


 二人が駆け寄ってくる。


「流石僕のスジョウだ! 四天王相手にあの度量……大好き!」


 マギスクさん今日はやけに積極的ですね。

 抱きついてきたマギスクの好感度を確認する。150か、もうどういうレベルか分からないな。


「ほんとにどうやったんですかぁ、精神系魔法とかですかぁ?」


「いんや、直感でね。あの子、”バカだ”って思っただけ」


「ふぇぇ」


 そう、俺はあの魔族が馬鹿だと思った。案の定、俺のペースに飲まれてくれた。


「うむ。あやつ、スジョウのオーラに負けていたぞ」


 いや、たぶんオーラとか関係無いんですがね。

 正直、なんでマギスクが焦るレベルの相手の前で、立っていられたのかすら分からない。 ”能力封じ”の影響で相手の力量を見れなくなったからか? まぁそんなところか。


「何はともあれ、これで任務完了だ!」


 壊れた巨神の核を回収し、村へと報告に戻る。俺の初任務は、なんとかなったみたいだ。


 依頼者である村の村長に報告を行う。


「いやー、本当にありがとうございます! これ、完了書です……すみません、あそこの一帯、吹き飛ばしたみたいで」


「いやいや、それこそありがたいですよ! どうせ後で開拓する予定だったんです。手間が省けました! はっはっは」


「そうですか、なら良かったです。あと、この村って止まるところあります?」


「そんなことかい! 宿屋が一件あるから泊まっていきな。俺のおごりだ!」


「お言葉に甘えさせていただきますね」


 本来はリーダーであるアンスが対応するのだが、恥ずかしそうにしていたから俺が変わった。

 時間は夕方、出発は明日朝にして俺たちは休むことにする。


 外で適当に夕食をとって宿に着くと、その場で特大サイズのベットに倒れこむ。

 大きな部屋に3人がいた。


「つかれたー」


「お疲れ、スジョウ」


「お疲れ様ですぅ」


「皆もおつかれー」


「アンスまで同じ部屋って、別にお金がかかるわけじゃないんだぞ」


「ふぇぇ、やっぱりご迷惑でしたかぁ、そうですよね、私なんて……」


「いやいや、別に一緒の部屋でも良いんだよ! ね、仲間だし」


 でも大丈夫なのか? 仮にも男女だ。俺は、念のためアンスの好感度を確認する。


「ん?」


「どうしたんですかぁ、私の顔になにか……」


『好感:50』


(上がりすぎでしょー!)


「なにかあったら不安になっちゃいますぅ、お願いしますぅ、改善しますからぁ……」


「いいや、違うんだアンス。うん、えーっと、これからなんだけど、俺たちとパーティを組んだままでいないか?」


「ふぇぇ!?」


「嫌なら断ってくれていい。そもそもランクが違いすぎる」


「いえ、違うんですぅ、私とパーティなんて組んじゃったら、お二方に迷惑かけちゃいますぅ」


「評価がされないことなら気にしなくていいよ。これ、ただの身分証だから」


 冒険者カードを片手に説明をする。


「俺はギルドっていうより、ただ冒険がしたいだけなんだ。マギスクは……」


「僕はスジョウについて行くだけだぞ」


「と、いうことだ。俺は力不足だし、マギスクは魔法職だ。アンスのような強力な前衛がいてくれると助かる」


「ふぇぇ、ありがとうございますぅ。でも、こんな私ですぅ、絶対にめいわ……」


「いいよ、迷惑かけても。お互い迷惑かけ合おうじゃないか! それが仲間ってもんだ」


 人なんて皆、誰かに迷惑をかけて生きてるんだ。

 迷惑をかけて、かけられる。そのような関係を俺は望んでいた。


「そんなぁ、私、スジョウさんに……うぇぇん」


 泣いてしまったか。俺は泣いているアンスの頭をなでてあげた。


「ずるいぞ。僕にもだ」


「ははは、分かったよ」


 やっぱり、この子たちを放ってはおけないな。

 二人のチョロインの頭をなでながら俺に芽生えたのは、やはり親心のようなものだった。


------


 魔界某所、とある屋敷にて。


「もう! なんなのよ、あの男! 私をコケにして~!」


 四天王フィアーラは、ベットの上で悔しがっていた。


「ただ、どんな奴か見に行っただけなのに、ファシュトには怒られるし、トレディアには笑われるし……」


「もうっ、今日は本当に最悪だわ!」


「……でも、フィアって呼んでくれたのは、なんか良かったな……」


「私に対して、あんなに長くお話してくれたのは初めて… 他のみんなは、すぐに逃げちゃうんだもの」


 フィアーラは頬を少し赤らめている。


「ってだめよ。私は魔族、魔王軍四天王にして、ヴァフーデ家当主、フィアーラ・アデル・ヴァフーデ。人間の敵よ!」


「それになによ! 弱いくせにこの私にお説教かまして~!」



「名前、聞いとけばよかった……また会いたいな……」


 ここにも一人、好感度が上がっている者がいた。

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