第23話 セインとシャーロット

毒によってボロボロだったクロエさんが願ったのは自分の治療よりも、シャーロット王女の救出だった。

 彼女の治療は他の人に任せて、俺はアクセラレーションを何重にもかけて走り続ける。

 馬車よりもこっちの方が早いし、ヒルダ姉さんの特訓のおかげかそこまで疲労もない。



「シャーロット様、大丈夫?」



 そして、領主の館で俺が見た姿は縄で縛られたシャーロット様と、俺の乱入に驚いているこの館の主だった。



「く、お前は……シャーロット様の連れの……お前ら早く来い!! 侵入者だ」



 男が何か騒いでいるが俺の耳には入らなかった。そんなものよりもシャーロット王女が悔しそうに泣いている姿が目に焼き付いて、胸が痛くなる。



 付き合いは短い……だけど、俺はこの人がどれだけがんばっているかを知っている。

 いつも本性とその胸を隠し生きていて……俺なんかよりもずっと巨乳な人々のことを想っていて……

 救世主である俺の存在に頼らずに、彼女たちを救った。とっても強くて優しい人なのだ。そんな彼女が泣いているだって?



「お前は何をしたんだ……?」

「遅いぞ、お前ら、早くこの侵入者を倒せ」

「お前はシャーロット姫に何をしたんだって聞いてるんだよ!!」



 領主に呼ばれて配下である騎士と女魔法使いと対峙した俺は問答無用で斬りかかる。氷のつぶてが、火の矢が、飛んできてアクセラレーションで加速しても避けきれずに、体をかすめ激痛が走るが止まってはいられない。

 きっとシャーロット王女の心の方が痛いはずだから……



「その程度で俺がとめられるか!!」

「なんだ、こいつ!! 強い!?」

「なんで魔法に躊躇なく突っ込んでこれるのよ!?」



 タンクである騎士を盾越しにアクセラレーションで強化した一撃で壁にぶっ飛ばし、そのまま魔法使いの腹に拳をめり込ませて気絶させる。



「ひ、ひぃぃぃぃ……た、助けてくれ。私はカフカ様に頼まれて仕方なくやっただけなんだぁぁぁぁぁ!!」

「シャーロット様を裏切ったんだな……? 娘の命をすくってもらったくせに!!」

「仕方ないだろう!! カフカ様は約束してくださったんだ。こいつらを期待させて裏切れば要職につけてくれるって……そうでなければ、巨乳なんて邪教の連中の保護と手伝うものかよ」

「……もういい、黙れ」



 視界に端でシャーロット王女の顔が悲しみに歪んだのを見た俺は即座に領主ののどをつぶす。

 カエルのようなうめき声をあげて倒れるのを無視して俺はシャーロット王女をしばる縄を斬る。


「シャーロット王女大丈夫ですか? ここは危険です。みんなの元へ行きましょう」 

「……いい」

「え?」


 縄が切れて自由に動けるはずなのに、シャーロット王女は動かない。怪訝に思って彼女の顔をのぞくとその瞳からは涙があふれ出していた。



「もういいって言ってるのよ!! あの村も今頃封印されていた魔物によって滅ぼされているわ。私がやったことは全て無駄だったの。いいえ、無駄どころじゃない。余計なことだったのよ!! 私が彼女たちを保護何てしなければみんなしなないですんだのよ!!」

「シャーロット様……」

「私……一生懸命頑張ったのよ!! 気味の悪いものを見られるような見つめられても、笑顔を浮かべて治療して……必死に仲間を作ろうとしたの。それでみんなが少しでも認めてくれるようになったと思ったのに……結局はこいつみたいに私を不気味がっていたのよ!! 私の頑張りも、私の努力も全部カフカ姉さんの掌のうちだったの。すべてが無駄だったのよ!!」



 いままでため込んでいたものを吐き出すかのようにシャーロット王女は泣きじゃくりながら叫び声をあげる。

 その姿は最初に出会ったようにどこか余裕がありこちらを試している顔とも違う、正体をばらした後に俺を情けないと罵った顔とも違う。まるで子供のような顔だった。


 当たり前だ。人間は強い部分だけじゃない。弱い部分だってあるんだ。きっと彼女はこれまで内心不安に思いつつも強くあろうとしていたのだろう。みんなを安心させるために……



「シャーロット王女の頑張りは無駄じゃないですよ。だって……」

「私の事をろくに知らないあなたになにがわかるのよ!!」



 俺の慰めの言葉は今の彼女には通じない。しょせんは最近あったばかりの人間なのだ無理はないだろう。

 だけど、俺は、彼女に救われた人を知っている。彼女に感謝している人々を知っているのだ。


「確かに俺はあなたのことをろくに知らない。だけど、俺はあなたが一生懸命だったことを知っている。村にいた人たちはみんなあなたに感謝していました。あなたのおかげで生きていていいんだって思えたって!!」

「それは……でも……」

「クロエさんだって、そうだ。自分だって毒でつらいのに俺に助けを求めに来てくれたんだ。それにあの人は俺にこっそりと言ったんです。あなたの力になってほしいって……そう言わせたのはあなたが彼女の前で一生懸命頑張っていたからでしょう。あなたの頑張りは決して無駄じゃなかったんだ!!」

「……」


 ああ、そうだ。俺は彼女のことをよく知らない。だけど、俺はそんな状態でも彼女を尊敬している。

 仲間がどこにいるかわからないのに頑張っていた彼女を、この世界の常識を変えようと頑張っていた彼女を……



「俺は救世主に頼らず巨乳たちを救おうとしたあなたを誇りに思う!!」

「誇り……誇りとあなたも言ってくれるのね……お母様と同じように……」



 一瞬呆けていたシャーロット様だったが何かを思い出すように目をつぶって再び開いた瞳には熱意が宿っているのがわかる。



「らしくなかったわね。この程度の苦難これまでだって何回もあったのに……セイン……感謝するわ。行きましょう」

「ええ、シャーロット様」

「と……その前に……誰の邪教よ、この小物が!!!」



 そう叫ぶと立ち上がったシャーロット王女は足を振りかぶって全力で領主の股間を蹴り上げた。



「ひえ!?」

「ふん、いい気味ね。それじゃあ、いきましょう。宿にいるはずのヒルダにも声をかけましょう。彼女と私たちがいれば魔物何てできじゃないわ!!」



 そう言ってほほ笑む彼女を見て俺はうれしい気持ちになる。そして、彼女は振り返って恥ずかしそうにいった。



「その……さっきはありがとう。誰かに頼るのっていいものね。よろしく頼むわ、救世主様」



 少し恥ずかしそうに笑う彼女の笑みはとっても魅力的だった。




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