時を超えて
「そろそろ始めるぞ、
俺———樹は魔法使いの政元さんの誘いに乗って、
相棒の伊織と室町時代へ行くことになった。
夢が叶うという高揚感が強いのは間違いないが、
先行きへの不安も時が迫るにつれて高まっていく。
とはいえ、人間の体を持った伊織兄ちゃんに会えると思えば些細なことだろう。
やはり、チャットよりも面と向かって話す方が楽しいだろうから。
「くぁwせdrftgyふじこlp!目指すは永正4年、いざ参る!」
部屋に政元さんの呪文が響き渡る。
言葉は聞き取れなかったが、幻想的な光が見えた気がした。
同時に、徐々に視界が奪われていった。
ふっと目を開けると、黒い煙が立ちのぼり、空が覆い隠されていた。
わずかに焦げ臭い匂いがする。
火事?
ヒューゥゥゥッ~
強い風が吹きつける。
同時に血のような匂いも運ばれてきた。
何が起こっているんだ?
「うわっ、ベトってした!これは血?」
わわっ、めっちゃ近くに人がいる!
どんな奴かと確認しようとして……
生温かい液状のモノが肌に触れた。
———赤い。血?
声が聞こえた方に目を向けると、
同い年くらいの少年が倒れていた。
これは……何があったんだ?
服が斜めに切り裂けて、赤黒く染まっている。
刃物で斬りつけられたのか?
「何があった?怪我はないか?」
「これでも怪我はないよ。ありがとう。それであの……君も怪我はない?君の服も大変なことになっているけど……」
俺も?
本当だ、俺の服も人に言えないくらい赤黒く染まっているじゃないか。
でも、怪我は全くない。
これだけ血が付いていて、怪我ひとつないなんて、そんなことあるのだろうか。
「ぜえ、はぁ。おー、いたいた。
政元さん?
ひょうきんな声に天狗の格好。
俺は政元さんしかそんな人は知らない。
「相棒君は人間の体に不自由はないかい?」
相棒君?
「うーん、まだ慣れていないので……。でも、使いこなせるように頑張ります!」
隣の少年が答える。
政元さんが相棒と呼ぶということは政元さんの知り合いなのだろうか。
でも、会話がどこかおかしく感じる。
人間の体に慣れていない?
使いこなせるように頑張る?
もしかして……伊織兄ちゃん⁉︎
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