第22話 ヒナコの拠り所








  ヒナコのケアをすること数日、ようやく精神的に落ち着きを取り戻した彼女は、一糸も纏わぬまま俺の腕の中で安心して眠りの淵へと旅立ち、心地よさそうな寝息を静かに立てていた。


 彼女のケアにあたり、どちらかと言えば三大欲求を存分に満たすこと以外の方法は思い当たらず、好きなものを食べたり、惰眠を貪ったり、狂気染みた快楽に身を任せるがまま、ベッドの上で狂喜的なダンスに講じていたりした訳だ。


 なによりも彼女は愛情に飢えている……それは前世も今も変わらない。


 前世において物心が付く前に、事故で両親を失った彼女にとっての育ての親であり、全てを肯定してくれる存在であった最愛の祖母を失ってからと言うもの、天涯孤独となったことで選んだ選択肢は、唯一頼れる俺やナギ姐と同じ、日の当たらない処へと居場所を求めてしまったのだ。


 彼女は頭が良すぎる故、ダーティハリー症候群のように歪な正義感が強すぎる故、好奇心が強すぎる故、そして孤独であるが故に同年代と上手く馴染めなかったことで、一癖も二癖もある年上相手でないと感性や価値観が合わず、幸か不幸か、こちら側へとやって来てしまったのだ。


 生来の性格からして、指揮官としてなら全く問題なかったものの、実戦に赴けばそうもいかないわけで、やがては一線を越えたことで心を壊してしまった。


 いくら自分の行いが仕方なかったと暗示するかのように言い聞かせて、騙し騙し続けたところで、彼女は満たされることなく静かに崩壊していき、とどめとなった出来事が……俺とナギ姐に対して、フレンドリーファイアをしてしまったことだ。


 彼女の銃の腕前は、近眼が祟って下手くそであるが、後方からの支援、例えば迫撃砲による支援、砲撃や航空支援の要請ととなれば的確で信頼も厚く、大いに役に立っていたのだが……あの時はそうだね、ナギ姐と共に、彼女の想定以上に前進してしまったことで、あまりにも的確過ぎた、支援砲撃によるオウンゴールだったんだ。


 あれは俺とナギ姐のミスであったし、それまでギリギリのラインで最高の支援を届けてくれていたことに、どこか慢心していたのだ。


 誰が悪い訳でもない、戦場の霞そのものであり、そもそも重大なミスを犯したのは、俺とナギ姐だ。


 俺は死の淵を彷徨う大怪我を負い、意識を取り戻すまでかなりの時間がかかった。


 一方のナギ姐は……跡形もなく蒸発し、持っていた大太刀もポッキリと折れてしまったことで、同じくしてヒナコの心も折れてしまったのだ。


 その後、彼女はウィラの設立した特務部隊ないし組織に引き抜かれ、メンタルケア等の支援を受けながら日常生活への復帰、およびウィラの補佐にあたっていた。


 数年が経ち、死の淵より戦線復帰、馴染みのレザーネックたちと共に戦い、その時に出会ったジェニファーと仲を深めた訳だ。


 しかし、現実は無情であり、戦死したジェニファーの報復の為、戦地で大立ち回りをしているとき、作戦中止命令を伝えるべく、本国から派遣されたヒナコと再会した。


 彼女の尽力によって、テロリストたちを虐殺した事実を握り潰してくれたおかげで、俺は戦争犯罪から免れた。


 そのままヒナコと一緒に本国へと帰還し、交代および引き継ぎを兼ねた休養にて、久々に彼女と一緒に過ごした最期の日々……こっちの世界でもその時の記憶が過るって訳だ。


 彼女にとって俺は、必要になった時、一気に満たされることを望むがまま、全てを肯定してくれる存在として扱われているのだろう。


 彼女が望むなら、それでもいいのだが、再び最期の日のトレースとならないことを祈りたいね?───。







 ───『チート魔王(元、今ニート)とチート嫁が行く、異世界ダンジョン夫婦漫才紀行』




 ───【第二章】元魔王、ニートから自立(ヒモ)




 ───cut!








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