第17話 新しい仲間
保護した子供、浅黒い肌をしたそいつはライベルよりも少し小さいぐらいの女子だった。
一度目を覚ましたらしいがあまり言葉が上手く話せないらしい。白い髪をして、その上に肌の色から考えてその特徴は……。
「多分ですけど、この子ホーケス族の女の子じゃないでしょうか?」
と、ライベルは言う。聞き覚えのない名称だ。……とはいえ、俺の場合知らない事の方が圧倒的に多いんだが。
宛がわれた客室のベッドで静かに眠るその女子、手当が終わったので見るに堪えない姿じゃ無くなった。それはよかったが謎が増えてしまったな。
「で、その何とか族っては何だよ? 聞いた感じ部族か?」
「ええそうです。少数民族で国の南部にある森の奥地に住んでるんです。そういう意味では王国民ではありますね。でもその実態は僅かな交流があるだけで、一般的にもあまり知られた人達じゃないんですよ。ほとんど謎に包まれてます」
「謎ね……そりゃまた何で? 昔から居る連中じゃないって事か?」
「ああいえ、建国される際にも存在は確認されていますし、当時の族長も建国に同意したという話も聞きます。ただ~……何世代か前かはよくわからないですけど、いつの頃からか交流が少なくなっていったそうですよ。何でなんでしょうね?」
「案外、その時の王様と族長でソリが合わなかったからとかじゃねぇか? ま、それは考えても仕方ない話だ。当時の記録でもあれば話は別だが、そんなもん城の中から出ねえだろうしな」
「まあそうなんですが。……ああそれと、このホーケス族の特徴として非常に仲間意識が強いというものがあります。その土地で生まれたものは同じ民族でも他所から来た血でも大切に、それこそ家族のように扱うという考えがあるんですよ」
家族、ねえ……。なんとなく攫われた理由が分かった気がする。
「こういう考え方はどうだ? そんなに仲間意識が強いなら、その中の……それも子供が他所の土地で殺されたりなんかしたら――そりゃ一大事だよな」
「当然ですよ! もしそんな事が起こったらそれが王室が直接管理してる土地だろうと構わず乗り込んで来るはずです。……まさか!?」
「それが狙いだったんじゃないかと思ってる。この件の黒幕……組織なのか個人なのかは知らねぇが、お袋の土地でこいつを殺す。すると部族の人間は怒り狂って乗り込んで来るはずだ。――そこで、お袋が仕組んだとでも吹き込んでやれば……」
「侯爵様のお命を狙う!? 仮に殺害に失敗しても、侯爵領との関係は最悪なものとなります。どちらかが滅びるまで争うような事にもなりかねません。そんな恐ろしい事を考えてる人が居るんですか!?」
「落ち着けよ、あくまでも可能性だ」
そう、いくらなんでもそこまで大事にして誰が得をするのか?
地域のいざこざ程度じゃ収まらねぇ、そうなりゃ国が動く事態だ。
侯爵領が目障りな連中が居たとして、国の食糧庫とまで言われた場所に被害を与えれば間違いなく王室に睨まれる。
犯人はお袋の気が狂って人攫いと殺しをやった。なんてな感じにどうしても持って行く必要がある。
そこまで力入れて仕出かすヤツなんざ……。
(いや待て、これが内戦って枠に当てはめれば……)
内戦を勃発させて得する連中……まさかな。
一瞬身が震える想像をしてしまった。流石にロクに分かってない状態でその考えはヤバい、一旦そこから考えを反らす事にする。
「今はいくら考えても材料が足りねえ。とっ捕まえた女も、依頼されたからって言ってたしな。その相手も顔を隠して誰か分からないなんて言うし、会ってた場所もゲートってので周りが分からないトコに連れてかれたって話だしな。所詮トカゲのしっぽ。いや、それ以下か。本人もしがない魔導士だって話だしな、誰も惜しまねえはずだ」
「確か相手の名前も知らないって聞きましたけど。そんなに用意周到な人が居るなんて怖いですよ。でも、ゲートが開ける程の魔導士となれば相当な実力者なはずです。魔法協会に所属してるなら一発で分かりますよね?」
「そんな身元の分かりやすい奴が大それた真似をするとは思えねぇな。……野良で強ぇのってのに心当たりあるか?」
「いえ、流石に……。元々魔導士の方々は個人主義な所もありますし、身元の分からない人となると自分の事はほとんど話されないと思います。大きな魔物退治に活躍した魔導士の人が、素材だけ回収して帰ったなんて話も割と聞きます。そういう人達の活躍を見た人が、使う魔法や身体的特徴などから勝手に呼び名を考えるんです。でも今回の黒幕らしい人って見た目を完全に隠していたとの事ですから……」
結局分からないままってか。
やっぱ材料が無いうちには何を考えても妄想だな。
「せめて男か女かくらいは……」
「そうですね。でも実力者の魔導士というと男性が多いですが、でも女性が全くいない訳でもないらしいですし。……やっぱり判断材料としてはあんまりかと」
「仕方ねえか。……まあ今はいい。とりあえずは目の前のこいつの保護が優先だ」
「そうですね! それにはまず元気になって貰わないと!」
一転して元気よくそんな風に言うのは、多分今のこの屋敷で唯一の年下が相手だからだろう。
先輩風でも吹かせたいってのか。
だったら俺ポジティブに合わせるか。いつまで考えても仕方ねぇ事は気にしてもクサクサしてしょうがねぇ。
「そういやお前、よくホーケス族なんて知ってるな? 一般的には知られてないんだろ?」
「ここの書庫でそういう本を見たんです。ぼく、本を読むのが大好きですから」
「書庫? そういやそんなのがあるって聞いたな」
屋敷には書庫が二つある。
侯爵家の人間と歴代侍従長しか入れない第一書庫と、屋敷の人間なら誰でも利用出来る第二書庫だ。
第一書庫は大事な本やら記録やらしか無い関係上、当然第二書庫の方が相当にデカいらしい。俺は入った事が無いが、ライベルはそっちで本を読んだり借りたりしてるんだろう。
「第二書庫にはどんな本があるんだ?」
「色んな本がありますよ。歴史書や政治に関する資料もあります。ホーケス族に関してはその歴史書を見たんですよ。他にも植物の図鑑やお料理の専門書とかもありますし、特に人気なのはやっぱり小説ですね。ほんとに凄いんですよ? いろんなジャンルに、いつも貸出中になってる小説があったりして。最近では漫画も仕入れていたり。ここまで本を揃えてる貴族のお屋敷なんてここくらいだと思います」
「ふ~ん……」
娯楽に力を入れてるって事か。働いてる人間は全員住み込みだ、そのストレスの発散先には気を遣ってるのかも知れない。
そういう福利厚生施設に力を入れようと思ったご先祖様は切れ者だな。
そんな会話をする俺達を余所に、ベッドで眠る名前も知らねえ少女は起きる気配が無い。
なんて事があったのが数日前だ。
「ライベル、これをボッチャマに持ってけばいいのか?」
「そう、そうだよゼーカちゃん! このお薬を持って坊ちゃまに届けるんだよ」
「……目の前でやるなそのやり取り」
その子供――ゼーカは着なれないメイド服を纏ってライベルの指示を聞いていた。
そう、何だかんだあってライベルに後輩が出来た。
といっても保護が第一で単なる手伝いでしかないが。
「ボッチャマ、持ってきたぞ。飲め」
「ああ!? そんな言葉遣いじゃなくてもっと丁寧に……」
「何でもいいから早くくれよ……」
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