第16話 石は水晶に変身しませんか?


「親方、素晴らしいですね。日の光は入るし、風通しも良くて、水回りも使いやすい、申し分ないです」


 今日は研究室の完成日。目の前には、以前は物置きだとは思えないほど立派な研究室がある。薬品を使うので、何といっても風通しが良いからうれしい。


「お嬢様のご期待に沿えてなによりで。人数を集めて一気に仕上げましたんで、何かあったら言ってくだせえ」


 そう言う親方も完成具合には自信があるようで、腕組みをしながら、満面の笑みをうかべている。


「これからも、お願いすることがあったらぜひ頼みますね」


 そう言って、建築確認は終わった。

 



 研究室ができたので、初級回復薬作りに、気合いを入れる。


 早速、魔法薬作成キットとヒール草100枚と魔石を取り出して、初級回復薬を作ろうとしたのだが、ビンが品切れなのを忘れていた。相変わらずの準備不足にため息が出てしまう。しかたがないので、セリーナにお願いして買ってきてもらうことにする。


「お任せください、お嬢様」


 と、いつものように言ってから、直ぐに薬師ギルドへ買い物に行ってくれるセリーナには頭が下がる。ついでだからと、1000本くらい買ってきてと頼む。



 いつもビンで困っているのだから、ビンも自作できないか考えてみる。ギフトの科学魔法を使ってみよう思ったのだ。


 うらら時代の知識で考えると、ガラスの主成分はSiO2(二酸化ケイ素)だ。結晶化すると水晶になる物質だけど、そこまでは必要無い。

 それより、二酸化ケイ素は石の主成分だから、そこら辺に転がっている石から石英ガラスが出来る事になる。不思議な感じが少しするけれど事実だから楽々出来るはずだ。たぶん……きっと。


 というわけで、お庭で石っころを拾ってきて、石英か水晶にならないか頑張ってみる。

 きっとできるはず。だって私には、科学魔法があるじゃないですか。と、自分で自分をはげましてみる。


「うーん。うーん」


 うなって頑張ってみたけれど、石っころが水晶や石英には、結局変身しなかった。残念な結果に眉をしかめて考えこむ。やっぱりビンを作る魔法は難しいのだろうか。



 そのうち、セリーナが帰って来た。薬ビン1000本を抱えている。やり遂げた感いっぱいのセリーナの笑顔がまぶしすぎる。やっぱり1000本は多かったかなと、ちょっと後悔した。


 申し訳ないので、先にセリーナと魔法薬作成キットで初級回復薬を100本作り、空間収納にしまう。ヒール草が在庫切れなので、100本までしか作れないのが残念だ。残りのビン900本は、空間収納へキープしておいた。早いところ採集に行かないといけない。



 900本の予備はできてもビンづくりが諦められない。困ったあげく、私が魔法を習ったセリーナに聞いてみる事にした。

 そのために、私の秘密を打ち明けた。


「セリーナ、実は私には空間収納以外にも秘密があるの。今までにない新し魔法を作れるみたい。それで、石からガラスビンを作る魔法を考えたんだけど、うまくいかなかったんだけれど。どうしてだと思う?」


 セリーナは、うなずきながら当たり前だという感じで話してくれた。


「お嬢様、石からガラスビンを作る魔法というのは、かなり難しい魔法のはずです。私には、作れるイメージが全く浮かんできません。本当に石ころからガラスが出来るんですか?」


 なるほど、この世界ではあり得ない話だった。確かに、自分もなんか不思議だという思いがぬぐいきれていないのに気付いた。セリーナの話どおり、魔法は結局のところイメージなのだから、私が信じられないで出来るわけがないのだ。


「セリーナには詳しい説明は出来ないけれど、石からガラスを作れるというのは、本当の事なんだよ」


 そう言ってから、イメージしやすいように、段階的に作ってみる事にした。


 まずは、石から分離されたガラスの粉が出来ていくイメージを高めていく。抽出のイメージだ。

 しばらくイメージを集中していると、石がパリパリと割れてどんどん小さくなって消えていき、反対に塩のような白い粉がサラサラと出来てきた。石が全部無くなると、白い粉の山と、残り物の塊が出来ていた。


「お嬢様、ガラスの粉末のようです。キラキラしています。すごいですね、この魔法は」


「ありがとう。おかげでうまくいったわ。ここからガラスビンを作るわね」


 今度は、ガラスビンをイメージする。とにかく集中してイメージをつづけた。これは合成と変形のイメージだ。しばらく集中していたら、白い粉の山が光ったと思うと、薬ビンが1本出来ていた。


「えへへ。やったね。イエーイ!」


「はい、お嬢様。イエーイ!」


 それから、薬の種類が分かるように少しずつ形を変えて10種類くらいビンを作り、空間収納に入れた。




 そこで、ビンに入れる薬のアイデアを考えれば面白いことが出来そうだと考えた。


「セリーナ、ビンに入れたら使える薬って何かあるかな?」


「お嬢様、回復薬も、戦闘中に投げて使えたら、ヒールの魔法みたいに使えるかもしれません。でもガラスビンではちょっと痛そうです」


「なるほど面白い。痛いのはビンを変えれば出来るよね。解毒薬を入れるのもいいかもしれないね」


「アンデッド系の魔物用にお嬢様のウオーターの水を詰めておくのはいかがでしょう。聖水の効果があるのではないですか?」


「いいねえ。だったら、毒や目つぶしも入れるといいかな」


「えげつないですね。さすがです、お嬢様」


「ハッハッハ……。それから、小麦粉をばらまけるようにしようかな」


「なんですかそれ、パン屋ですか?」


「いやいや、粉塵爆発っていうのがあってね、燃えやすい粉をばらまいて火をつけると爆発するんだよ」


「やっぱりえげつないですね。さすがです、お嬢様」


「ハハハ……。燃えるなら、油とか、お酒とかも使えるね。アルコールだけど」


「アルコールとは何か知りませんが、確かに強いお酒は燃えますから、それは効果的だと思います。お嬢様」


 ビンが出来たらだろう、どんどん「エゲツナイアイデア」が広がっていく。


(エゲツナイ事をしでかすにしても、まずは、素材を集めないといけないよな)

 そう考えて、明日は何をしようか考えた。


 ――――――――――――

 名前:サリー・グレアム

 スキル:基礎魔法

 スキル:聖魔法Lv99(身体強化、バインド、バリア)

 スキル:格闘術Lv50

 スキル:調合Lv99(初級回復薬)

 スキル:科学魔法Lv99(抽出(新)、合成(新)、変形(新))

 スキル:探知Lv99

 ギフト:女神フリーディアの加護(空間収納、科学魔法創造、スキル習得率大幅増加)

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