第22話 勝利の宴

日が暮れつつあるラウザ村の一角。


兵士たちの詰め所ではささやかな宴が行われていた。


ケルツを退治した兵士たちをたたえ、戦女神に勝利を捧げる宴である。


篝火がたかれた練兵場で兵士たちは村人が用意したごちそうを平らげ、葡萄酒ヴァーラ・アレべを酌み交わし、昼間の疲れを癒やしていた。


そんな中、鎧兜を脱いだアクレイとルアンナは詰め所の外で星が瞬き始めた黄昏の空を見上げていた。


「なるほどのう、腕試しか」


「はい」


宴の輪から抜け出したドフレが二人に話しかけてくる。


「それは相手が悪かったな」


悪戯子鬼ケルツだけを相手にするつもりでした」 


「世の中、そうそう上手くはいかんよ」


ルアンナの言葉にドフレは苦笑する。


「……若いの、冒険者になって何をしたいのかね?」


「世界を見てみたいんです。本の中に書かれた世界が本当にあるのか自分の目で見てみたいんです。それだけじゃないですけど」


「……あたしはまあ、アクレイのお目付け役かしらね、もちろん外の世界を見てみたいって言うのもあるけど」


二人の言葉にドフレはしきりにうなずく。


「そうか、なるほどのう。なら、先程の戦いは戦女神フェテシュが与えたお主らへの試練じゃな」


「試練……」


「うむ。お主らはまだまだ未熟ということ。来るべき日が来るまで鍛錬を欠かさぬことじゃ。武勇だけではなく知もな」


「そうね、あたしも鍛錬ばかりじゃなくて本を読むことにするわ、アクレイも」


「う、うん」


ルアンナに言われるまでもなく、アクレイも決意していた。


次、またあんなことがあっても自分と、そばにいる誰かを守れるようにならないと。


篝火の明かりに照らされるそんな二人の横顔を見るドフレは、口元に笑みを浮かべると、


「うむうむ、ではそんな広い世界を目指す若者に儂からも一つ贈り物をしようかのう」


そう言ってドフレは腰に下げていた革袋の口を開けると中から何かを取り出す。

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