第6話


 小学校4年生はいっぱい頑張った1年だった。


 造形大会、書き初め、陸上、音楽会、その他もろもろ、いっぱい頑張った。


 あと、水泳教室にも弟と一緒に入れてもらえた。

 わたしが頼んだ時には全く話を聞いてくれなかったパパが弟が、やりたいと言った瞬間に水泳教室に通わせてくれるようになったことには若干の苛立ちや殺意を抱かなかったわけでは無いが、幼少期の病気のせいで運動制限があり、且つ肥満体型の弟が制限外の運動で自分から始めてやってみたいと願ったものだから、簡単に叶えたのだろうと思うことに、わたしはしている。


 だって、そう思ったら、安心できるから。

 わたしも弟もちゃんと平等だって思えるから。


 水泳は思っていたよりもずっとずっと楽しかったし、すぐに泳げるようになった。


 でも、1番記憶にも残っているのは陸上。


 わたしは走り高跳びをしていた。

 自分で言うのもなんだが、記録はそこそこ良かった。

 最年少でありながら、学校代表に選ばれるぐらいに高く飛べた。


 楽しくて仕方がなかった。

 ベリーロールでバーの上に舞い上がった瞬間にブワっと身体を襲う風が、気持ち良くて、マットから降りた瞬間に得られる賞賛が、くすぐったくて、心をぽかぽかに満たしてくれた。


 でも、最高学年である6年生の先輩はそれを良しとはしてくれなかった。

 選手発表の日、わたしは先輩に泣かれ、罵詈雑言を吐かれた。


「私が選手になるはずだったのに!!」


 悲痛な声は、わたしの心を深く揺らして、鉛を無理矢理に飲み込まさせられたかのような重さを味わせた。


 選手枠を譲る以外の選択肢なんてなかった。


 期待を寄せてくれていた先生方に睨まれながら、1度同級生を押し退けて選手になったわたしを怨む先輩方の陰口に耐えながら、わたしは過ごすことになった。


 苦しかった。

 なんで飛んじゃダメなのって思った。


 わたしは、大会に出たいわけでも、賞状が欲しいわけでもなかった。


 ただただ飛びたかった。


 それだけだった。


 でも、誰もわかってくれないし、理解してくれようとしなかった。

 だから、私は諦めた。


 諦めるのは、悪いことですか?

 逃げ出すのは、攻め立てられ、罵詈雑言を受けなければならない案件なのですか?


 わたしには、わかりません………………、


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しあわせ日記 緋咲 汐織 @hisaki-shiori

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