第24話 封印

「こんな形でごめん……馬車より早いからさ……」

「別に構わないわ。なんならお姫様抱っこしてくれてもいいのよ」



 申し訳なさと恥ずかしさで顔を赤くしている俺を背中の彼女がからかうと耳元に吐息を感じてぞくりとする。

 領主の館を脱出した俺たちだったが、その恰好は少し異常だった。そう、俺はシャーロット王女をおぶっているのだ。

 これは別に背中におっぱいが当たるからではない、馬車より早いからである。断じて下心ではないのだ!!



「それでシャーロット王女……」

「シャーロットでいいわ。長かったらシャロでもいいのよ?」

「いや、さすがに王族にその言い方は……」

「ふぅん、王族の大切なところには触れているのに、変な事を気にするのね」



 楽しそうな口調と共にロイヤルおっぱいが押し付けられる。ちらっと見えた彼女の表情はこれまで見たいつよりも柔らかい。

 俺が仲間になったことが彼女にとってプラスになっているようだ。


 シグレのとも違う感触と甘い香りに思わずにやりと笑いそうになりながら、俺はヒルダ姉さんがいる宿に向かう。

 


「ヒルダに話をしたら、すぐに村に向かうわよ。クロエがいるんですもの。避難をうながしてくれているはずよ」

「とはいえ強力な魔物がいるんでしょ。詳しいことは知ってる?」

「ええ、ゴルゴーンという強力な毒と石化能力を持つ魔物よ。かつてヘラの加護を得た人間たちによって封印された魔物の呼び出して、それを私たちのせいにして迫害する理由にするみたい」

「ひどすぎる……」



 俺を掴む力が少し強くなったのは気のせいではないだろう。間接的に話を聞いただけの俺でも怒りを覚えているのだ。

 大切なものが危機にさらされているシャーロット様……じゃなかった、シャーロットは比べ物にならない程怒っているはずだ。



「絶対みんなを助けよう」

「ええ、私たちならできるって信じてるわ、でしょ、救世主様」

「その……胸が当たってるんですが?」

「当たり前でしょ、当ててるんですもの。嬉しいくせに」



 そりゃあ嬉しいですけど、今はそんな場合では……



「随分と仲良くなったようで何よりです」

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 いきなり話しかけられて思わず悲鳴をあげると、後ろから併走してきたヒルダ姉さんが息も切らさずに、にこりと笑顔をうかべている。

 俺アクセラレーションを二重にかけてるんだけどなんで追いついてこれるの?



「ちょうどよかったわ、ヒルダ。力を貸しなさい。村が危険なの」

「ふむ……遠くからお二人がいちゃついているのが見えたので合流しただけなのですが、ちょうどよかったようですね。もちろん力を貸しましょう」



 ヒルダ姉さんはシャーロットの命令に即答してくれる。だが、俺には謝らなきゃいけないことがあった。

 たぶんだけど、ヒルダ姉さんはシャーロットの胸のことも知っていたのだろう。なのに俺は彼女にはここに来た目的を話していなかったのだ。



「ヒルダ姉さん……その、俺は……」

「セイン様気にしないでください。お優しいあなたの事ですから、私を巻き込むまいとしたのでしょう。それに……あなたに信頼できる仲間ができたようでお姉ちゃんはうれしいのです」

「ヒルダ姉さん……」



 優しく微笑む彼女に思わず涙ぐみそうになる。が……シャーロットのツッコミが耳はいる。



「ねえ……だから姉ってなんなの?」

 


 ごめん、俺もそれは知らない。



☆★

 ここは教会の奥にある封印の魔というところらしい。不思議な重圧を感じる石造りの扉が閉ざされているのが目に入る。



「見つけましたよ。この場所の封印はとかせません」

「人の村で好き勝手しようなんてずうずうしいねえ」



 王家直属の印の入ったローブを身に着け不思議な輝きを放っている宝玉を手にしている胸の小さい女性をクロエさんとヨーナさん、そして、私ことシグレが追い詰めていた。


 セイン様を見送った私は治療を終えて意識を取り戻した彼女からこの村に危機が迫っているということを知った私たちはみんなで侵入者を捜索していたのだ。幸いにも胸の小さい女性は少なかったため目撃者はすぐに見つかった。

 


「ふん、ハンスの奴め。使えん男だ……やはり男はダメだな……この国を統べるのはヒルダ様のような優秀な女性でないといけない」



 胸の小さい女性は吐き捨てるように言ったが、私は違和感を覚える。なんで追い詰められているはずなのに彼女は余裕そうなのだろうか?

 そして、その答えはすぐにわかった。



「追い詰められているというのに随分と余裕ですね、あなたに封印を解かせる隙を与えると思いますか?」

「安心しろ、優秀である私は物語の悪役の様に無駄にペラペラとしゃべっているわけじゃない。すでに封印を解いているからお前の相手をしてやっているんだよ」

「「「な!!」」」



 その事実を証明するかのように石で作られた扉がゴゴゴという音を立てて、徐々に開いていきその奥底から、何者かの雄たけびのようなものが聞こえてきた。



「ふははは、そうだ。私はその絶望に満ちた目が見たかった!! かつて封印するしかなかった魔物相手にお前らヘスティア信徒たちがどう抗うか特等席でみせてもらおうか!!」

「逃がしません!! 私が魔物たちの足止めをしておきますので、お二人は皆の避難を願います!!」



 女が高笑いをしながら、扉に入っていくとクロエさんもその奥へと追いかけていく。


「くっ……シグレ、行くよ。みんなを集めないと」

「はい、わかりました!!」



 ヨーナさんについていくのだった。だけど、不思議と不安な気持ちはなかった。だって、私のご主人様は絶対やってきてくれると信じているからだ。







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