第12話 俺、友人ができた

 シャロン先生に言われた席に座る。

 すると隣の女子がまじまじと俺の顔を見てくるではないか。


「初めまして……」

「お、おう。初めまして」

「綺麗なお姉さんだね」

「まぁ……」


 それ以上会話が続かなかった。

 もともと大人しい子なのだろう。

 気品もあって基本無口。

 ノートも一生懸命取っているあたり頑張り屋さんなのは明らかだ。


「魔術は詠唱、だったら錬金術は? ネオ答えてみろ」


 そんなシャロン先生の問いに俺は答えられるはずもない。ていうか、まだ通い始めて初日だぞ。答えられないに決まってるだろ! 

 おまけに今までそんな知識教わったことすらないのに……。


「いえ、その……」

「何だ、わからないのか?」


 その時だった。

 隣の彼女が耳の側で呟いてくれたのは。


「合成だよ」


 そう言われた通り答ると、


「合成です」

「正解だ、編入生にしては優秀じゃないか」

「そ、それほどでも」


 俺は素直に「ありがとう」と礼を言うと、彼女は頬を赤く染めた。

 けど、またすぐにそれは元に戻り、ノートとの睨み合いを始めた。静かで真面目、そして優しい。

 姉ちゃんとは真逆だ。優しいは一緒だけど。


「錬金術は主に素材と素材を合成したうえで、魔道具と呼ばれるもので作る。皆が日常的に使っている剣や銃もそうだ。それらもすべて錬金術が存在するからこそ成り立っている、というわけだ」


 講義は淡々と進んでいき、気づいた頃にはチャイムがなっていた。


「本日はここまで。しっかりと復習しておくように。最後にネオ、あとで教員室に来なさい」


 それだけを告げ、シャロン先生は教室を出て行った。

 さっきの礼を言おうと隣を見ると誰もいない。

 彼女はもう教室を出ようとしていたのだ。

 俺は慌てて呼び止める。


「ねえ! 君、待ってくれ!」

「わ、わたしでしょうか? えっと……わたしに何か用ですか?」

「さっきはありがとう。おかげで初日そうそう恥をかかずに済んだよ」

「どういたしまして……」

「俺はネオよろしくな」

「わたしはサラ・アルデンティです」


 サラの制服を見る限り、貴族が身に着けている制服だ。ということは、この子も貴族。

 何か悪いことしちゃったな。


 平民の俺と話したら他の貴族に目をつけられる。そんな考えもよぎり、俺は軽く挨拶を交わしたあと、すぐにサラから距離を取った。

 そして教室から出ると、


「待って……ください。わ、わたしと友達に……」

「俺と友達になってくれるのか? 貴族の君が? 平民の俺と?」

「……はい、もしよかったらですけど」

「これからよろしく。サラさま」

「さま、はやめてください。友達はもっと気楽な感じだと本で読んだことあります。だから……」

「そうか、だったらよろしくサラ」

「うん、あのわたしもネオって呼んでいい?」

「ああ、好きに呼んでくれ友達だからな」 


 嬉しいことに初日にして友達ができた。

 でも、姉ちゃんの視線がさっきからズキズキ刺さる。


「えっと、その姉ちゃんどうしたのかな?」

「女の子のお友達なんてお姉ちゃん聞いてないよ」

「いや、知らんよそんなこと。たまたま初めての友達が女の子だっただけで」

「お姉ちゃんは許さないから。その子とエッチな関係になるの」

「はあ! な、何言ってんだよ! そんなこと俺は一度も考えたことねぇし」

「ホントかな~? 知ってるんだよお姉ちゃん。夜、こっそりとお姉ちゃんの身体をまじまじ見ながら――」

「姉ちゃんそれ以上は禁忌に触れる。こんな純粋な子の前でそんなこと……」


 姉ちゃんは俺の反応を見てクスクス笑っている。

 それよりもこんな公衆の面前で暴露されそうになるとは、予想打にしてなかった。ギリギリのラインで話を止めたからいいものの、サラは何のことか理解できていない様子だった。幸いなことに。


 けど、周りの男子の視線が痛い。

 そりゃ自分の姉であんなことやこんなことしてたら悲観の目で見られるのも当然。そういう相手がいないっていう証明になるからだ。

 だから姉の身体を見て欲情し盛っているのだと。


「俺の学園生活終わった……」

「ネオ君、どうしたの? 元気ないよ。毎晩あそこは元気なのにね」

「ちょっと黙っててよ」

「お姉ちゃん何か悪いことした?」

「えっ! マジで! 自覚ないの!?」


 俺の敵は生徒会長じゃなくて、身近な人物だったということだ。

 それも俺をここまで育ててくれた姉ちゃん。

 姉ちゃんが側にいる時は油断してはいけない。

 ただただそう思った。

 何をするか、何を話されるかわからないからだ。

 油断した時には、俺の裏話をコソコソと誰かに広めるかもしれない。


「……ネオ大変だね」

「ああ、これが俺の日常だよ」

「わたしはこれから実技があるから行くね」

「じゃあ、またあとで」


 サラと別れた俺は次の講義が始まる場所に向かった。

 そんな感じで一日、また一日と過ぎて行くのだ。

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