第20話 騎士団流 焼き肉パーティ


 私とセリーナは、第三騎士団の皆さんと野外焼き肉パーティという名前の魔物討伐に来ている。

 目の前には、第三騎士団員の皆さんが整列している。どうやら、希望者が多すぎてくじ引きになったらしい。


 団長さんが前に出て、演説を始める。


「第三騎士団の諸君、今日は、俺たちの街角聖女サリーさんの応援焼肉パーティだ。存分に楽しんで食ってくれ。ただし、肉は森の魔物から調達だ。やろうども、魔物を狩りまくって食いまくろう!」


 団長さんがそう言って右手の拳を突き上げる。いつものクールっぽい姿とは全く違う「オトコ」の団長さんがいた。


「「おお!」」


 という声が地鳴りのように聞こえると、一斉に、森へと駆け出して行く。


「さて、われわれも行きましょう」


 団長さんにそう言われて周りを見ると、私とセリーナのほかに、護衛のブラントさん、アルマさん、ビョルンさんとルーク団長さんがいて、私たちを取り囲むようにしている。


「はい」


 そう言って私は、団長さんについて行く。


 私の「探知」から辺り一帯で魔物狩りが行われているのが分かる。騎士団はグループ行動で、多対1で魔物を殲滅しているようだ。


「みなさん強いんですね。あちらこちらで魔物を倒しているように感じます」


「やはり、サリーさんには分かりますか。『ユクラシルの森』と違って、この『灰色の森』は結構強い魔物が多くて、なかなか手が出せなかったんですが、回復できるサリーさんが来てくれたので安心して「焼肉パーティ」が出来ます。ハハハ」


「強い魔物が多いのですか?」

「そうですけど、大丈夫でしょう。多分。ハハハ」


「前から大きな気配がします」

「我々もいっちょやりますか。回復よろしくお願いいたします。いくぞ!」


 団長さんは、背中のバスタードソードに手をかけると、一気に駆けて行った。あれは、身体強化魔法を使っているんだろう。フルプレートメイルにバスタードソードでダッシュなんて、普通の人間にはできないからね。


 ドドドド! 地鳴りのような音がする。バリバリバリ! 木の折れる音がする。これは、キバイノシシかもしれない。


「セリーナ行こう!」

「了解です。お嬢様」


 私たちも駆けだした。


 前方に、キバイノシシと向かい合っている団長さんが見えた。


「全く、団長ったらカッコいい所を見せたくて一人で突っ込んでいっちゃうんですからね。かわいいでしょ。ふふふ」


 横について走ってくれているアルマさんが、笑顔で話しかけてくる。


「……まあ、そうですね……」


「いくぞ! ブタニク!」


 そう言って、団長さんがキバイノシシに向かって行く。


「シュンドウ」「スラッシュ」


 一瞬のうちにキバイノシシの真横を駆け抜けた団長さんが、バスタードソードを横なぎに一閃したのだろう、青い残光が見えた。きれいな一撃だった。この世界には剣術のスキルがあったんだ。剣と魔法の世界だものな。と感心していると。ドサリという音とともに、体を上下に切られたキバイノシシが内臓をまき散らしてどさりと倒れた。


「あああ、団長! 上下に分けちゃうと、お肉が台無しですよ。もう仕方ないですね。サリーさんの前だとカッコつけたいのも分かりますけれどね。ふふふ」


 アルマさんがそう言ってたしなめた。


(え! アルマさんは、あんな事を言ってるけれど、団長さんは私の事をどう思ってるんだろう)


 少し、心臓の音が大きくなったような……。気のせいかな。


「あ! そうだった。すまんなアルマ、上半分を使ってくれ」


 そう言って、あやまる団長さんがチョットかわいい。うふふ。


 うん?! 周囲の魔物が集まってきている気配がする。


「お嬢様、少し危険な気がします。お気をつけて」


 セリーナもそう言ってくる。周りの騎士さんも気づいたようで警戒態勢を取りながら、こちらに戻ってきている。


「ダイヤオオカミの率いる群れかもしれないな。ちょっとばかり厄介だ気を付けてくれ」

「「了解」」


 しばらくすると、ツノオオカミの群れが私たちを取り囲んだ。10匹以上いる群れだ。一番大きな個体がダイヤオオカミのようだ。


 私の周りを取り囲むように騎士さんたちが配置に着いた。


「ガウ!」

「ガウ!」

「ガウ!」


 3匹のツノオオカミが、時間差を置いて左右と前から飛び掛かってくる。


 左からのツノオオカミの頭にビョルンさんが、両手剣を叩きつけると、一撃で頭が吹っ飛んだ。

 右からのツノオオカミの首元をブラントさんが、片手剣で切りつけると、首から上が切れて落ちた。

 前からのツノオオカミには、団長さんが対応した。両手剣を振るうと頭から2つに体が分かれて中の物が散らばった。


「ちょっと、みなさんきれいにいきましょう」


 そういうアルマさんは、短剣をメイスに代えて持ち、もう片方には盾を構えている。メイスで殴ってもグチャリで「きれい」にはならないと思ったけど黙っておいた。観察している私にもまだ余裕がある。


「サリーさん大丈夫そうだね。安心した」


 団長さんが気遣ってくれた。


「ありがとうございます」


 ガッツポーズをして答えた私は、少し顔が熱かった。


「さて、切りまくるぜみんな! さあ来い、いぬっころ!」


 そこからは、ほぼ乱戦になった。飛び掛かってくるツノオオカミを全員が一撃で倒していくので圧巻だった。20匹もいたと思われるツノオオカミも、最後のダイヤオオカミだけになっていた。


(バインド)(バインド)


 私がバインドの魔法で足と首を絞めて動きを止める。


「クウン」

「とう!」


 セリーナが飛び掛かって、左右の短剣を振ると、どさりとダイヤオオカミの首が落ちた。


「獲物の数が多いなあ。マジックバックを持って来ればよかった。誰か持ってるか?」


 団長さんの言葉に、私が申し出た。


「あ、私が運びます」


 そう言って、私は皆さんと協力して、空間収納に獲物を入れていく。最後はみなさんが自分でクリーンをかけて、剣や体をきれいにしていた。この世界の騎士団ならば生活魔法は普通に使えるようだ。


「獲物は十分だから、もどって焼き肉パーティをしよう」


 そういう団長さんの声で、出発地点へと戻った。いよいよパーティだ。

 ただ、私は魔物の焼肉パーティより、団長さんとどんな話ができるかの方が気になっていた。

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