第29話 王都防衛ゴブリン殲滅作戦

 

 司令部といわれる天幕に着くと、中隊長以上の騎士が集まっていた。


「皆、私のわがままで、ラビオリ領に行かせてもらい感謝する。ありがとう。おかげで、オークは殲滅できた」


「「おお!」」


「今回、その作戦計画を練ったのが、ここにいるサリー嬢だ。皆も知っている通り回復薬を作る薬師だ。実は、オーク戦で使った魔道具もサリー嬢が考案している。今回は、彼女から作戦を説明をしてもらう。魔道具は使用方法を間違えると味方に大損害を出す。各自よく聞いて、団員に必ず周知せよ」


「「了解」」


「サリー・グレアムです。作戦を話しますが、この作戦は第三騎士団にしかできませんし、失敗すれば、王都に被害が出る可能性もあります。ぜひ成功させて、第三騎士団の名声を上げてください。がんばりましょう」


 私が右手の拳を高くあげると、それに第三騎士団の皆さんが答えてくれた。


「「おお」」


 あちゃ、おいしい所を持って行ってしまった。ごめんねルーク。

 さて、作戦を話さないといけないわ。


「ゴブリンは、縦長に伸びた形で王都に向かっています。そこを、横から蹂躙します。第1弾は重装騎兵部隊です。3騎が矢のような形で一体となって踏みつぶして、第2弾以下の通り道を作ってください。縦長のゴブリン全体に横線のように道を作ってください」


「第2弾は騎兵部隊です。重装騎兵部隊の作った道を2騎で駆けて、油のビンを周囲に投げてください。まだ火はつけないようにしてください」


「第3弾も騎兵部隊です。同じ道を通って、小麦粉を思い切り空中に舞い上がらせながらばらまいてください。まだ、絶対に火を付けないようにしてください」


「第4弾は、遠距離から火での攻撃をお願いします。ファイアボール、火炎瓶の遠投、火矢などでお願いします。小麦粉は爆発的に燃え上がります。気を付けてください」


「最後に、中隊長以上の人に、回復薬を入れた水風船を渡しますので、使ってください」


「「了解」」


「作戦実行は明朝未明である。寝込みを襲う。それまでに準備しておくように。以上だ」


 その後、騎士団は班分けや道具の配分を行った。私も自作の道具類を配って仮眠をとった。




 今は、もうすぐ夜明けの時刻。東の空が白み始めてきた。

 私はセリーナとともに王都の外壁上にいて、目の前から遠くにまで広がるゴブリンの群れの様子を見ている。ゴブリンはまだ眠っているように見える。


 そろそろ、第三騎士団の攻撃が始まる頃だ。


「ドーン」 赤いファイアボールが打ちあがる。第1弾の合図だ。


 右の横合いから、重装騎馬部隊が突撃している。3騎が3角形のくさびになって、ゴブリンの群れに幾筋もの横線を作りながら走り抜けていく。


 左に抜けた重装騎馬部隊は、遠くの地点へと移動し、今度は左から右へと、3角形のくさびとなって走り抜けて、元の位置へと戻っていく。


 馬のひずめが地を駆ける重低音がドドドと届く。

 その中に、ギャアというゴブリンの悲鳴が響く。


「ドーン」 赤いファイアボールが打ちあがる。第2弾だ。


 右から、騎馬部隊がまた走り出していく。重装騎兵部隊ほどの威力は無いようにみえる。それでも、騎馬は500㎏程度の重量があるのでゴブリンにとっては、車にはね飛ばされるようなものだ。

 2騎が並列して進みながら、油の水風船を投げている。


 右に抜けた騎馬は、左を大回りして、遠くのゴブリン集団を左から右に向かって蹂躙していく。

 

「ドーン」 赤いファイアボールが打ちあがる。第3弾だ。


 右から白い粉を撒きながら騎馬が進んでいる。速度は遅いが、白い粉が砂嵐のようにすべてを飲み込んでいく。


 右に抜けた騎馬は、大回りして、左から右に向かって白い粉の中にゴブリン集団を閉じ込めていく。


「ドーン」赤いファイアボールが上がった。


 一斉に白い粉に向かって、ファイアボールが打たれ、火炎瓶が投げられ爆発し、火矢が放たれる。それとともに、白い粉が爆炎となって燃え上がる。


 一瞬のうちに燃え上がり立ち上る巨大な炎は悪魔のようだ。

 その中にいる物は、爆発で吹っ飛ぶか、表皮を焼かれ焼け死んでいるか、たとえ生きていても肺や気道を焼かれて呼吸ができないほど弱っているはずだ。


「「突撃!!」」


 もうほとんど動けないゴブリン集団に、第三騎士団があげて突っ込んで行く。

 今度は、第1弾、第2弾、第3弾を行った騎馬が全騎一斉突撃しているので壮観だ。


 騎馬軍団は、3つの部隊が連携して規律を守って動いているのが分かる。どれだけの訓練をしたらこんなに整然とした攻撃が出来るのだろうと思って、感心しながら見入っている。


 私は机上の策を考えたに過ぎなくて、それを実行できるかどうかは、現場の騎士団の熟練度にかかっている。個々の騎士の技量もそうだが、全体を見ながら指示を出す、中隊長以上の上級士官の技量が無ければできないだろう。


 先頭を行くのは、ルーク騎士団長のようだ。明るくなってきた太陽に照らされて、そこだけ私にはよく見える気がする。


 ルーク騎士団長が帰ってこられて良かったと心から思う。彼がいるかどうかで、騎士団の士気が全く違うのだ。


 外壁の門が開かれて、第一騎士団の歩兵部隊が出撃してきた。後は、生き残りのゴブリンの残党狩りだけだ。槍で刺しながら、倒れているゴブリンにとどめを刺している。


 これで、王都は守られた。

 今回、私の出番は無かったが、それが一番うれしかった。


 しかし、これで全てが終わったわけではなかった。

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