第21話 ルール








  この世界のダンジョンと言うものは、一種のアトラクションのようなものであり、万が一ダンジョン内で死亡してもリスポーン出来ることは、以前説明した通り。


 先の大戦で多くの血と涙を流した果てに得られた平穏は、やがて文明の発達によって牽制し合いながらも平和になった今では、不必要な命のやり取りの機会もなくなった。


 結果、多くのものたちが理不尽にもあっけなく死ぬようなことも無くなった。


 しかし、それでも刺激を求めるものは後を絶たず、天界と地上の加盟国の間で話し合われた末、かつてはトレジャーハントの定番であったダンジョン探索を、ある種のアトラクション化として利用することが提唱された。


 その後、ハローワーク(ギルド)で登録された冒険者が、ダンジョン内に限り女神の加護を及ばせるというところに落ち着いたことで、一種のエンターテイメント、プロスポーツのような興業として認められる運びとなった。


 これがこの世界におけるダンジョンのルールであり、登録された冒険者、およびスタッフ(主にダンジョン内の魔族、ハローワークの職員等)については、ダンジョン内で死亡してもリスポーンが認められている。


 一方、ダンジョンに住み着いた魔物、今回のように潜伏していたテロリストである『反魔王派魔獣戦線』の残党たちは、その限りにあらずである。


 通常リスポーンする場合、死体は残らず跡形もなく消えるのだが、ダンジョンに住み着いた魔物の死体は消えず、剥ぎ取ることで副収入を得られるのは、トレジャーハント時代の名残とも言えよう。


 もちろん、『反魔王派魔獣戦線』の残党たちの死体もそのまま残った事実を前にして、ナギ姐とヒナコは精神的に参ってしまった訳なんだ。


 おびただしい量の死体を片付けるべく、ティターン族と力士衆に協力を仰ぎ、今はなにも語らぬ彼らの埋葬を手伝ってもらった。


 かつて思想の違いから袂を分けたけれど、彼らもまたエステライヒの一員だっただけに、最期に見せた意地を見届けた以上は、丁重に弔ってやらねばね。


 埋葬を終え、散っていったかつての同胞たちに黙祷し、来世に幸あることを願ってダンジョンを後にした俺らは、一旦ハローワーク(ギルド)に戻り、事の顛末を報告。


 もちろん報酬について不満があったため、完全武装のティターン族たちでハローワーク(ギルド)を囲み、味方につけた力士衆を引き連れてギルドマスターと対面し、圧で交渉を優位に進めたことによって、適正な価格の報酬を勝ち取った。


 ある意味で懸賞金、見舞金として協力してくれたティターン族、力士衆に分け与えれば、我々四人に回ってくる分なんて殆ど残らない。


 だが、彼らは喜んでくれたものだからさ、うちの女性陣もこれでよかったと納得してくれているだけありがたい。


 ついでとばかりに、通常であれば冒険者のランクに影響しないFランク任務であったが、ことがことだった為に、特例でDランクへの昇進を果たすことが出来た。


 特進とも言うのだろう、次からはそうだな……後味の悪い昇進、勲章なんかはごめんだ。


 前世の記憶がフラッシュバックする度、嫌な記憶が蘇ってしまうのは、一線を越えた人間にしかわからないことであろう。


 その後、ウィラはナギ姐を連れてどこかへと消え、残された俺とクソチビポメ柴のヒナコと二人きりになれば、くっついて離れなくなった彼女を一人にする訳にはいかないだろう。


 一先ず酒と食料を買い込んでから、幾つかある根城のどこへ向かおうか、無表情のまま何かを訴えかけようとするヒナコの手を引いて歩いた先に見えたのは───。








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