第26話 遭遇戦







  今回請け負ったクエストは、本来であればBランク級であるものの、該当のランク帯の冒険者が出払って不在であった為、Fランクの依頼に書き換えてもらった……という経緯であったが、次の階層で冒険者と遭遇したことにより、ちょっと話が違ってきたね?


 こちらに襲い来る野生動物をなぎ倒すナギ姐と二人仲良く、解体ショーを楽しんでいるところにこれまた野生動物よりもタチの悪い、若い冒険者パーティーたちが、こちらの獲物を横取りしようとしてきた訳だ。


 今回、MP(マネーポイント)を節約するべくして、全くといっていいほど弾や召喚魔法すらも使っておらず、刀剣のみで戦ってきたから愛用のAKMが拗ねていないか、ちょっと心配しながら軍刀を鞘に納め、持ち替えたAKMの銃口を件のパーティーに向けた。


 ナギ姐も同じくして大太刀を納め、銃剣を装着したFN FAL に持ち換え、口火を切ったのだ。


「Hey, what are you gays doing? Don't fu** around with me! Get lost!(おい、お前ら何の用だ? 舐めた真似してくれるな! とっとと失せろ!)」


 いきなり撃たないだけまだ優しいと言うか、ナギ姐の生まれ故郷の言葉である英語で捲し立てれば、たちまち若い冒険者たちもたじろぐ訳だが……リーダー格と思わしき若い男だけは、状況を理解していないらしいね?


 身長2m近くの鬼神族の魔女(白魔導師)と知ってか知らずか、まるで動じる様子もないからある意味で大物か、それとも間抜けなのかは、彼の言葉に期待してみるか?


「おいおい、なんだよ? 俺たちがなにをしたって言うんだ? 訳のわからねえ言葉で話されてもわからねえぜ?」


「……随分と頭の悪い転生者だな? 英語ぐらい覚えとけよな?」


「へえ、俺が転生者ってわかるんだ? それなら最初から日本語で話せよ?」


「……I realized that you must be stupid(お前が愚かだってことはよくわかった)」


「クソっ、また英語かよ、このデカ女!」


 ああ、見ているだけで笑えるよ?


 転生者と思われる若いリーダー格の冒険者だけど、全くと言っていい程に喧嘩慣れしていない様子が、ありありと伝わってくるものでさ、こいつの実力はどんなものかわからないが、少なくともダンジョン内においての冒険者同士の殺し合いが、NGであることをわかった上での暴挙であることに間違いないね。


 こちらの獲物を横取りしようとしたばかりか、随分と舐めた真似してくれた以上はさ、どうするかわかるよね?


 相手を注視しながらも横目で俺を確認するナギ姐に向かって、ハンドシグナルを送り、段取りは完了だ。


「くそっ! 舐めやがって……お前ら、こいつらを痛い目に遭わせてやる! 援護しろ! おらっ、燃え盛るほっ『TANG!』────」


 ああ、パーティー同士の殺し合いはご法度だけどさ、流れ弾は関係ないよな?


 俺はさ、そこの岩陰でなんか動いたような気がしたから、思わず撃っちゃったけど、運悪く魔法を詠唱しようとした彼の頭の方へ跳弾してしまったようだね? HAHAHA!


「燃え盛るほっ……がなんだって? ダンジョンは火気厳禁じゃねえのかよ?」


「「HAHAHA!」」


「ああ、少しは頭がすっきりしてくれるといいな?……あれ、まだリスポーンしねえな?」


 おかしいな、ちょっと威力が足らなかったのか、元々頭の中が空っぽで効果が薄かったのか……いや、バフか?


「カイヅ! まだ息がある!」


「Fu**! タイヨウ、獲物を渡してやるか!」


 敵対した冒険者たちを前で名乗るリスクを考えて、俺とナギ姐は即座に偽名、前世のコールサインで呼び合い、次の行動へと移した。


 パーティーアタック、流れ弾で特に罰則は無いと言えども、そう何度も出来ることではない。


 直接手にかけるのも問題だが、頭に銃弾を受けて倒れていながらも息のある奴に向かって、俺は全速力で駆けて行き、ちょっとわざとらしいけど彼の頭を蹴るようにして、足を引っ掻ければ『ボキッ』と小気味のいい音を立てて変な方向に曲がり、俺は盛大にずっこけた!……足元に注意だね? HAHAHA!


 もちろん受け身もばっちりだからコケたけどノーダメージだ。


 全く、悪いことをしてしまったね?


 そう言うわけで、お詫びとしてナギ姐は解体途中だった、前世で言えばアフリカの川辺でお馴染み、カバぐらいのスケールの獲物を軽々と片手で持ち上げ、首が面白い方向へあっち向いてホイした冒険者に向かって投げつけ、キャッチし損ねた彼は押し潰され……ようやくリスポーンしたことで一息と言ったところだね。


 さて、残りの三人はどうしようか?───。








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