第22話 団長さんの決断、私の決断
朝食後のお茶を飲んでいると、突然、私の頭に「危険が迫っているという知らせ」がビンビン来た。初めての事態に驚いて、カップを落としそうになった。
「ルーク・デライト様が、サリーお嬢様にお話があるとの事で、ご訪問なさっております」
突然、玄関の使用人から連絡が来たのですぐに出ていくと、ルーク団長が待っていた。
「急に生まれ故郷のラビオリ領へ帰る事にした。突然の事ですまない」
ここまで困った顔の団長さんを見るのは初めてだった。よほどの事なのだろうと察した。やつれ果てた顔が、睡眠不足を物語っている。とりあえず、応接間に通して話を聞くことにする。
「セリーナ、客間にお通して、お茶の準備をお願い」
「かしこまりました。お嬢様」
私は客間に行って、団長さんからお話を伺った。
「突然のご訪問、何かあったと思いますが、一体何があったのですか?」
「『黒の森』からオークの大集団が、ラビオリ領を通って王都方面に向かっているという連絡が入った。だが、国は王都防衛を優先して第三騎士団の出撃は許可しない方針だ。私には生まれ故郷を捨てる事ができない。かといって、第三騎士団を率いて向かうこともできない。そのため、第三騎士団を脱退してきた。ただの騎士としてラビオリ領に向かおうと思う。申し訳ないが、君を幸せにしてあげる事が出来なくなった」
それって、命を捨てに行くようなものだと思ったけれど、それを言うべきではないと察した。だから王国がなぜラビオリ領を切り捨てたのか疑問に思った。
「命を懸けて故郷を救うというお考えは分かりました。それで、なぜ、王国はラビオリ領を見捨てるようにしたのだと思いますか? 第三騎騎士団は、王都以外にも出動するんですよね」
「多分、ラビオリ家は貴族派閥だからだと思う。もちろん、王都防衛が手薄になると考えてもいるとは思うけれど」
(そうか。こんな所にまで派閥争いの影響が出ているのか。困るのは平民じゃないか)
「準備や行動の予定はどうなっていますか?」
「準備は体だけだ。特に行動の予定はない。とにかく実家に帰って応援をしようと思う」
(そうか、国からは孤立無援という事なんだ。それは団長さんもつらいだろうな)
「ご自宅までどのくらいの日数で帰れますか?」
「多分、3日で帰れると思う」
(馬は時速6kmで1日に60km進めるようだ。3日で180km進むから、ラビオリ領まで180kmという事だろうか。バイクだとの3倍以上の速さで走れそうだから休みながら悪路を時速20kmで走っても1日で着きそうだ)
「オークはラビオリ領や王都にどれくらいの日数で到着すると言われていますか?」
「オークの速さはそんなに速くないようだ。だからラビオリ領の領都ラビリスに到着するまで3日くらいだろう。王都までは1週間くらいかかると思う」
(オークは途中で戦いながら進むから時間がかかるのだろう。私に出来る事を聞いておこう)
「団長さんは私を連れて行ってくれと言っても断るでしょうから、せめて、私が今できることを教えてくれませんか」
「サリーさんには迷惑をかけたくなかったから何も言わないで行こうと思ったのだけれど、やはりそう言ってくれるんだね。じゃあ初級回復薬をできるだけもらえるかな」
(今持っているのが200本あるから、それを全部渡そう。後は作ってから追いかけるのが良さそうだ)
「作った回復薬は、ほとんど冒険者ギルドに納品してしまって、今手元に200本しかありませんが、それを差し上げましょう」
「ありがとう」
その時、玄関で騒がしい声がして、使用人から報告があった。
「お嬢様、第三騎士団の皆さんが団長に合わせて欲しいと言っています」
「わかったわ。お通ししてちょうだい」
そうすると、第三騎士団の護衛の、ブラントさん、アルマさん、ビョルンさんが入ってきた。
「団長、水臭いですよ、一人で出て行くなんて。一緒に行って連れ帰りますからね。それから、退団届は保留だそうですよ。今回は出張扱いです」
と、ビョルンさん。
「副団長が、団長1人だと何をするかわからないから、俺たちに付いて行けと指令がでました」
と、ブラントさん。
「まあ、ちゃんと、サリーさんの所に行って話しているだけ立派です。サリーさんのために帰ってきますよ団長」
と、アルマさん。
それを聞いて、後を追いかけるという計画をこの場でしゃべるわけにはいかなかったけれど、この3人が一緒に行ってくれる事に心から安堵した私だった。
「皆さんが付いて行ってくれると聞いて安心しました。ぜひ無事に帰ってください。それから、初級回復薬を200本を渡しますので持って行ってください」
そう言って出した回復薬は、アルマさんが手にしてバックにしまった。
「団長、これはみんなで分けた方がいいですね。とりあえず私が持っておきます。あと、食料を積んだ荷馬を連れて来ましたから、一緒に行動してくださいよ」
「みんな、ありがとう。サリーさんもありがとう。行ってくる」
そう言って団長さん達は、我が家を後にした。
「セリーナ、私は…………」
「お任せください、お嬢様」
「私、まだ何も言ってないけれど」
「追いかける準備ならば、今から始めておきますからご安心ください」
「セリーナ、ありがとう」
ちょっと涙が出そうになるほど嬉しくて、顔がくしゃくしゃになっている気がする。
その後、まずお母様の所に向かった。
「お母様……実は、ルーク団長さんが、生まれ故郷のラビオリ領に行くと言っていて、私も行ってルーク団長さんを助けたいんです」
「そうね。あなたなら、そう言うと思ったわ。それで、あなたの気持ちはどうなの」
「気持ちですか?」
「そう。あなたは、団長さんを愛しているの?」
「…………はい…………」
「じゃあ決まりね、女は度胸よ! 行ってらっしゃい。愛する人のために頑張って来るのよ。お父さんの事はまかせなさい」
「ありがとう。お母様!」
「サリー、愛しているわ。生きて帰って来るのよ! 絶対2人で帰って来るのよ!」
私とお母様は、しばらく抱き合ったままだった。
もうだれも私を止められない。団長さんを助けに、ラビオリ領に行くんだ!
――――――――――――――――
名 前:サリー・グレアム
スキル:基礎魔法
スキル:聖魔法Lv99(身体強化、バインド、バリア)
スキル:格闘術Lv70
スキル:弓術Lv50
スキル:調合Lv99(初級回復薬、中級回復薬、上級回復薬)
スキル:科学魔法Lv99(抽出、合成、変形、発酵)
スキル:鑑定Lv70
スキル:探知Lv99
スキル:危機察知Lv50(新)
スキル:栽培Lv50
ギフト:女神フリーディアの加護(空間収納、科学魔法創造、スキル習得率大幅増加)
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