第22話 シャーロットという少女
「シャーロット様が好きそうな茶葉を準備してみたんですがお口にあいますか?」
「ええ……ありがとう。とってもおいしいですよ。わざわざ遠方のお茶を準備してくださいって……うれしいけど大変ではなかったですか?」
領主の屋敷に戻った私とクロエはソフィアの部屋でお茶を楽しんでいた。私の胸を知っても慕ってくれる彼女との交流は結構好きだ。
「はい、だって、シャーロット様に救っていただいた命ですもの。あなた様に喜んでもらえるならばわたくしはなんでも致しますわ」
「ソフィア様はシャーロットの様のことが本当にお好きですね。ですが、知ってますか? このお方の本性は……」
「クロエ、黙りなさい。給料を減らしますよ」
「うう……たたでさえ少ないのに……」
私たちのやり取りにソフィアがほほ笑みながら紅茶に口をつける。本当に楽しそうにしてくれている彼女を見ると私も未来に希望が持てるのを感じる。
そう、人々が胸の大きさをきにせずに交流できるようになるという希望が……
「お二人は本当に仲良しですね、素敵です」
「まあ、クロエとの付き合いはながいですからね。それよりソフィアは私みたいな胸は気持ち悪くはないのですか?」
「シャーロット様!! そんなことありませんわ。そりゃあ初めて見た時は驚きましたけど……わたくしを救ってくれた胸ですもの。今では大好きですわ」
「うふふ、ソフィアったらはしたないですよ」
カップを置いて私の胸元に抱き着く彼女を優しくたしなめながらも悪い気持ちはしなかった。幼少から胸が大きくなっていた私はこうした同性とのスキンシップもなかったからだ。
お母様……私はあなたの言いつけ通り頑張っているわ。胸が大きいだけで他者を迫害するこの世界を変えてみせるから……
胸元で甘えるソフィアの頭を撫でながら確実に世界がよくなっていることを実感する。救世主とやらもそれならには頑張ってくれているみたいだし、もう少し彼を信頼してもいいかもしれない、そんなことを思っているとノックと共に扉が開く。
一瞬クロエが武器を構えかけるのを目で制する。
「もう、お父様!! シャーロット様とのお茶会の邪魔はしないでくださいといっているじゃないですか!!」
やってきたのは領主でありソフィアの父であるハンスとその護衛らしき二人の騎士だ。
「ああ、ごめんよ。ソフィア……どうしても急用があったんだ」
私から体を起こして詰め寄ってきたソフィアに叱られて頭を下げているドレロス領の領主であるハンスの姿に苦笑する。彼は元々は中央の貴族だったが、病弱なソフィアのために、辺境であるここにやってきたらしい。
ソフィアを救ってからはとてもよくしてくれている。ここに『巨乳奴隷』たちをかくまうことができたのも彼の力が大きい。私が手に入れることができなかった家族の絆を見せられて少し胸がちくりとしたのは気のせいではない。
「まあまあ、いいじゃないですか? ソフィア。それでどうされたのですか?」
「ええ……シャーロット様、体調はいかがですかな?」
「体調ですか……?」
質問の意図が分からずに首をかしげていると体から力が抜けてきて……支えられずにそのまま床に倒れてしまい、頭に痛みが走る。
「シャーロット様大丈夫ですか!? まさか紅茶のカップに毒を……う……」
「お父様!! これは一体何を!? あなたたちやめなさい!!」
私と同様に倒れるクロエと先ほどとは違い本当に激怒しているソフィアが騎士に押さえつけられ、部屋から追い出されるのを視界に入れながら薄れゆく意識を必死につなぎとめる。
「やはり、その状態では治癒できないようですね。カフカ王女のおっしゃったとおりですね」
「ハンスなぜ……それにお姉さまの名前がなんと関係が……」
「申し訳ありません。私はやはり野心を捨てられないのですよ。カフカ王女からの伝言です。『くだらない夢の味はどうだった? 醜き巨乳は私のいうことを聞いているだけでいいのだ』とのことです。いまごろあなたが作った箱庭も滅んでいる事でしょう」
「そんな……あの人たちまで……」
ハンスの言葉に嫌な予感を覚えるのも私はどんどん意識が暗転していく。やっと少し世界が変わってきたと思ったのに……そのために姉であるカフカと取引までしたのに……怒りのあまり強く口をかんだため校内から血の味がするのを感じ涙ぐみながらハンスをにらみつけるのだった。
★★
私ことシャーロットは十歳までは何不自由なく過ごしていた。同世代よりも胸が大きく魔法こそ使えなかったものの、母は私を愛してくれたし、父もわがままを聞いてくれた。
母の違う姉のカフカとは会うことは少ないものの挨拶くらいはする関係で毎日が楽しかった。
そんな日常が崩れたのは母の容体が悪くなっていってからだった。不治の病に侵されて治療法を探すも一向に見つからない。
私はヘラ様はもちろんヘスティア様にも何とかしてほしいと願った。その願いがかなったのかわからないが夢の中にヘスティア様が現れて、巨乳を救う救世主があらわれることと、私に力をくれるということをおしえてくれた。『あなたにはつらい思いをさせることになります』と言っていたが母を救うためならばどうでもよかった。
「お母さん!! 私が治してあげる」
当時ヘスティア様を信仰するということの危うさを知らなかった私はさっそく『状態異常を治す』という力を使って母を治療をおこなった。いや、してしまったのだ。大人数がいる目の前で……
その結果、私は胸が大きかったこともあり邪神に魂を売った人間などと言われるようになってしまった。王族がヘスティア様を信仰しているというのは口止めこそかけられたもの完全に人の口に封はできない。口の悪い人に至っては私を生んだから母が病にかかったなどという人間もいた。
しかも私の力はまだまだ未熟で母の延命こそできたものの完治させることはできなかったのだ。
「お母さんごめんね……私を産んだせいで……」
「何を言っているのよ、私の病気とシャーロットちゃんは関係ないわ。それに私はうれしいの。あなたのその力は私を救おうとして手に入れた力でしょう。あなたは私の誇りよ」
必死に謝る私に母はつらいはずなのに微笑みながら頭をなでてくれる。その腕は昔よりも細いのにとっても元気づけられた。
「シャーロットちゃん……あなたは優しい子よ、その胸でこれからつらい思いをするかもしれない。だけど、同じ境遇の子を助けてあげて……きっとあなたの力はそのためにある」
そう言って母は命を落とした。違うの、私の力はあなたを……あなただけを救うためのものだったんだ……そういいたかったけど必死に飲み込んだ。
それからの私の扱いはひどいものだった。この胸のせいで不気味がられるうえに政略結婚の道具にも使えないということで別館という名の牢獄に閉じ込められる。
そんな中でも私はひたすら神聖術を極めていた。今度母のような病を抱えている人間にあったときに救えるように……
「私の母を治療してくださるのですか……」
そして、それは結果として現れる。私のお世話をしていたクロエの母の治療に成功したのだ。
それ以来彼女は私に忠誠を誓ってくれて……その評判は姉であるカフカにも伝わった。
「シャーロット……あなたの能力を私のために使いなさい。正体を隠し私が指定した貴族たちを治療するのよ。無駄飯くらいのあなたを役立ててあげようというの感謝しなさい」
「別に構いませんが私の条件を飲んでください。そうすれば力を貸しましょう。一つは私がヘスティア様の信仰を促すこと。そして、巨乳をかくまう街をつくることをみとめてください」
「ふぅん……その程度ならば問題はないわ。認めてあげましょう。そのかわり王位継承権は放棄しなさい。わかったわね」
久々に会うカフカは不遜な笑みと馬鹿にした様子を隠すことなくそういった。私に正体を隠すように言ったのは万が一回復能力に目をつけられて、私が担ぎ上げられるのを防ぐためだろう。
不利な条件ではあったが断る選択肢はなかった。だって、私は誓ったのだ。この力で同じ境遇の人々を救ってみせると……
それから私は頑張った。病を癒しても巨乳だと知ると嫌悪の目を向けてくる人がいて傷ついたけど、平気なふりをした。
巨乳な少女を一人保護した。最初は警戒されたけど、私も巨乳だと知ると彼女は心を許してくれた。頑張ろうと思えた。
辺境の一部を巨乳たちの村とすることを許された。とっても嬉しかった。この日はクロエや保護した巨乳の女性と一緒に好物の紅茶を飲んだ。
「お母様……私はあなたの言うように……ほかの巨乳を救おうと思います」
徐々に徐々にだが、自分の道がうまくいっているのがうれしかった。そして、私は救世主と出会う。
反発心から彼にはついきついことを言ってしまったけど、彼はめげずに頑張るといった。そして、私の胸を美しいと言ってくれた。ちょっとだけ……ちょっとだけうれしかったのはここだけの話だ。
これからいろいろとうまくいく。きっと巨乳も許される世界が待っている……そう思ったのに……
回想を終えた私は縄で縛られながらも目の前の男を……その後ろにいるであろうカフカの顔を思い浮かべにらみつける。
「なんで……こんなことをするのですか?」
「カフカ様はおっしゃっていました……この国を団結させるためには敵がいると……それがヘスティアなのです。ゆえに……あなたが集めた巨乳奴隷たちには死んでもらいます。古の魔物を召喚した愚か者として」
「まさか、ヘラ様が封印したあの魔物の封印を解くつもりですか!! それだけのために……」
私がにらみつけるがハンスは表情を変えもしない。その態度が悔しくて思わず皮肉が口から出ていく。
「ソフィアを救ってくれてありがとうと言ったあなたの言葉は嘘だったのですか!!」
「……それは感謝しています。ですが、あなたをはめれば王都の役職につけてくれるとカフカ様がお約束してくださったのです」
「……クソが」
侮蔑を隠さずに悪態を吐くとハンスの表情がわずかにゆがむ。だが、そんなことはどうでもよかった。
結局姉は私を利用するだけ利用するつもりだったのだ。わずかな希望を見せて、はなからこわすつもりだったのだ。
ごめん……クロエ……ごめん、みんな……
涙と嗚咽が止まらない。私が余計なことをしなければ巨乳奴隷となった彼女たちは魔物に食われて死ぬことはなかった。
私が余計なことをしなければ彼女たちは変な希望を持たずにすんだ。
私が生まれなければきっと母さんだって死なずに済んだんだ……
「私は……なんのために今まで……」
涙で視界がにじんだ時だった。窓ガラスがくだけちって一人の影が現れる。
「シャーロット様、大丈夫?」
心配そうにこちらを見つめるその姿はまるで物語に登場する救世主のようだった。
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