第14話 孤児院デート


 ルーク様とおさななじみだと分かってから、私はとても気楽に彼と話せる気がした。だから、気取らずに彼と付き合って行こうと決めた。


「セリーナ。今日の服装は何がいいかしら」


「お嬢様。今日は孤児院への訪問ですから、汚れてもいい服装がいいと感じます。お任せください」


 私はいつものように着せ替え人形になって、セリーナの選んだ服を着た。


「ルーク・デライト様が、ご到着しました」


 9時になったら、玄関の使用人から連絡が来た。


 昨日より簡素な服装で玄関ホールにいらっしゃったルーク様の笑顔が、あたたかく感じる。

 もちろん、私も笑顔で迎えに出た。


 馬車に乗る時には、もうズッコケることは無かった。昨日の出来事で、私にも余裕が生まれたのだ。


 案内された孤児院は平民街の教会の隣にあった。立派な教会と比べてみすぼらしく感じてしまう。


「ルーク様、孤児院は運営が大変なようですね」


 外観から感じたことを、聞いてみた。


「確かにそうですね。たべもの、建物修理代、運営にかかる金は全部寄付だから仕方ないのでしょう」


 全部寄付に頼るのは、ユクライル王国では難しいだろうと思った。今のように魔物による被害が出ている国では、国民に余裕が無いから寄付も少ないのではないかと考えた。


 孤児院ではまず院長様会って寄付をした。私とルーク様それぞれ金貨5枚500万マルクずつである。世の中お金がなければやっていけないのは事実なのだから。


 院長先生は、高齢のシスター・アンナであった。寄付を大変喜んでくれたので、いま困っている事を聞いてみる事にした。


「アンナ院長先生、なにかお困りのことはありませんか?」


「最近、街の人たちからの寄付が減りまして、1日3回食事も満足にできないのが一番困っています。朝夕の2回にすることもあるのです」


 予想通りだった。街の人たちが安全で豊かでないと、孤児院はうまくやっていけないのだ。魔物の影響が多分出ているのだろうと思った。


「自分たちで何か食料を栽培したり採集したりすることはどうですか」


「自分たちで……ですか……。シスターの数も多くないために、職員をそれに向ける事はできないのですよ」


「なかなか大変ですね」


「はい。寄付していただいたお金は、まず雨漏りの修理に使わせていただこうと思っています。私たちでは修理できないですし、大金がかかりますから」


 食事に回すのかと思ったら、施設の整備に回されてしまったが、仕方がない事なのだろうと思った。


 その時、隣のルーク様が口を開いた。


「院長先生。第三騎士団で、屋根の修理は請け負いましょう。それと、裏に広い空き地があったと思いますが、あそこで野菜を作れるように開墾しましょうか? 訓練の一環になりますから」


 ルーク様グッドアイデア! と思わず言いそうになった。


「まあ! それは助かります。お金を子どもたちの服や食べ物にまわせます」


 院長先生の顔がぱっと明るくなった。そこで、私も、自分のできる事を考えてみた。


「あの、その畑のすみで薬草栽培もしてみませんか? 育った薬草は私が回復薬にする支援をしましょう。回復薬を売ってくされば、多めにお金が手に入ります」


「まあ! それもありがたいです。本当に、お二人には感謝です」


 院長先生が喜んでくれたので、孤児院の中の見学について恐る恐る聞いてみた。


「突然訪問したのですが、孤児院の中の見学はできますか?」


 私が聞いてみると、院長先生は笑顔で「どうぞ。ご案内します」と言った。

 普通は、貴族の見学は嫌がるものだろうと思っていたけれど、ちょっと予想外だった。ワタシ・サリーとルーク様には、これまでの訪問経験があるからだろうかな? と思った。


 孤児院の中を案内してもらっていると、子どもたちに出会った。



「わあ、サリー様だ。こんにちは」


「ルーク様もいるぞ。こんにちは」


 やっぱり子どもたちとの面識があったようだ。


 子どもたちは、わらわらとやって来ると、ルークさんと私の周りに群がった。ルークさんの身体によじ登る子もいて、私も引っ張られて服が破れそうになるほどだった。やっぱりどこの世界でも子どもは子どもだった。自分勝手な行動をするから子どもなので仕方がない事なのである。そこで、遊びながら事態を収拾することにした。


「はいみんな。今から楽しい遊びをするからね。ならびっこ遊びだよ。男の子と、女の子どっちが速いかな。さあ一列にならんで」


 そう言って私が「前にならえ」のようにポーズをすると、そこに子どもたちが男女に分かれて並んでいく。


「よくできたね。両方速かったよ。今度は、背の順に並ぶよ。どっちのチームが速いかな、きれいかな。さあ始め!」


 そう言うと、並んでいた子どもたちが一斉に背の順に並び直した。


「すごいねみんな。とても速かった。速いのは男の子で、きれいに並べたのは女の子だったね。両方一番だよ」


 そうしたら、「「やったあ!!」」と子どもたちみんなが、飛び跳ねるながら大喜びした。


「今日は、おにいさんとおねえさんが見学のお仕事に来ています。お仕事だから今日はもう遊べません。だけどまた来るからよろしくね。じゃあ解散!」


 そう言うと、子どもたちは「「はあい。またね!」」と言って、遊びに行ってしまった。


 子どもの扱いは、うらら時代の経験があるから、私には余裕である。


 ぽかんとしている、院長先生とルーク様に声を掛けて、今日は帰る事にした。

 

 孤児院から出るとき、院長先生からは、私たちの寄付と支援計画について再度お礼を言われた。かなり生活が苦しくて本当に助かったようだ。


 帰りの馬車の中でルーク様が笑顔で話しかけてきた。


「以前のサリーさんとは別人になった気がするけれど、今のサリー様もすてきですね」


 そう言われた。別人というのは、正しいけれど、まだ打ち明けられない。でもすごくうれしかった。


「ありがとうございます。ところで、さっきの院長先生のお話ですが、明日の予定はどうですか?」


「明日も空いていますから、団員と一緒に来て工事をしましょう」


 というわけで、あすも孤児院へ来ることになった。

 デートが孤児院になってしまったけれど、私の生きる道がまたひとつ増えて嬉しくなった。


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ここまで読んでくれてありがとうございます。明日から1日2話更新の予定です

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