日記6 どうやら才能に満ち溢れていたようです

「おお、英雄よ。よくぞ無事に戻ってきてくれた。この度は本当に申し訳なかった」

『いえ、王様が頭を下げることはありません』


 俺はその日、その足で、ルラルド王国の王城へとやってきていた。

 ゼェゼェハッハッと、舌を出しながら王の前でぺこりと座っている犬が1匹。

 俺です。

 一見すると大変シュールな光景になっているとは思うが、勘弁してもらいたい。

 

 念術とはやはり便利なもんだ。

 一対一の会話はもちろんのこと、複数人での会話を可能にする。


 心の中で会話をするので、言葉を話すことができないこの姿でも、コミュニケーションを取ることが可能だ。

 ラミアに感謝だな。


「私の不手際であのような場所に召喚してしまったこと。今一度お詫びさせていただきます」


 この宮廷魔術師さんはフィーネと言うらしい。

 緑っぽい、癖っ毛のある髪で、メガネをかけている。

 あどけない顔がまた可愛らしいな。うん。

 外見は可愛い犬だが、中身はおっさん。

 このような若い子を見ると、ついつい見惚れてしまう。


『いえいえ。こうして無事に来られたのですから』

「さて。突然で申し訳ない。シンよ、私たちがなぜ、そなたを召喚したのか、話は聞いておるか?」

『ええ。聞いております』


 ルラルド王はかなり良い王様のようだ。

 決して見下さず、民のことを一番に想っている。

 俺は英雄として召喚された。

 英雄召喚者としてのスキル使い、この国を魔族や異国から守る。


「ふむ。良かろう。そしてシン。そなたの意見を聞きたい。……力になってくれるか?」


 ルラルド王の目、そして、周囲の目。

 拒否権はないだろうな。

 まあ、俺ははなから断るつもりはなかった。

 ずっと、憧れていた。

 誰かの力になりたくて、才能ある自分をどこかで見出したくて、俺は夢見てきた。

 もうあの頃のように、平凡な人生は歩みたくない。

 一度くらいは命をかけてもいいんじゃないか。


『もちろん。俺のできることなら、全力で力になります』

「……よく言ってくれた。感謝する」


 そうしてルラルド王、フィーネ宮廷魔術師、そして宰相のエドワードさんは深々とお辞儀をした。


「それでは早速、私の元へついてきてください! シン様の魔術適性を見させていただきます!」

『分かりました! (ゼェゼェ)』


 キタキター!

 さて、俺にはどんな才能が隠れているのかな?


◇◆◇


「あら、何かしらあの犬。可愛い~~」

「本当! すごく触りたいぃ~」

「いけませんわっ! 英雄様にそんな無礼なことをっ」

「そうですわね。見守りましょ」


 王城内歩くと、すれ違うお手伝いさんがえっちな目を俺に向けてくる。

 そんなに俺の体を触りたいなんて!

 ぜひどうぞ。触ってください。

 なんなら、俺はのお世話してほしいね。

 いかんいかん、ラミアが寝ているとはいえ、このようなことを考えるのは変態だ。

 起きていたら何を言われるかわかったもんじゃない。

 でもまあ、撫でられたいのは犬としての本能だし?


「シン様、こちらへ」

『分かった』


 ちょこちょこ尻尾を振りながらフィーネについていくと、デッカい水晶のある部屋に通された。

 しかし、初めて王城を歩くが、結構広いもんだ。


「この水晶に触れると、魔術の適性が分かります。勇者カイ様は炎の適性、勇者ノゾミ様は水の適性がおありでした」

『へー。炎と水か』


 勇者の名前はは、カイとノゾミか。

 ザ・日本人って感じの名前だな。

 いつか彼らに会う日もあるだろう。

 楽しみだ。


「では早速、シン様も!」

『よろしくたのむ!』


 とはいえ、ダックスフンドなもので、手が届かない。


「私が抱えて差し上げます」

『ありがとう』


 そう言ってフィーネは俺を軽々持ち上げた。

 デローンと、あられもない姿を晒す俺。

 いやん。

 僕の背中におっきくて柔らかい二つの果実が当たってるうっ!

 当たってますよ、お姉さん。


 おっと、いけないけない。

 さて、手をかざすんだっけな。

 俺の小さい肉球が当たると、水晶は輝き始めた。


「こ、これはっ!!」


 凄い驚きようだ。

 凄い能力でもあったか? 

 水晶は白く発光している。

 今更なんだが、俺の魂には吸血鬼であるラミアの魂も共有している。

 水晶に手を当てて、それがバレたりしないんだろうか。


「どうだ?」

『……あ、あれぇ、おかしいな。もう一回いいですか?』

『あぁ! もちろんだ! いくらでもな!』


 というわけでもう一度。


「あれぇ……」

『どうした?』

「大変申し訳ないのですが。白く光っているので……」


 どうにもフィーネは気まずそうというか、申し訳なさそうだ。


『白いと?』

「どうやら魔術適性はないようですねぇ」

『ま、マジかよ』


 終わった……。

 俺の人生。否、犬生が。

 

「ま、まあ、英雄としてのスキルがありますよね! ほ、ほら、この念術だってそうですし、嗅覚や聴覚。それに人の姿だってなれると聞き及んでおりますっ!」

『ああ、そうだな』

 

 ほとんどラミアのものなんだけどねぇ。


「ならば、全然凄いです!」

『あ、ありがとう……』


 無理矢理感あるけどなぁ。


「そ、そうでしたっ! 英雄様は勇者様方とは別の修行をこれから行っていくのでした」

『修行を?』


 どうやらフィーネ曰く、俺たち召喚者はそれぞれ、凄腕の騎士たちの元で修行をし、召喚者としての力を磨くらしい。


 勇者カイと勇者ノゾミは、ルラルド王国聖騎士団の団長の元で修行を。

 たくさんの騎士たちの中に交じって修行をする。

 俺はどうやら別行動らしい。

 英雄枠というのがあるらしく、英雄には特別な訓練をするようだ。

 まあ、犬だしね。

 ルラルド王国聖騎士団の副団長が今日から俺の指導者兼世話係になるのだとか。


「シン様、副団長様は少々変わり者ですが、大変強いので、ぜひ、励むと良いですよ」

『わ、分かった……』


 フィーネはそう言って微笑むと、歩き出した。

 それはそうと、俺、魔術適性なしか……。

 大丈夫かな……。


◇◆◇


 大丈夫かなと思っていたが、どうやら俺には全ての魔術の適性があることが、夜になって判明した。

 ようやく起きてきたラミアに話を聞くと、彼女はさぞおかしそうに笑った。


『案ずるなシン』

『というと?』

『シン、お前は全魔術適性があるぞ』

『……へ?』


 俺に全魔術の適性がある?

 でも昼間フィーネが言っていたじゃないか。


『馬鹿者。全魔術適性の人間が、前例にないというだけのこと。適性なしの場合はそもそも光らぬ。白に光るのは全魔術適性がある人間のみじゃ』


 そういうことか。

 白に光ることなど、今までなかった。

 だからフィーネは俺に魔術適性がないと勘違いしたのか。


 せいぜい赤とか青とか、あっても青と赤が混ざった紫とか。

 そういう色を想像していたのだろう。


『かっかっか! まあ、あまり能力を人に見せびらかすではないぞ?』

『肝に銘じておくよ』


 どうやら俺は全魔術適性を持つ上、吸血鬼の力、そしてダックスフンドの力を得てしまったようだ。


 これは努力のしがいがありそうじゃないか。

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