第30話 エピローグ カラフル


 あの後、ゴブリン1万匹の片づける事がとても大きな課題になった。

 1万もの死体が放置されていると、間違いなく王都は発生した疫病えきびょう壊滅かいめつするだろう。


 その時活躍したのは、ルーク団長さんの土魔法だった。

 王都の郊外へいくつも掘った穴にゴブリンの死体を入れた。土魔法が無かったら、穴掘りはとても大変だったはずだ。


 その後は、第二軍団の魔法部隊の皆さんに火魔法で燃やし尽くしてもらった。第二軍団は後片付け役になってしまったが、重要な仕事をしてもらったと考えている。

 それは、疫病を防ぐには予防が第一だからだ。ウイルスや細菌の存在を知らないこの世界で、疫病が大発生してから止めるのは本当に大変だからだ。


 第二軍団の団長さんへは、疫病から王都を守るための仕事も名誉な仕事だと、私から話させていただいた。けれど、軍務卿から同様のお話があったから頑張っていただけたみたい。


 死体を集める時には、あの白いひげのおじいさんがたくさんの人を連れて現れて、手伝ってくれた。誰かはよくわからないけれど、多分高名な人のようだ。


 王都の人もゴブリンの死体片づけを手伝ってくれた。私の顔を見て、声を掛けてくれる人も多くて、私が王都の人たちに、支えられ守られている感じがした。


 ゴム手袋やマスクがない世界なので、作業中には口に布を当ててもらい、終わった人ら石けんでよく手洗いをした後で、私の作ったアルコールでもう一度手を洗ってもらった。


 疫病対策の重要性と指示は、ルークさんからお父様の軍務卿へ、そこから宰相さんへと話を回してもらい、宰相様から王都の全住民に周知してもらった。



 ゴブリンから王都を守る戦いが終わってから1か月後、私はルークさんと一緒に王城へ呼ばれ叙勲を受けた。


「サリー・ブライト伯爵令嬢、そなたは王都をゴブリンから守り、その後も疫病発生を防ぐ中心となって活躍した。この功績は非常に高いものである。しかも、普段から大量の回復薬を作り王都の民の命をたくさん救った。また、孤児院での支援活動も特筆すべきものがある。よってここに、女騎士爵位を授けるとともに、『真聖聖女』の称号を与える」


「ルーク・デライト侯爵子息、そなたは王都をゴブリンから守る際には、第三騎士団を率いて勇敢に戦った。また、その後の疫病発生予防にも多大な貢献を果たした。この功績は非常に高いものである。しかも、ラビオリ領に出向き、多くの民をオーク集団から守るなど多大な貢献をした。よってここに騎士爵位を授ける」


 その後、宮中で行われた晩さん会では、私とルークさんは、たくさんの貴族に囲まれて、活躍の様子を何度も話す事になった。




 晩さん会後、城の庭園に誘われた私は、ルークさんに誘われるままついていった。


 庭園のガボゼ(あずまや)で、私の前にルークさんがひざまずいた。


「あなたのように新しい発想を生み出し、人をいつくしむ心のある人を、私は知りません。あなたの進む道を私も心から応援します。結婚してください」


 そうプロポーズしてくれた。


「はい」と私は答えた。


 ◇


 私が叙爵を受けた後、王都が被害を受けなかったのは、以前「街角聖女」と呼ばれた「真聖聖女様」が守ってくれたからだ。そんな話が王都の民衆の話題になった。


 ◇


 そして、私たちは、いま結婚式をあげたところだ。

 父と母も笑顔で私たちの未来を祝ってくれた。


 外に出ると、キラキラした目の孤児院の子どもたちが待っていてくれた。


「サリーねえちゃんおめでとう」

「ルークにいちゃんおめでとう」


 子どもたちからかかる声が、私には一番嬉しかったりする。

 

 それぞれの手には、この世界にはまだ無かったシリコンゴム風船が握られている。


 外へ出た私たち二人に、バラの花びらが降ってくる。


 ――ゴーン、ゴーン――


 鐘がなる。


 子どもたちの手から、風船が解き放たれる。


「「わあ きれい」」 子どもたちの明るい声が、だんだん広がっていく。


 真っ青な空に、解き放された色とりどりの風船が舞い上がっていく。


 真っ暗な穴の底から始まった私の人生は、いまは舞い上がる風船のように自由でカラフルだ。

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落第聖女は科学魔法で世の中をカラフルに変える 朝風涼 @suzukaze3

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