第26話 急報の鷹

 

 オークを討伐した後に、何か起きていると感じたので、急いで城に戻ると、アーノルド様が待ち構えていた。とても心配な顔をしているので、不安になる。


「鷹が飛んできた」とアーノルド様が言った。


 鷹といわれても、私には何の事なのかわからない……。


「王都ユクラシルで何かあったらしい。急報を知らせるときに軍が飛ばす鷹だ」

 と、答えてくれた。


 しばらくしたら、ルーク団長さん達も、城に戻って来た。全員無事で本当によかった。


「ルーク、鷹が来た。お前当ての書状だ。読んでみろ」

「兄上、王都で何があったのでしょうか? 読んでみます」


『ルーク団長、至急戻られたし。王都にゴブリンの大集団が接近中。副団長パトリック』


 読んだとたん、団長さんの顔が険しい顔になった。


「今から出発しても王都まで3日かかる。間に合わない。なぜゴブリンが王都に向かっているんだ」


 苦虫をギリギリとかんだような顔で、話す団長さんは、とても悔しそうに見える。


「ルーク、わしの経験では、弱い魔物は強い魔物から逃げようとする。だから、オークに追われてきたのではないか」

 と、経験を話すアーノルド様。


「そう言えば、ここに来る途中でゴブリンにもあいましたね」

 と、セリーナが裏付けるように話す。


 その後、誰も発言しないのでその場が静まりかえってしまった。

 しばらくの沈黙が続いた。

 城の外で勝利を喜んでいる声がかすかに聞こえてくるが、この場にはふさわしくない喧騒だ。



 帰る方法をずっと考えていた私は、ひとつの提案をしてみることにした。


「あの……。魔道バイクを改造しましょう。一日で帰れるように」

「できるのか」


 団長さんが、目を丸くして期待した顔できいてくる。


「できるできないで言われればできますが、ぶっちゃけ乗れるだけで、乗りごこちまで配慮する時間がありません」

「いいだろう。乗り心地は無視して構わない。一日で王都まで走れるものを作ってくれ、サリー」


 団長さんの決意と期待した目が私に向けられる。


「お任せくださいルーク様。あなたのためならばやり遂げましょう」


 私は、ちょっとふざけて右手を胸に当てて微笑んで答えた。


「ありがとう、サリー!」


 突然団長さんにギュッと抱きしめられた。


「ちょ、ちょっとまってください……。ルーク様……。王都についてからで……」

「ボン」という音がするようなほど顔が熱くなって、心臓がはねた。


「お前たち、まだイチャイチャするのはやめておけ、結婚してからだ」

「ちょ!」


 アーノルド様までが、おかしな事を言うので、変な声が出てしまった。でも、これって兄上様から結婚の許可が出たという事だよね。ヤバイよ。


 団長さんがようやく解放してくれたので、アーノルド様にお願いをすることにする。


「魔道バイクを改造する場所の確保をお願いします。それから、小型で、とにかく丈夫で、4人乗れる馬車を用意できますか? できれば同じ馬車が3台欲しいです」


「よし任せろ。用意させる。サリー嬢は、少しでも仮眠を取るのが良いだろう、必ずひとりで休め」


 なぜか、最後の「必ずひとりで休め」の部分で、声が大きくなったのは気になったけれどスルーする。


「お言葉にあまえさせていただきます」

 そう言って、城の従者の方に案内されて、客室へと向かう。


「セリーナ、ご飯食べてから寝るわ」

「それが良いと思います。お嬢様。疲れがとれるでしょう」


 空間収納から出来立てほやほや料理を取り出して、食べて、セリーナに入れてもらったおいしいお茶を飲んでから、眠りについた。




 朝起きると、案内されたのは城外の馬車置き場だった。ここなら作業しやすい。


 馬車を見ると同じ形式のものが3台あった。要望した通りで、アーノルド様に感謝した。その内いちばん程度がいい馬車1台を改造することした。


「すみません。馬車の修理を担当する方を呼んでくださいませんか?」

 近くにいた城の馬車管理者と思われる方にお願いをする。


 すぐに、職人さんらしい人が現れたので、声を掛けた。


「変な話ですが、いつもの倍の速さで一日走るとして、馬車が壊れやすい所を教えてください」

「そりゃあ、車軸と車輪だろうな」


「もっと変なお願いですみません。そっちの2台馬車から、車軸と車輪を外してもらえますか? こっちの1台が壊れたら、私が直せるようにしたいんですお願いします」


「なるほど、考えたなお嬢さん。うまく直せるように協力するよ。それで部品をどうやって持って行くかだが、あてがありそうだな。聞かなくてもいいか?」


「はい。大丈夫です。持って行けますので、よろしくお願いします」

 そちらの馬車の分解は任せて、私は改造に移った。


 コンセプトは牽引式のトラック。馬の代わりにバイクを使って引っ張る事にしたのだ。


 問題はバイクと馬車の質量差、それに慣性だ。急停車した時に、バイクの後ろから馬車が突っ込んでしまうのだ。そのため、バイクと馬車の接合部分にシリコンゴム製のバンパーを仕込んで、衝撃を和らげることにした。


 それから、馬車の部品を吟味して片っ端から取り外し、軽量化を図った。馬車に急ブレーキを付けるようにも工夫したし、できる限りの乗りごこち改善もした。多分シリコンゴム製のエアクッションがお尻に一番良かったかもしれない。


 連続して身体強化していれば、乗り心地は悪くても高速移動できそうな気はするのだけれどね。


 

 次の日の早朝、夜中から作業中だった私の所に、メンバー全員が集まって、出発準備や改造作業を手伝ってくれたので、予想以上に速く作業は進んだ。


 修理職人さんに、メンバー達が車輪や車軸の交換方法を学んだ。

 アーノルド様も、食料と油や小麦粉など必要そう物を持って来てくれた。

 私も、アルコールや初級回復薬(水風船入り)なども作る事が出来た。


 すべて空間収納に詰め終わり。昼前に魔道バイク改造と出発準備が整った。

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