第6話 帆船の女王


 支店長は決めたのだ。


 インドへ行く!

 そして、福州まで行く! と。


 この“帆船の女王”と呼ばれる"快速帆船"こと、クリッパー船を建造し、アメリカでの失態を、名誉挽回するチャンスなのだ。


 そして、船員を船長と選ばなくてはならない。


「工場長、このクリッパー船には船員は何人必要なのか?」

「まあ、28人から30人おれば、大丈夫かと」

「この大型船が、そんな少なくて……」

 支店長は驚いた。

 支店長自身も一等航海士なのだ。ブリック船やシップの船長経験もある。※1


***


 工場を見学していたヴィレムに声をかけたのは、女工員だった。

「おい、オランダ野郎」

 ヴィレムは振り返ると、15か16歳ぐらいの女工員がいた。

 この工場で働いているのだろう。

 頬からは汗が流れていた。


「そこのオランダ野郎は、そのなんだ! 女みたいな感じだな。他の男どもはデカいのに」

「僕のこと?」

「ああ、お前しかおらんだろう。オランダ野郎だけに」

「……」

「てめぇ、つまらないと思っただろう」

「はい!」

「おい」


 すると親方らしき男性が、大きな声で「こら、ジャスミン。さぼっているのじゃない」と怒鳴っている。

――この女工員はジャスミンっていうのか。

 すると、ジャスミンは「すみません」と、親方の方へ駆けて行った。


「まあ、僕の中性的なのは生まれつきだから。今に始まったことじゃないんだよね」と、色白て小柄なヴィレムは独り言を言うのだが、別段、本人は、そのことについては気にもしていない様子だった。

 年頃の少年としては、「強くて、たくましい」と、虚勢を張りたいはずなのだが。


「帆船の女王、クリッパー船か。早く見てみたいよな」


 しかし、クリッパー船が完成するには3カ月の時間が必要であった。

 それは、新茶の取引を考えると5月には出港しないといけないが、その一か月前の4月になるということであった。※2



※1 ブリック船がマストが2本で、シップが3本。航海には、共に、多くの船員を必要とする。


※2 春に摘む日本茶と異なり、中国茶の秋茶は9月下旬から10月に摘み、11月以降は冬茶になる。

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