第25話 さながら獣の道








  装備のメンテナンスを終えた俺とナギ姐は、早速ダンジョンに潜れば襲い来る魔物たちを相手に、血祭りにあげる狂喜の宴を開催。


 ランク帯によって潜れるダンジョンは、当然ながら制限が設けられている。


 例えばチュートリアルダンジョンであれば、一見すれば弱いとされる魔物、および魔族が配置されているが、彼らについてはよく訓練されているもので、おまけに言葉も通じるから便利だ。


 低ランク帯の冒険者が、なんとか攻略できるように調整、いわゆる手加減をしている訳であって、知性のあるものでなければ不可能なことであろう。


 我がエステライヒにおいて、共に戦った同胞たちの真の強さを知らないハローワーク(ギルド)の面々、および冒険者たちに軽く見られているが、今は戦争を知らない若い世代たちに交代してしまった以上、仕方ないことなのかもしれない。


 ベテランの冒険者であれば、まず油断することはなく、そういったいぶし銀の冒険者とは、笑って酒を飲み交わし、平和なひとときを楽しめるって訳さ。


 不老故に全く年齢を感じない、感じさせないとはいえ、長命種に及ばないものの前世と合算すれば、すっかりおっさんの俺と、後期高齢者並みの時を過ごしたナギ姐は、野生の魔物相手に刀を振るい、倒してから色々と剥ぎ取るハンターよろしくと言ったところ。


 そう、ランク帯が上のダンジョンである程に、話の通じない、手加減を知らない野生の猛獣を相手にする機会が増えるって訳だ。


 もっとも、よく訓練された軍人、魔族等に比べれば、やり方は違うものの対処は容易でもある。


 人の言葉を話さない、あるいは通じない奴らであれば、遠慮なんて不要、無用で狩りを楽しめるって訳だ。


 その証拠にナギ姐は、大太刀あるいは鎧通しを持つ手が、全く震える様子が見られず、表情を見れば心から楽しんでいるご様子だ。


「ナギ姐、調子はよさそうだな?」


「ああ、ただの獣相手なら問題ないさ? 人の言葉を喋る相手だとさ、本当に参るからな……で、ヒナコはどうだった?」


 倒した野生の魔物を解体しながら、ヒナコの話題を振られたものの、ここにはウィラもヒナコもいないからさ、気楽に答えられるね。


「相変わらず重症だ、ダーティーハリー症候群を拗らせた末の希死念慮を抱えてる。愛する人に全肯定されたい気持ちと、赦されたい気持ち、あとは裁かれたい気持ちのおかげでさ、ドM9割でありながら、残り僅かがドSのぶっ壊れバランスだよ?」


「なかなかクレイジーな夜伽って訳だな?……で、お前としてはどうなんだ?」


 何のことであるか、よくわかっているナギ姐は、愉しげな表情で続きを促しつつ、グラマラスなボディを寄せてくるものだから、素直に答えないとこっちが解体されかねないね? HAHAHA!


「……うん、悪くはないさ。前世と変わらずあいつの全てを受け止めるし、受け入れている。仕方ないとはいえ、あいつには身勝手な都合で一方的に別れを告げられたし、自殺行為的な最期で解放を求めたところで救われなかった以上はさ、なんとかするしかないだろ?」


「……そうだな、ウィラもわかっているからさ、これでよかったのかもしれないな?」


「ああ、こっちの世界でもままならないからな……法と倫理的に離婚、慰謝料の話にならなくてよかったよ?」


「「HAHAHA!」」


「そうなったらカスガ、お前が二度目の人生を諦めるか、世界を滅ぼしかねないからな?」


「おいおい、それは買い被りすぎだぜ? 元魔王とはいえ、そんな力はねえよ。ここまで生き延びるのも綱渡りだったんだぜ?」


「どうだろうね? ま、あたしはこういうときこそ、お前の力を利用させてもらうけどな」


 どう利用するのか、それはこの先のフロア次第であるが、今は魔物の解体に集中しようぜ?


 ナギ姐、あんたもさ、こっちの世界で俺たちに再会出来たもののさ、愛するダディーはいない、マミーもいない、リューキもいない、そして、最愛のダーリンが居ない以上、寂しい気持ちぐらいはわかっているさ───。








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