第15話 衝撃の事実再び


「ルーク・デライト様が、ご到着しました」


 いつものように、9時になった頃、玄関の使用人から連絡が来たので出ていくと、ルーク様が待っていた。


 ルーク様の馬車で、孤児院へ向かった。馬車の中では、ルーク様から子どもの頃一緒に遊んだ話を聞いて過ごしていた。けれども、途中からルーク様の口数がだんだん減って、最後はさみしそうな顔になった。

 どうしたのだろうと、考えていたら。


「私の事は、ルークと呼んでください」


 突然そう言ってきた。顔は真剣で決意がこもっている。


「えっ!」


 とっさに声が出た。まだ、そんなに親しくないし、呼び捨ては速すぎるよね。などとぐるぐる考えて、私は口ごもってしまう。


「ああそうか」


 そう一言いってから理由を話してくれた。


「幼なじみで、小さな頃から一緒に過ごして来たのに、「様付け」されるのは、やっぱり違和感があるんです」


 ということだった。確かにルーク様にとっては、様付けに違和感があるだろうなと思ったが、自分は反対に呼び捨てに違和感があった。それで、どうしようか、悩んだけれど、迷いを振り切って私は言った。


「わかりました。二人きりならルークと呼べるように頑張ってみます。それから、私の事はサリーと呼んでください」


 結局、そう言い切ってしまった。うらら時代からも男子と呼び捨てする仲になったことなど全然なかったので、恋愛初心者の私はかなり顔が熱い。それでも、笑顔で頑張った。




 孤児院に着くと、既に第三騎士団員が私たちを迎えてくれた。


 全員が整列すると、院長先生のシスターアンナが前に出てあいさつをした。


「第三騎士団の皆さん。今日は本当にお世話になります。ケガの無いようにしてください。女神フリーディア様の加護が皆さんにあることを祈ります」


 それを聞いて私は、あいさつの内容より、女神フリーディア様の名前が出た時に少しビクッとしてしまう。それから、この世界の宗教は女神フリーディア様の信仰だった事を思い出した。


 次に、第三騎士団長のルーク様が前に出る。


「第三騎士団は、貴族と平民の混成部隊である。そこには、貴族と平民が協力して活動しようという国王様の意図が含まれている。孤児院の子供たちも、貴族と平民など関係なく過ごしている。だからこそ、今日の任務は単なる奉仕活動ではない。この仕事こそが第三騎士団仕事なのである。さあみんながんばろう」


 そうルークが言って右手のこぶしを高く上げる。


「「おお」」


 騎士団員全員も一斉にこぶしを高く上げる。


「「がんばれ」」


 後ろから、黄色い声が聞こえる。少し遠巻きにしている子供たちからの応援の声だ。子どもってやっぱりなんかいいなあと思う瞬間だった。




 その後分担して、作業を始める。私とルーク団長の仕事は全体確認だ。


 けれど、ルーク団長はさっさと先に行ってしまう。追いかけていくと着いた所は、畑の開墾場所だった。


「やっぱり団長はここが向いているからなあ」


 声が聞こえるので振り返ると、ビョルンさんが笑顔で力作をしていた。なんで「ここが向いている」のか疑問に思っていると、すぐそれがわかった。


「みんなどいてくれ、土を柔らかくするから」


 そういって、団長は土魔法を駆使して作業を始める。大きな石や木の根を掘り出し、土を掘り返して耕していく。20mほどの畝(うね)が一気にできていく。あっという間に、畑の開墾は終わった。

 次に、土魔法で土の杭を大量に作って、団員に声を掛ける。


「その杭で魔物除けの柵を作ってくれ」


 そう言ってから、わたしの所に戻ってきた。


「生まれた場所が辺境で、農民が魔物にやられているのを見てきたから、手がうずいてしまったよ」


 笑顔で言ったその話を聞いて「生まれた所が辺境なの?」と首を傾げた。

 私と団長は幼なじみで、私は王都うまれ。何でなのだろう。不信感しか湧いてこない。


「なぜ、辺境で生まれた団長さんと私が幼なじみなんですか?」


 意を決して聞いてみた。


「そうか。僕の生い立ちを忘れているんだね。じゃあ話そう。僕は辺境伯家の三男で生まれたんだ。しかも、土魔法使いだったので魔物退治には役立たないと言われたんだ。火や氷なら直接魔物退治ができるからね。それで、王都の侯爵家へ養子に出されたんだ。その時、寂しかった自分と一緒に遊んでくれたのがサリーさ。君には特別に感謝しているんだ」


 そう言って笑う団長さんの笑顔が素敵だった。

 でも、話の内容は、少し悲しかった。上級貴族でも三男以下は家から出されるのだ。それに、魔法の種類での差別も気になった。なぜか、ヒールが使えない自分と似ている感じがして、今まで以上に親近感を持った。


「それって、私と同じじゃないですか。ヒールの魔法が使えないから聖女学院から追い出されてしまいましたから」


「そうなんだよ。僕も同じことを思っていたんだ。一緒だね」


 そう言って、片手を差し出してきた。これは、握手だろう。ちょっと恥ずかしいけどそっと、手を握り返そうとしたら、団長さんはあわてて手を引っ込めた。


「え!」と驚く私。手を引っ込めるなんてひどすぎる。怒れるような悲しいような複雑な気持ちが顔にもでてしまった。


「あ! ごめん。手が汚れていたからレディーに失礼だと思ってひっこめたんだ。悪気はないよ。本当にごめん」


 そう言って、困った顔をしながら何度も誤ってきた。


「大丈夫ですよ。『クリーン』かけますから」


 そう言って、私は笑顔でクリーンをかけた。そして今度はしっかりと団長さんの手を握った。


 団長さんは、私のクリーンがなぜかボワンと光っていたのに気付いて一瞬かたまったようだった。


 そんなわけで、団長さんの気持ちが分かって、私の気持ちも一歩進む、楽しい孤児院での作業になった。


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ここまで読んでくれてありがとう。あと15話で完結予定よろしくお願いします。

更新は12:10と18:10の予定です。

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