【祝🎉1万PV達成】無能貴族に転生、赤子で捨てられ始まった魔王道〜美女悪魔に育てられ、いつしか剣術・魔術を扱う最強の一角として成り上がる！？〜

第11話 俺、奴隷なんて連れてませんけど

　ピカピカに掃除された廊下。

　床に敷かれてある真赤な絨毯（じゅうたん）。

　それにすれ違うたびに浴びる冷たい視線。

　編入生がそんなに珍しいものなのか？と疑問に思いつつ、周りに気を配りながら廊下を歩いていた。

「なあ、姉ちゃん。さっきからやけに視線を感じるんだが」

「ごめんね、それお姉ちゃんのせいかも」

「どういうこと？」

「えっとね、本来、人は契約獣を使役するの。お姉ちゃんみたいな人の姿をしてる生き物じゃなくて」

「でも、その話だと……姉ちゃんが悪魔ってバレてるってことじゃ」

「ううん、そうじゃないけど……お姉ちゃん、ネオ君の奴隷だと思われてるみたい。それも平民が奴隷を連れてるって感じ？」

「あ～なんとなくわかったよ。まあ仕方ないよな。姉ちゃんと俺、ある意味特別な関係だし」

「と、とととくべちゅな関係って……きゃあああああ！　お姉ちゃん嬉しいわ。そんな風にお姉ちゃんを見てたのね。そんな悪い子にはお仕置きよ」

　姉ちゃんのテンションが爆上がりだ。

　これじゃ止めようにも止められない。

　その時だった。生徒会長が校舎内ではしゃいでいる俺と姉ちゃんに話しかけてきたのは。

「平民の分際で何を騒がしくしているのかしら？」

「うわ～」

　思わず口に出してしまった呆れた声。

　それに反応したのか、生徒会長は突然逆上してきたのだ。

「ふふ、その反応さすがは無粋な平民ね。名門貴族であるわたくしに頭を垂れないとは何事かしら」

「げっ……」

「……あなた面白いのね」

　ちょっと待てよ。口は相変わらずなものの、まったく嫌味を感じないのはなぜだ？

　初めて会った時は、威圧感もあったのに今は違う。まあ「無粋な平民」とか言われたら、さすがにこいつ何だよってなるけどそれ以外は……。

「おいおい、会長があんな男と親しげだぞ」

「うわ、マジか。あの会長が！？　オレ達に笑顔なんて見せたことないのに」

　所々聞こえてくる他の生徒の声。

　確かに挨拶した時も笑っていなかった。

　けど今はクスクスと口を押さえて笑っているようにも見えた。これが彼女のほんとの姿なのか？

　だいぶと印象が違う。いや待て、演技をしてる可能性もある。

「あの子の笑顔は本物だよ」

　そう耳元で囁く姉ちゃんの声に俺は頷いた。

　長年生きてきて、人嫌いな姉ちゃんがそうだって言うなら間違いないはず。それだけ長年人間（ヒューマン）を見てきたはずだからだ。

「おほん、では失礼。無粋な平民」

「平民は余計だっつうの」

　しかし意外な場面に出くわした。

　俺と生徒会長を見てた他の奴も言ってたけど、今まで笑ったことがないのか。

　それなのにどうして……笑ったんだ？

　でも学園長があそこまで彼女のことを言っていたのも気になる。一生徒に対してあそこまで言うって普通あり得るか？　いや、ないだろう。

　それに会長に魔剣大会で勝利して学園長に何のメリットがある？　

　俺は勝利するメリットがそれなりにあるが……。

　学園長には……そこだけが謎なんだよな。

　まあいいか、教室に向かおう。

　確か一限目は、“魔法に関する基礎”だったか。

　教室の前に着くと、中からは講義をしているであろう声が聞こえてきた。

「魔術にはは本来、詠唱なるものを必要としますが、術式――いわゆる計算式みたいなものです。それを把握していると、このように無詠唱で行使できるのです」

　少し聞いただけでも、本格的な講義だと実感できた。それに改めてここは異世界なのだと実感もできる。っていうより、講義が始まってるということは……俺、遅刻してるんじゃね？

「そこに気配がありますね。入りなさい」

「は、はい」

　教室の扉を開けると、まるで大学のような階段状に机と椅子が並べられていた。何十人もの生徒が講義を受けてるようで、皆が俺に注目する。

　今、思えば貴族の生徒と平民の生徒とでは制服の色が違うみたいだ。貴族は赤い制服で胸元に鷹が描かれている。

　そして平民は緑の制服で胸元には何も描かれていない。

　てっきり学年ごとに制服が違うと思っていたが、身分によってだったのか。

　階級社会ならではといった感じだ。　

「君が編入生か。学園長から聞いている」

　黒髪に魔導帽を被った30代ぐらいの女性。

　一見、大人しく地味な感じの教師だが、

「はい、ネオと言います」

「あたしはシャロンだ。家名は？」

　言葉遣いも結構男っぽい。

　クール系ってやつかもしれない。

　でもこういうタイプの女性の方が俺的には話しやすい。

「おい、聞いているのか？」

「えーっと何でしたっけ？」

「家名は？　と聞いたんだバカモノ」　

「家名はありません」

　その言葉で教室の中がザワザワし始めた。

　やっぱり家名がないのは、違和感しかないのか。

「だったらネオでいいな。隣の女は？」

「ああ、えっと姉ちゃんです」

　ザワザワしてた教室が一気に静まり返った。

　こいつら全員ほんと忙しいやつらだな！と、心の中で叫びつつも、姉ちゃんをどう説明したらいいかわからなかった。

　すると、一人の男子生徒が声を上げた。

「なあ、オレ噂で聞いたんだけどよ。あの女、そのネオっていう平民の奴隷らしいぞ」

「マジかよ！　でも平民で奴隷買う金なんてあんのか？」

「知らねぇよ、んなこと。きたねぇ仕事でもして稼いでんじゃねぇの」

　さんざんな言われようだ。

　奴隷を買っただの、そもそも汚い仕事ってなんだよ。それにいかにも平民が金持ってない言い方しやがって。やっぱ気に入らないな、貴族っていう連中は。

　まあ、でも実際金を持ってないのは事実だけど。それに姉ちゃんのヒモでもあるけどね。家も姉ちゃん、食費も姉ちゃん、学費も姉ちゃん、さらにはお小遣いまで姉ちゃんだ。そう、俺の姉ちゃんはそこらの貴族より金持ちってことだ。

　だって姉ちゃん魔国の第一王女だし、今は単にそれが嫌で逃避行してるだけの話だし。

「ネオ君のお姉ちゃんです。名前はリリスって言います。みんなよろぴくね！」

　キャラ変してる、だと！？

　俺にはあんなぶりっ子キャラ見せたことないぞ。

　どちらかと言うと、いつもは完璧なまでのお姉ちゃんキャラで母性本能がもうすごいのよ。それにすぐ甘やかしてくれるおかげで俺はどんどんダメ人間へと進化してる気がする。

　そんな姉ちゃんがこいつらの前ではぶりっ子キャラだと。

　この中の男子を狙ってるのか？

　それとも女子か？

　でもよくよく見ると結構可愛い子が多い印象だ。

　これは当りかもしれん。

「何だ姉か……本来は契約獣を連れ、ともに受講するのが基本。これはどういうことだ？」

「学園長から許可もらったぴ！」

「そ、そうか……なら仕方ない。ちなみにどういった理由で」

「ネオ君は自分のことがな〜んにもできないお姉ちゃんっ子なの。だから、面倒を見てあげないとダメなの」

「ネオ、できるようになるんだ！」

　俺に笑顔を向けているシャロン先生だが、目が全然笑っていない。あれはどう見ても怒っている、というよりイライラしてる様子だった。

　それもこれも姉ちゃんのせいだ。

「せんせ～い、確か独身なんっすよね」

　ひとりの男子生徒が声を上げると、シャロン先生の顔色が一気に赤く変わり始めた。

　そろそろやばいんじゃないか？

「それが何だ、独身だが……文句あるのか！？」

「うわっ、先生こっわ。そんなんだから結婚できないんっすよ」

　なぜ、あいつはすぐに喧嘩を売る？

　俺に飛び火来たらどうしてくれんだよ。

　何か恨みでもあんのか、あいつ！？

「できなくて悪かったな。いっそ先生もネオにもらって貰うのも……」

「ねぇ、大人しくしてると思ったら大間違いだよ。お姉ちゃんのことはボロカスに言おうと構わない。けどね、ネオ君を巻き込むようなことはしないで」　

　そんな姉ちゃんの言葉に教室にいた生徒全員が静かに頷いている。

　姉ちゃん恐るべし。

「さて君らが黙ったところで講義を……その前にネオあそこに座れ」

　シャロン先生が指さした場所――そこはひとりポツンっと最後尾に座っている女子生徒の隣だった。