第27話 帰還のゆくえ


 ――王都ユクラシル 第三騎士団 副団長室――


「パトリック副団長、鷹が戻ってきました」

「そうか、団長に話が通じているといいのだがな。生きているかも分からないし」


 副団長のパトリックは、鷹の足についている手紙を急いで広げて見た。


『すぐ戻りたいが、最低1日はかかる。必ず戻るから団を頼む。ルーク・デライト』


 見慣れた字だった。パトリックは思わず歓喜の大声を上げたくなったが、冷静沈着を信条としている彼は、それを必死で抑えた。ただ、自分の手の震えは抑えられなかった。


「よかった。でも、本当に1日で帰る事ができるのか?」


 喜びの感情の後不安感が頭を持ち上げた。でも、団長なら大丈夫だと自分に言い聞かせ、全ての不安感を振り切った。


 今夜行われる軍議で「団長は絶対今日中に帰って来る」と話す事に決めた。


 ◇


「サリー、すごい速さだな。さっき通った所で、すでに1日分の距離を走っているぞ」


 ルークが驚きの声を上げている。


「ふふん。そうでしょう。魔道バイクは私の渾身の傑作ですから」


 私たちは、完成後すぐに出発して、一度だけ馬車の点検と補修をしたけれど、後は休みなく魔道バイクを走らせている。食事もバイクの上だ。まさに、強行軍となっている。


 王都まであと3分の1くらいの辺りから、私の「探知」にゴブリンの小集団が引っかかり始めた。


「ゴブリンの小集団を発見。みなさん火炎瓶の投てき用意です」

「サリー任せろ!」「了解!」「分かった!」「お任せください、お嬢様!」


「くらえ!」

「グギャア!」


 火炎瓶を投てきして集団を散り散りにしたら、その中を突き進む。

 こうやってゴブリンを蹴散らしながら、休むことなく私たちは進んだ。

 

「今日中に王都へ着く速さだな」

「もう少しで王都だ。少し暗くなって来たけれど進みたい。申し訳ないが頼む」


 ルーク団長の方針で、夕暮れ迫る中をライトの魔法で照らしながら走り続けている。もうすぐだ。


「ゴブリンの大集団が前方にいるわ。セリーナ、運転を代わって。みなさん投てきよろしく!」


「サリー、任せろ!」「了解!」「分かった!」「お任せください、お嬢様!」


 私の「探知」にビンビン来ている。雑魚ゴブリンばかりのようだから、走り抜ける事にする。


 アルコール火炎瓶に火を着けて、投てきスキルで周りに投げながら、突き進んでいく。


「いけ!」「ぶっ飛べ!」

「グギャア!」「グギャアア!」 「グゲッ!」


 ゴブリン達は、火を吐く魔物に不意打ちを食らったと思ったようで、散り散りバラバラに逃げまどっている。戦意は全然感じられない。


「お嬢様、前方に人間の集団を発見しました。ゴブリンから逃げているようです」


 ゴブリンからやっと逃げのびて来たのだろうが、ずいぶん動きが遅い集団だ。ここで助けないと、ゴブリンに飲み込まれる気がする。


「わかったわ。みなさん、あの人たちを助けましょう。バイクにしがみついてください。セリーナ、突っ込んで!」

「お任せください、お嬢様」


 バイクを、逃げている人に襲い掛かっているゴブリンに向けて走らせ、はね飛ばす。


「ドガッ、ドガッ、ドガッ」

「ギャアアアアア」


 続いて、人々を守るようにぐるぐる周回する。


「バリア解除しました。バイクから剣で切るなり、火炎瓶を投げるなりお願いします」


「サリー任せろ!」「了解!」「分かった!」「お任せください、お嬢様!」

「ザシュ」

「グギャアア」


 ゴブリンの群れが、散り散りバラバラになって逃げて行った。

 バイクを止めて、けが人を救助することに決める。


「団長さん、少し遅れますがすみません。治療させてください。傷が浅い人には、初級回復薬を使わずアルコールを使ってください。傷の深い人にはためらわず回復薬を使ってください。治療が完了次第すぐに出発しましょう。みなさん治療のお手伝いをお願いします」


「サリー、それでいい」「了解!」「分かった!」「お任せください、お嬢様!」


 治療をしていると、長いひげを生やしたおじいさんがやって来た。どうもリーダーのようだ。


「ありがとう。ゴブリンどもについに捕まってしまいましてな。ここでわしら全員最後じゃと思っておったが、命を拾いました。本当にありがとう。高価な回復薬まで使ってくれて、地獄に神様とはこのことじゃった」


「じいさん、それは、このサリーお嬢さんに言ってくれ。回復薬を作ったのも消毒薬を作ったのも彼女だからな」


 ビョルンさんがそう言っている。


「そうかの。もしかして、王都にいるという街角聖女様かの?」

「……そう言われることも、たまにあります……」

「まさに、あなたこそ本物の聖女様じゃの。ありがたいことじゃ」


 両手を組んで、神様を拝むように感謝された私は、とても恥ずかしかった。

 

「サリーさん……」


 ルーク様に声を掛けられた。


「そうですね。急いで出発しましょう」


 魔道バイクを限界速度で走らせると、すぐに王都の大門が見えて来た。


「開門! 第三騎士団長、ルーク・デライトである。至急開門願いたい」


 団長さんが大声を張り上げた。


「どうぞ、お通りください」


 すぐに門が開いた。

 予定通り、魔道バイクのまま、夜道を城へと走った。王都は、人通りもなく各家の扉は固く閉ざされているように見えた。


 王城に着くと、第三騎士団の団員の数人が待っていて出迎えてくれた。団員の一人が城内に走っていくと、すぐに神経質そうな副団長のパトリックさんが、ほっとした顔で現れた。


「団長、ご無事でなによりです。それに1日でのお帰り、非常にお疲れ様です。現在軍議中ですが、なかなか判断に迷っている状況です。すぐに参加してください」


 ふうっと息を吐いてから、パトリックさんは、状況を説明してくれた。

 私たちは、城の会議室に向かって急ぎ足で歩いている。ようやく会議室に着いた。


 そうしたら扉の前でルークさんにお願いされてしまった。


「サリー、俺と一緒に来てくれ」

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