第17話 シグレとヒルダ

 あの会話のあとシャーロット王女は城へと帰っていった。ドノバンがかっこいいところを見せられなかったと悔しがっていたがどうでもいい。


 そして俺はヒルダ姉さんにこれまで以上にきつい特訓を頼んだ。彼女には不思議な力を持っているということがばれているので遠慮なく痛めつけてもらい、そのたびに治癒して、続けるという超スパルタコースだ。何度も三途の川をわたったものだ。

 この力について聞かれるかと思ったが、意外にもヒルダ姉さんはつっこんでくることはなかった。


 ヒルダ姉さんはこの世に転生して二人目の優しくしてくれた人だし、話もいいかなとも思ったんだけどね……

 シャーロット王女の警告と、彼女がヒルダ姉さんにヘスティア様のことを話しているかわからないためうちあけれてない。


 そして、ようやくドレロス領の領主から手紙が来て、俺たちは馬車に乗っていた。ドノバンが「あんな田舎に何しに行くんだ?」と馬鹿にしてきた。あなたが何回も手紙を送って帰ってこないと悔しがっているシャーロット王女に会いに行くんですと言ったらどんな顔をするかきになったのはここだけの話である。

 そして、今、ちょっときまずい状態になっている。

 



「セイン様専属メイドである私のお膝に頭をお乗せ下さい、やわらかさには定評がああるので気持ち良いですよ」

「セイン様、お姉ちゃんの膝に座るのです、あなたが襲われても即座に対処できますよ」

「二人とも何言ってんの? 普通に座るよ……」



 ドレロス領行きの馬車で俺は二人に挟まれて頭を悩ましていた。どちらの膝に頭をのせても片方に悲しい顔をされるのはわかっているので間に座る。

 そう言えばこの二人が同じ空間に一緒にいるのは初めてかもしれない。



「ふ、二人ともちゃんと自己紹介をしようか? これから一緒に旅をするわけだしさ」

「おっしゃる通りですね、さすがはセイン様です」



 にこりとほほ笑むとシグレはヒルダ姉さんにお辞儀をした。



「私はシグレと申します。セイン様の専属メイドをさせていただいております。好きなセイン様ポイントはセイン様の寝顔です。天使のような笑顔で心が癒されます」

「え? もっと自分のこと言ってよ。俺は関係なくない?」

「なるほど……、私はヒルダと申します。セイン様の姉であり戦いの師匠をやっております。好きなセイン様ポイントは一生懸命運動をした後に、それでも頑張ろうとする姿ですね。お姉ちゃんポイントが高いですね」

「だから、セイン様ポイントとかお姉ちゃんポイントって何?」

「「なるほど……」」



 二人は俺を無視して、何かわかりあったかのようにして笑顔で握手している。



「今度セイン様の修行しているところに同行してもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。その代わり私もセイン様の寝室にお邪魔させていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい、構いません」

「あの、俺は構うんだけど……」



 引き合わせてはいけない二人を合わせてしまった気がする……ちょっと後悔しながらこれ以上変な風に話がすすまないように口を開く。



「ヒルダ姉さんはドレロス領に来たことあるんだよね? どんな感じの所なのかな」

「賊の退治のためにおとずれたがあるのですが、よくある田舎といったところでしょうか? 一応は特筆すべきものとして、シャーロット様の私有地とヘスティアの聖地がありますが、さびれていますね……」

「ヘスティアの聖地か……確か魔物が封印されているんだっけ?」

「はい、ヘスティアの信者たちが迫害されていることを妬み魔物を召喚したといわれています。ヘラ様の力を持つ優秀な魔法使いでも封印することしかできない強力な魔物らしく……ぜひとも戦ってみたいですね。それに良い特訓になりそうです」



 楽しそうに笑うヒルダ姉さんの視線にぞくりと背中が冷たくなる。あの……その特訓って、俺の特訓じゃないよね……?

 さすがに優秀な魔法使いですら封印することしかできなかった魔物とは戦いたくないんだけど。

 そんなことを思っているとシグレがおずおずと口を開く。



「あの……ご質問なんですが、そこで巨乳奴隷という方々を見ましたか?」

「ああ、シャーロット様の私有地で働いている方々のことですね。男性がたすけてくれないので力仕事などもあり大変そうでしたね。ただ、奴隷……などとは言われていますが楽しそうに笑っている方もいましたよ」

「セイン様……やはりシャーロット様は……」

「ああ、そうだね。、やっぱり信用できると思うよ。色々と話を聞かなきゃね」



 予想していた答えに思わず笑顔がこぼれる。彼女は奴隷という名目で迫害されるであろう巨乳な女性を保護していたのだろう。 



「それにしても、秘密裏にシャーロット様に呼ばれるとはずいぶんと親しくなられたのですね」

「それは……まあ、この前きたときにちょっとね……」



 もらった手紙にはシャーロット王女の名前はなかったけど、彼女と親しいヒルダ姉さんは気付いていたのだろう。

 そして、彼女の瞳がとても暖かく優しいものであることに気づく。それこそ、まるで姉が弟にむけるような……



「私はセイン様が友人を作ってくれて嬉しいです。あなたは幼いのにどこか人と線をひいてましたからね。そうやって信頼できる人がふえていくのは良いことだと思います。だれかを守らねばという気持ちは人の心を強くしますからね」

「ヒルダ姉さん……」



 彼女のこちらを想う気持ちを感じて胸が熱くなる。ちょっと変わったところもあるけど、俺を心配していたらしい。

 実際は俺が転生者だったり、巨乳のためにたたかうぞと決めていたからなのだけれど、こうして色々と考えてくれていたことが嬉しいのだ。



「言うほど俺は人に線を引いているわけではないよ。少なくともシグレやヒルダ姉さんのことは信用しているって」

「セイン様……」

「うふふ、姉冥利につきますね……」



 シグレとヒルダ姉さんがそれぞれ俺の腕をつかんでぎゅーっと抱きしめる。柔らかい感触とちょっとかたい感触と共に甘いに匂いがおそってきてドキッとする。

 


「お二人とも巨乳奴隷に興味があるようですが、一体何かあったのですか?」



 戦士特有の直感なのか、単に気になっただけなのかそんなことを聞いてくるヒルダ姉さんにどこまで、話せば良いかわからなくなる。

 俺の巨乳を守るという使命を話せば、シグレの秘密もつたえなくてはいけなくなる。俺が異教徒扱いされてヒルダ姉さんに怪しまれるくらいならいいのだが、彼女にまで迷惑はかけたくないというのが本音だ。



「それは……」



 俺がどう説明しようか悩んでいると、馬車が止まってしまう。どうやら、目的の場所についたようだ。



「おや、到着したようですね。シャーロット様はすでにおまちのようですよ」

「ヒルダ姉さん……」



 そう言ってほほ笑んだ彼女はいつもよりもちょっと寂しそうな顔をしていたのは気のせいだったろうか?





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