第19話 聖女と同格になった日
初級回復薬から上級回復薬まで作る事が出来た翌日、私は水風船を作ろうと考えた。
そのためにはまず材料作りだ。実験室で河原の石から『抽出』して、様々な鉱物を取り出した。硫黄や鉄などが欲しかったので、取り出せたことはよかった。魔物の死体からも、リン、カルシウムなど、を抽出しておいた。
水風船の素材は、シリコンゴムにした。
シリコンゴムは、薬品に強いので、いろいろな物が入れられるから夢が広がる。中に入れる物によっては、とてもエゲツナイ爆弾ができるはずだと考えた。
(まるで、マッドサイエンティストみたいだ……)
材料の主成分は、二酸化ケイ素で、ガラスビンと同じになる。
二酸化ケイ素に有機物や無機物を少しずつ混ぜる。という知識がうらら時代の私にはある。特に、ゴムのようにするには硫黄が必要だと記憶している。
テーブルの上に材料を並べる。二酸化ケイ素の白い粉末。硫黄の黄色い塊。それから有機物として木材を一本。二酸化ケイ素を作ったときの余り物。魔物から抽出した、リンやカルシウムなども並べた。
合成は集中が必要なので、理科の授業で使っていたシリコンゴムをイメージして合成を進めた。スキルが育っているので、以前より少し楽にシリコンゴムっぽい塊が「合成」出来るにはできた。
でも、なかなか満足いくような、シリコンゴムにはならない。ボロボロだと壊れやすいし、硬すぎたら割れない。うまくボヨンと弾むようにしたい。
トライアンドエラーを繰り返した。
何度も繰り返した。
そうしてようやく、強い衝撃を与えれば割れて、持っているだけではこわれないシリコンゴムの塊が合成できた。
つぎに、このシリコンゴムから、水風船を『変形』して作った。
小さな水風船には回復薬を中に入れて50個作った。普通のビン入りは50本残っている。これで、投げる回復薬ができた。
「やったね!イエーイ!」
「やりましたね!イエーイ!」
と大喜びして、セリーナとハイタッチをした。
後で思い返すと、この瞬間にヒールのできない落第聖女だった私が、完全に「聖女と同格」になった瞬間だった。
でもその時「聖女と同格」になった事には全く感慨など無かった。
それは、たくさんの人を回復薬で救えるようになった感動の方が大きかったからだし、ヒールを使える「貴族の『聖女』」には、全く興味が無くなっていたからだろう。
自分が投げる回復薬を作れた事や、上級回復薬まで作れた事を誰かに言いたいなと考えた時浮かんだのが、クラーク団長だった。
研究所から、外に出て、護衛の人を探した。今日は、アルマさんがいたので、団長がいる所まで案内してもらうことにした。
「アルマさん、団長さんに会いたいのですけれど、今どこにいるかご存じですか? できれば案内していただきたいのですが……」
アルマさんに聞いてみた。
「了解しました。サリー様。ご案内いたします」
「アルマさん、我が家の馬車で行きたいので一緒に乗ってください」
「はい、ではご同行させていただきます」
馬車にしばらく乗って着いた所は、第三騎士団の宿舎だった。そこは、王都の城壁内に広い訓練場を持つ敷地に建っていてとても堅牢な作りだった。
馬車を降りて、宿舎の中に入っていくと、歓声が上がった。
「「こんにちは」」
「「街角聖女様」」
そうだった、応援団がいっぱいの場所だったことに今更気づいても遅い私だった……。
めちゃくちゃ恥ずかしい思いをしながら、団長室へと向かった。
「いらっしゃいサリーさん。よくきてくれました。アルマ、お茶を頼むわ」
「おいしいお茶、了解です」
アルマさんが、お茶を入れに出かけて行った。
「こんにちは。団長さん、今日は嬉しい事があって、つい話したくて来てしまいました」
私は、本音を話した。
「それはうれしいですね。おかけください」
と椅子をすすめられた。
「おいしいお茶と、お菓子です」
笑顔のアロマさんが、お茶とお菓子を私の前に置いた。そして、団長の前と、自分の前にも置いて座った。
「おいアロマ、お前も聞くのか」
「当然です、いい話みたいなので一緒に聞いて一緒に喜べば楽しいじゃないですか」
「しかたないなあ。サリーさんいいですか? こいつがいても」
ポリポリと頭を掻きながら団長さんがしゃべる。
「ふふふ。いいですよ。思い切り喜んでください」
そう言って、これまでの成果を話し始めた。
「まず、今から話す事は秘密にしてください。よろしくお願いします。私のスキルも秘密でお願いしたいです」
「了解した。もちろん秘密にします。どうぞ自分たちを信じてください」
団長さんは、真剣な眼差しでそう言った。
「ありがとうございます。実は、私、初級回復薬だけではなくて、中級と上級回復薬までつくることができました」
「それはすごい事だね。騎士団としてもとてもうれしい話です。もしもの時の保険になりますから」
団長さんは、こぼれるくらいの笑顔で、はずむようにそう答えた。
「それから、投げる初級回復薬を開発できました。これを使えば、ケガをしている人をめがけて回復薬を投げれば、その場で回復することができます」
「おおお。それはすごいものを作ったね。それって聖女と同じことができるってことじゃないか? しかも上級回復薬まで作れるとなったら普通の聖女を越えて国家レベルだね。ついに聖女学院を見返せたのか。よくがんばったなあ」
団長さんは、今にも泣きそうな顔になって、喜んでくれた。
「はい。ついに聖女学院退学の汚名を晴らせました。ヒールはできませんが、回復薬で聖女様を越えられたかもしれません」
わたしも、うれしくて、泣き笑いのような感じになってしまった。
「それじゃあ、団長! 街角聖女様を応援する野外焼き肉パーティをやりましょう!」
と、アルマさんが、楽しそうに話した。
「へ? 野外焼き肉パーティですか……?」
「そう。ちょっと変わっているけれど野外焼き肉パーティだよ! 魔物の肉でやるんだ! いいだろう」
(それって、ちょっと変わってるくらいじゃない気がするけどなあ……)
そう思う私だった。
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