第27話 マムシ妻の正体

~大広間~

2日前、ジャガー領から龍景たちがマムシ妻と人族を連れて帰ったので、これから一族会議だ。

「じゃあ、龍景から報告を頼む。」

「はい。黄虎から、龍兎のマムシ妻とスミレという名の解放軍の人族の引渡しを受けて参りました。 マムシ妻の尋問は竜波様が担当されました。」

竜波が立ち上がって報告を始める。


「はい。まず、マムシは龍兎に嫁ぐ前から解放軍の仲間だったそうです。」


「は、はあ!?」

どよめきがおきる。

「マムシ妻は、マムシ商人の娘ではありませんでしたわ。使用人としてマムシ商人の屋敷に潜り込んでいたところを、龍兎との縁談を嫌がったマムシ娘の代わりに嫁いできたと。」

「ええ!?また替玉ですか?」

「はい。マムシ商人一家も、本来嫁ぐはずの娘もマムシ本家炎上で死んでおりますので、確認はできませんが、マムシ妻から悪意は感じないと龍灯様が仰るので間違いございません。」


「なぜマムシ妻は、マムシ商人の屋敷に?偶然ですか?」


「それが・・・解放軍のスミレという人族の指示だったそうです。商人屋敷に潜入して探れ、もしも紫竜うちと接触の機会があれば知らせろと命じられたと。

そうして潜入して何年か経った後、マムシの商人が花嫁の替玉を探していたので立候補したそうです。 そして龍兎に嫁いだ後は紫竜本家に潜入しているトンビと情報のやり取りをしていたそうです。」

「え?スミレという人族というと・・・」

「ええ、今回引き取らされた解放軍の人族です。両目が見えず、片腕も半分ありませんが、命には別状がなさそうですわ。 驚くべきことに、かつて黄虎本家で族長の奥様が聞き取りをした人族だそうです。」

「え!?あの時の!?まだ生きていたんですか?」


「ああ、驚くべきことに黄虎は生かしていたらしい。あの時の人族で間違いない。」


龍希は断言した。

「黄虎はなぜその人族を解放軍に返そうとしているのでしょう?」

「分かりませんが、人族から虎の臭いは全く感じません。ジャガーの臭いだけです。」

これには龍景が答える。


「黄虎の意図は分からねぇが、取引だからな。スミレは解放軍の巣の近くに放してやる。 マムシ妻は処分するが、当時のマムシ族長もマムシ妻の実家も皆死んでるし、おそらく何も知らねえ今のマムシ族長代行を殺しても意味がねえ。

それに妻の替玉が解放軍だったなんて公表できねぇし、マムシ族への制裁はマムシ妻の逃走による龍兎への結納金返金と、全取引打切りにしようと思うが、いいか?」


龍希の提案に反対意見はなかった。

「よし!龍兎は現時点でマムシとは離婚だ。マムシの処刑は竜波に任せた。」

「は!」

「はい。」

竜波と龍兎はそれぞれ返事した。



「あ!地下室にいたマーメイは?」

「トンビが連れ出したそうで、マムシ妻はマーメイがどこにいたのか知らないと。あと、マーメイは死んだそうです。」

竜波はそう言って肩をすくめる。

「そのトンビは?」

「解放軍の巣についてから別れたそうで、トンビの所在は分からないそうです。他に本家に潜入している解放軍がいるかどうかも知らないと。」

「黄虎はどこでマムシを捕まえたのですか?」

 

「鹿領の巣にマムシが籠っていたところをハイエナに拐われたそうです。ハイエナは解放軍の仲間ではなかったそうですわ。」


「その巣の詳しい場所は?」

「マムシはトンビに運ばれてその後は巣の中に籠っていたので分からないそうですわ。」

「マムシがリュウカの部屋に近づいた目的は何だ?」

龍希が気になるのはこれだ。


「族長の奥様がどこにいるのか、監視はどうなっているのかを探れと命令されていたそうです。」


「まだ芙蓉を狙ってんのかよ!本家から誘拐なんてできるわけないだろ!」

龍希はキレた。

「落ち着いて下さい、族長。マムシは竜の子たちの匂いを感じてすぐに逃げ出したそうです。 ただ、解放軍の人族は相変わらず奥様が若様たちを産んだという話は信じていないそうですわ。」

「それはどうでもいい。マムシが侵入したあの扉はもう塞がせた。庭からの出入りはもうさせないからな。」

「マムシはこのくらいですかね。残る黄虎との取引は戸籍の件だけですが、龍景から報告があります。」

龍算の言葉に皆驚いた顔で龍景を見る。


龍景は立ち上がって報告を始めた。

「はい、実はジャガー本家に着く前夜、ハイエナの宿のそばで人族2匹を見かけまして。解放軍の仲間かと思って2匹の会話を聞いておりましたら、1匹は水連町出身の人族で、しかも最近、戸籍を作り直したと話しておりました。」

「え!?」

「はい。偶然・・・かと思いますが、その人族の話では、水連町の臨時町役場という場所で戸籍の作り直しがされているそうです。ただ、戸籍を作り直すには本人が臨時町役場に行く必要があるそうですので、族長の奥様の戸籍は作り直されていないようです。」


「おお!?やはり龍賢様の予想通りですな。」


「はい。しかし、この話を黄虎が掴んでいないのかは疑わしいですな。」

龍賢の言葉に龍希も頷いた。

「ああ、水連町にも黄虎の間者がいるはずだからな。むしろこの情報を紫竜にも掴ませて何かさせようとしてるのか?」

「そう考えるのが自然ですな。まさか族長が、奥様を水連町に連れていって戸籍を作り直させるなどと期待するはずはありませんが、黄虎の意図は謎です。」

「妻が水連町に行かなくても、戸籍を作り直す方法はないですか?」

竜色が尋ねる。

「それを探る必要がありますな。」

龍賢がそう言って龍希を見る。

「ああ。戸籍の件は引き続き龍緑に任せる。だが、龍景はお手柄だった。後で特別手当てを出すぞ!」

「ありがとうございます・・・」

「んじゃ、最後に龍海だ。」

「族長の命で藍亀の島に参りました。黄虎から族長ご夫婦と全く同じ指輪がほしいと注文され、作ったそうです。姫様への贈り物とは聞いてないと言っておりましたが、まあ怪しいですな。 なお、黄虎に対価として何を要求したかは、紫竜には知らせないと取引は拒否されました。」

龍海は眉をひそめて報告している。


「黄虎は油断なりませんな。早速、朱鳳を挑発したようで、問合せがきました。」


龍栄がうんざりした顔で報告する。

実際は、問合せどころか朱鳳の愚痴をたっぷり聞かされたと龍栄から聞いている。

黄虎と朱鳳の喧嘩なんてどうでもいいが、娘を巻き込まないでほしい。


「水連町の物を寄越せとの黄虎の要求はいかがされます?」

「ああ、龍海に用意させた。藍亀の島からの帰りに。」


「え?」


龍景が驚いて声をあげる。

「ん?どうした龍景?」

「あ、いえ。驚いただけです。すみません。」

「族長より虎が嫌いな物を買ってこいと命を受けまして、カンポウなる物を買って参りました。」

「カンポウ?」

「はい。非常に臭い人族の薬だそうです。水連町のビョウインという店で売っておりました。」


「薬?ビョウイン? 水連町の薬屋はなくなったと聞きましたが。」


竜夢は首をかしげている。

「ええ。ビョウインという店が、医務室と薬屋を兼ねているそうです。この店ができたために薬屋はなくなったと人族が話しておりました。」

「その薬屋が族長の奥様のご実家だったのですか?」

「さあな。俺は水連町に行ったことねぇし。」


「え?」


「ん?なんだ、龍景?」

「いえ、なんでもないです。すみません。」

龍景はそう言うが、なんか様子がおかしいな。

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