第2話
〜朝〜
「ヤス!開けてくれ、ヤス!!」
ドアを何度もノックする音。ルノルドはため息をつく。
「朝早く集合って言ったのはそっちじゃないか……!開けろって!」
エリヤスの研究室は鍵がかかっている。無理やり開けようとしたときだった。
「おー、ルノルド。帰ってたのかー」
「っ……!」
気配が無かった。驚いて振り向くと、褐色肌、濃い茶髪、黄色い瞳の青年が。
「あ、あんたか……おはようトニー」
「おはよー。例の機械の調整終わったみたいだなー。昨日徹夜で終わらせたのか?」
「いや、2時間かかったがまあ……もう大丈夫だろう」
「あれを2時間で?ほんとかー?っはは、やっぱあんたはすごいなー」
「いや、あんたの設計図が正確だったからさ……ところで、今起きてるのはあんただけだよな?」
「んー、まあこんな早朝だしなー?誰ともすれ違ってねーよ。特に白髪の女とはなー」
「すれ違ったのか!?」
「いやいや。やっぱ、あの女のこと気にしてたのかよー分かりやすいぜー」
「お、驚かせないでくれ……」
「なんか不都合があるんだろー?ずっと気にしてたもんなー。親戚で年下のかわいい俺にも教えてくれない理由がなー」
「親戚と言っても、名字が同じだけで別に血が近いわけじゃあ……。いや、もうあんたでいい。地下の鍵を持っているだろう?確認したいことがある。来てくれ」
「確認したいことってコレかよー」
ルノルドが頷く。目の前には大きな通信機が。
「……ヤスが頑なにあの女に俺を会わせなかった理由が、アイツからの通信が一向に来ないからだ」
「そうだなー」
「やっぱりもうシャフマは……」
「……」
トニーことトニエルが、ルノルドの横顔を見上げる。
「そんな暗い顔するなよー。まだわかんねーだろ?」
「250年だ」
「俺のこの体も、寿命には抗えない」
「魔兎族の寿命は300年なんだ……」
「普段省エネの姿で生きてても、寿命に抗えねーんだっけ」
「……10歳の姿でいるのは、いざというときにこっちの……俺の全盛期である30歳の姿を取れるようにするためだ」
魔族の寿命は基本的に300年。竜族や鳳凰族などは500年生きることが出来るが。
ルノルドは250歳を迎えようとしていた。当然だが、体は老いて行く。人間体でも魔族体でもどうしても老いを感じてしまう。しかし、彼には特殊な魔力回路があった。これを使えば、体の魔力……代謝をコントロールし、体のコンディションを固定することが出来る。
「だが、それでも……今がギリギリなんだ。諦めるべきなのかもしれない。そうすればヤスもあんたも、レアンドロの呪いから解放されるだろう」
「……呪い、なー」
「あんたはまだ若い!俺はオジサンの年齢だが……あんたやヤスはまだチャンスがある!だから、こんな任務しなくても……」
「あんた、ほんと爺さんだよなー」
「えっ」
「……オジサンっつーか、爺さん」
「う゛っ」
「爺さんなのにあの女のこと好きなの、やべーと思わねーのかよー」
「はあっ!?!?」
「ここに来た理由も忘れちまってるしよー」
「ハッ!そうだったぜェ!ええと、アイツへの通信、1000回目のダイレクトメールっ!」
「はははっ、そのうち機械の使い方を忘れちまったりして……」
(……そうか、そうなる前に……)
ルノルドの大きな背中。初めて会ったときのことを思い出す。
―あんたは新しいレアンドロか!俺はこの船の隊長、ルノルドだぜ!
―ここどこ?
―……大丈夫さ。あんたは任務が終われば帰れる。俺たちの故郷に、な。
(帰る……?)
一度も見たことがない大陸へ?
(あんたにとっては故郷かもしれねーけど、俺には知らねー場所だぜー?)
砂時計の王子 4 まこちー @makoz0210
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