第25話 ラビリス防衛戦


「ルークさん頑張って深く掘ってくださいね」

「そうだな。オークの死体で埋まらないような深さとなるとかなりだな」


「サリー掘れたぞ。この土はどうするんだ。俺の土魔法でも運べないぞ」

「大丈夫。それはこうします」

 そう言って、空間収納に全部収納してしまう。


「なるほどな。まだまだサリーには秘密があるって事か」

「えへへ。秘密の女って嫌いですか」

「サリーが嫌いになるわけないじゃないか。大好きだ」


「ボッ!」そんな音が聞こえるような感じで、私は真っ赤になってしまった。ヤバイ自爆だ。


「ま、まあ、どんどん掘ってください……。マナ切れになったら、苦いお薬をプレゼントですよ」

「よっしゃ頑張る。苦いお薬はごめんだ」


 実は、初級マナ回復薬も、マナ草からできるだろうと考えて、既に作ってあったりする。

 自分のためというより、他の人のマナ切れ対策のためにだ。私は加護持ちでマナも豊富なのだ。


「サリー掘れたぞ。次はどうする」

「さっきの土を出しますから、高い壁を作ってください」

「了解だ。どんどん出してくれ」


「お薬はいりませんか?」

「まだまだ余裕だ。任せろ。どんどん出してくれ」


 そんなこんなで、ほぼ私とルークさんだけで、城壁前に大きくて深い空堀と、だんだん狭くなる巨大な土壁を作り上げてしまったのだった。二人の愛のパワーは偉大なのである……。ま、まあ、生きて帰るためだからね!


 団長さんが土壁を仕上げているうちに、私は堀に木材やら魔物の死体やらを入れて「発酵」させて二酸化炭素を大量に作り出していく。ちょっとグロテスクで、においも出るけれど気にしない。

 他にも二酸化炭素を集める方法や、作る方法はあるけれど、やったことがないからやめた。




「カン、カン、カン」

 お昼ご飯を、仲間たちと、冗談を言いながら食べていると、城に急報を告げる鐘がなった。


「ついに来たか。みんなここまで付いて来てくれてありがとう。それからサリー、この戦いが終わったら……」


「ストップです。ルークさん、それ、私が知ってる所ではフラグって言うんです。では、皆さま、がんばるぞ!」


「「おー!」」


 私が拳を突き上げると、みんなも一斉に拳を突き上げる。

 ごめんルークさん。いい所を取っちゃったみたい。


 私とセリーナは城塞都市の外壁の上に登っている。ここが、最終防衛ライン。

 団長さんたちは、必ず集団で動く約束をして、遊撃隊になっている。今は、私の横にいて情勢を見ている。


 油を投げ、小麦粉を撒き、火炎瓶を投げるのは、領兵さんにお任せした。


 オークの先頭集団が見えてきた。

 先頭が壁の罠に入って来た。

 後ろから押されて、前が詰まって来てなかなか動けなくなってきた。

 壁の中がオークでぎゅうぎゅうずめになって来た。


 いまだとばかりに、領兵から矢の雨がオークに降り注ぎ始めた。

 倒れる仲間のオーク。仲間を乗り越えて前進していく。

 壁を登ろうとするオークも出始めた。


 領兵から、油入りの水風船が飛び始める。

 引き続き矢の雨も降り注いでいる。

 矢の雨から抜け出したオークが少しずつ増えている。

 抜け出したオークには、前に控えた兵士からのクロスボウが刺さって、オークがどんどん倒れている。


 かなりの数のオークが壁の罠に入った。

 一斉に小麦粉が撒かれたようで、辺り一帯が白い霧に包まれたように見える。

 火が付いた火炎ビンが投げられる。

 

 一瞬で、白い霧が赤い悪魔に変わる。

 巨大な爆炎がオークを包み小麦粉と油まみれのオークが焼け死んでいく。


 ――ドーン――


 しばらくしてから遠雷のような音が聞こえた。

 

 身体を燃やしながらも、ふらふらと抜け出してくるオークもいる。

 そこに、クロスボウの矢がドスドス刺さる。音が聞こえるようだ。

 その矢を抜けて、私たちの目前の空堀にまで迫ってくるオークもいる。上位種かな。


「サリーいってくる」

「いってらっしゃい」


 団長さんたちが出撃して行く。


 城壁上からも曲射で矢が放たれる。

 やっとここまで来たものの、ほとんどのオークがその矢で倒れる。


「「ブギイ!」」


 オークの悲鳴が聞こえる。


 それでも、矢の雨を抜けて来るオークもいる。力任せに堀を飛び越えようとするが、堀が深くて落ちていく。


 「ドサ……」「ドサ……」「ドサ……」


 落ちていくオークの音がするけれど、悲鳴は聞こえない。

 静かに死んでいくオーク達。

 たとえ上位種であっても、タフであっても、呼吸しなければ生きられない。

 結局、城壁までたどり着けるオークは一匹もいない。


 城壁の裏門から遊撃部隊が出撃する。

 生き残っていたオークの横腹をついて騎馬突撃するのだ。


 銀色の甲冑に包まれた重装騎兵が、オークの集団に向かって突撃して行く。

 銀色の波がオークを飲み込んでいく様子は、まるで津波のように恐ろしいくらい強烈だった。


 オークの体が宙を舞う。死体を飛ばしながら重装騎兵が槍の穂先のように駆け抜けていく。

 戦意を失ったオークが、逃げまどいながら、騎馬に踏みつぶされはね飛ばされていく。


 無抵抗で逃げていくオークには追撃の矢が放たれる。

 魔法を使える兵士のファイアボールが飛ぶ。


 「カンカン」「カンカン」「カンカン」


 壁の大門が開いて、堀に大きな木橋が渡される。

 いよいよ終盤だ。


 木橋を渡って、槍を持った兵士が出撃していく。

 魔法士部隊もそれに続いて出撃していく。

 ルーク団長さん達も、一団となって出撃していく。


 最後の白兵戦だ。罠の壁の兵士も降りて戦っている。

 

「セリーナ私たちも行こう。魔道バイクで走って支援しよう」

「了解しました、お嬢様。私が運転しますので、バリアと投てきをお願いします」

「わかったわ」


 魔道バイクを取り出して乗り込む。すぐに身体強化をかけてバリアを張る。身体強化してもなぐらないよ。安全のためだからね。

 魔道モーターのスロットルを上げて、オークに突っ込む。


 辺り一帯を走り回って傷ついた兵士がいたら、バリアを一瞬切って、初級回復薬を投げる。

 まだパワーのあるオークには、ナイフを投てきする。

 元気すぎるオークには、油とアルコール火炎瓶を投げつけて弱らせる。

 ついでに、バインドで足を縛って転がす。


 弱った所を、兵士たちが槍で刺し貫いて行く。


「ふう、終わった。これでひと安心だね。セリーナ」

「そうですね。お疲れ様でした。お嬢様。」


 うん……? 何だろう、この感覚。とても嫌な感じがする。


 急いで城に戻ろう。何か起きている!

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