第21話 幸せな日々


 目の前には、お肉が山盛りになったお皿がいっぱいならんでいる。トリ系の肉。シカ系の肉。ブタ系の肉。オオカミ系の肉。変わった所ではヘビ系の肉もあった。


(野菜不足よね。これじゃあ痛風になっちゃうんじゃないかな。この世界には痛風ってないのかな?)


 なんてことを考えていたら、お皿に焼き肉がいっぱい乗った団長さんに声を掛けられた。


「一緒に食べませんか。焼いて持ってきましたからどうぞ」


 そう言って、焼き肉で山盛りのお皿を渡してくれた。


「ありがとうございます」


 渡された焼肉は、シンプルな塩味で、香辛料やタレはかかっていなかった。


 みんなと少し離れた場所に座ると、団長さんが果実水を持って来てくれた。自分用はエールだ。セリーナは少し離れた所でこちらを見ていてくれた。


「今日はどうでしたか」

「とても楽しかったです。それに皆さんが強いので、回復薬の出番もなかったです」


「なるほど。じゃあ、その水風船みたいな回復薬っていうのを見せてもらえますか」

「どうぞ」と言って水風船を渡した。

「なるほど。これなら投げられるし普通なら壊れない。面白いものを作りましたね」


「中に入れる物を変えれば、魔力回復などもできますから、役立つと思うんです」

「中に、毒をいれたり、目つぶしの粉を入れたりもできそうですね」


「あ、それ考えました。やっぱりエゲツナイですかね。あはは」

「いや、当然戦うのだから、考えて当たり前だと思いますよ。ただ、やられる方はたまらないでしょうね。あはは」


「ところで、サリーさんは、これからどんな事をしたいのですか」

「そうですね。もう、聖女にならなくてもいいと思うんですよ。それより、自分が楽しい事、人のためになる事、子どもとかかわる事なんかがしたいですね」


「いいですね。貴族の聖女資格なんか必要ありませんよ。具体的にはどんなことを考えているんですか?」


「空を飛ぶ乗り物の研究をしたいです。それと、回復薬をたくさん作る研究をしたいですね。薬草の大量栽培方法とか冬でも栽培する方法です。あとは、孤児院の子どもたちに字を教えたりできたら楽しいですね」


「ちゃんと、目的があって、前に進んでいてすごいですね。私の周りにはそういう女性はいないです。男に頼る事ばかり考えている女性は多いけれど、サリーさんのように考える女性はいませんね」


 団長さんは、息を大きく吸って吐いてから、言った。


「……サリーさん、私とお付き合いをしてくれませんか……。あなたのような人は、今後現れない気がするんです。幼なじみというだけでなくて、もう少し……あの……もう少しだけ踏み込んで行きたいのですけれど……」


 団長さんの打ち明け話を聞きながら、自分も全身が熱くなるようだった。


「私のような、何も分かっていない女でいいんですか?」


 嬉しかったけれど不安もいっぱいだったので、やっぱり聞いてみた。


「はい。あなたと一緒にいて話が出来ればそれでいいです」


「私も相談したり、一緒に笑ったりできる人は団長さんくらいしか思い浮かばなくて、今回もここにきちゃいました。ぜひ、たくさんお話をさせてください」


「……よかった……」

「……わたしもです……」


 そんなわけで、私は団長さんとお付き合いをすることになった。やったあ。


 お母様とお父様に話すと、とても喜んでくれた。特に、自分のように研究して生きて行きたい女と付き合ってくれる男性はいないから大事にしなさいと言われたのは嬉しかった。


 ◇


 それからの1年間はとても楽しく幸せな日々が続いた。


 団長さんにお休みがあれば、ご飯を食べたりお茶を飲んだりした。

 時々は、セリーナや護衛人たちと魔物狩りという名の焼き肉パーティをしたりもした。

 孤児院デートも重ねた。孤児院の子どもたちと一緒に薬草を栽培して、それから初級回復薬を作って売り、利益を孤児院に寄付するという事もした。


 団長さんとの距離はどんどん縮まって行った。

 

 私は、朝の鍛錬を毎日続け、魔物狩りにも週に1度は行くことにして体の動きを磨いた。

 格闘術以外に。クロスボウの射撃訓練と投てき訓練も日課に入れた。


 その結果、格闘技と弓術と投てき術のレベルが上がって、回復薬を目標に命中させれるようになった。


 植物採集も定期的に行って、いろいろな植物を採取した。

 自宅での植物研究も進めた。

 研究室のとなりに温室を建てて、ヒール草やマナ草の大量栽培に挑戦した。温室は大工の親方に木枠をつくってもらい、私の作ったガラスをはめ込んだ。一年中薬草が取れるようになったので大量に栽培した。その結果『栽培』スキルが身に付いて、栽培効率がどんどん上がった。


 土の改良と肥料は、科学魔法で考えた。

 まず、『発酵』を利用した科学魔法で有機肥料作りをした。討伐した魔物と伐採した材木で、窒素・リン酸・カリとカルシウムを含んだ有機肥料を作った。

 もうひとつはフカフカな土づくりのため堆肥を作って混ぜた。まず、木材チップを発酵させ堆肥を作った。土の微生物を生かすためシリカゲルや炭を作って混ぜ込んだ。


 そして、私はついにバイクを作る事にした。風になりたかったから。

(身体強化とバリアがあれば死なないはずだ……)


 最初考えたのは、空を飛ぶエアバイク。ドローンのように複数のプロペラで自由自在に動くマルチコプター。そう考えたけれど……断念した。

 どう考えても複数のプロペラを動かすにはコンピューターによる電子制御システムが必要だと分かったからだ。こっちの世界では魔道工学を学ばないと、これは無理だろう。


 結局、地上を走るバイクにした。車輪1つを回せば動くし、操縦は手動。エアバイクからすれば全く楽だ。


 車体の素材としてまずカーボンナノチューブを作り、その後、特大の車体を作った。イージーライダーの大型版のようなイメージだ。強化シリコンゴムタイヤも極太のブロックタイプにして、バンパーも強化した。道が悪いからね。


 動力部の魔道モーターは、お母様に王都一番の魔道具工房を紹介してもらった。そう、人に頼った……。回転運動するだけの仕組みだが、私にはまだ作れない。でも、うらら時代の記憶がある私は、マシンも大好きだ。親方に特大パワーの魔道モーターを作ってもらいながら魔道工学も学んだ。そしてようやく燃料をくず魔石とする魔道バイクが完成した。

 

 そして、魔道バイクを試乗して、大喜びしていた日の夜。それは起こった。


 ――――――――――――――

 名 前:サリー・グレアム

 スキル:基礎魔法

 スキル:聖魔法Lv99(身体強化、バインド、バリア)

 スキル:格闘術Lv70

 スキル:弓術Lv50(新)

 スキル:投てき術Lv50(新)

 スキル:調合Lv99(初級回復薬、中級回復薬、上級回復薬、初級マナ回復薬(新))

 スキル:科学魔法Lv99(抽出、合成、変形、発酵(新))

 スキル:魔道工学Lv10(新)

 スキル:鑑定Lv70(上昇)

 スキル:探知Lv99

 スキル:栽培Lv50(新)

 ギフト:女神フリーディアの加護(空間収納、科学魔法創造、スキル習得率大幅増加)

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