日記2 一方その頃勇者たちは

 ルラルド王国、謁見の間。

 真っ赤なカーペットの先には、王が座っている玉座があった。

 荘厳な雰囲気である。

 サイドには幾数もの騎士が構えており、宰相と魔術師らしき女が控えている。


 この場にいる誰もが、王の眼前で倒れている二人の人物に視線を送っていた。

 不審な目ではない。

 ある者は疲労を顔に浮かべ、またある者は少しばかり頬を綻ばせている。


「……ここは? 俺は一体……。確か部活をしていたはず……」

「私、家にいたはずなのに……」


 目を覚ました二人は動揺を隠しきれていなかった。

 一人は女だ。とくにこれといった特徴はない、ごくごく普通の女子高生である。

 長い黒髪は、この場ではとても目立つ。

 もう一人は男子高校生だ。制服は着ておらず、土まみれのユニホームを身につけている。


「成功よ!!!」


 控えていた魔術師らしき女が喜びの声を上げた。王の前ではあるものの、気にしていない様子だ。


 まるでアニメや漫画などで出てくるような世界観。だが、夢じゃない。間違いなく語感が現実のものとして受け入れている。

 二人は、まさかと、内心で思った。


「勇者召喚の成功です! ルラルド様!」

「ふむ。これで魔族に対抗できる」

「ルラルド様。まずはこの者たちに事情を説明しなければなりませんな」

「ここはどこだよ! お前たちは誰だっ!」


 男子高校生は反抗した。

 顔からは恐怖心が半分。もう半分は怒り。

 この状況、やはり間違い無いのかもしれない。

 

「無礼な……! 王の前だぞ!!」


 あっという間だ。

 瞬きする間もなく、喉元に槍が突きつけられている。

 男子高校生と女子高校生は恐る恐る手を挙げ、顔をしかめた。

 しかしこの騎士たちはこの二人を殺すつもりはないようだ。

 牽制するだけで、何もしてこない。

 ゆっくりと王は手を挙げた。


「良い、剣をおさめよ。勇者カイ。そして勇者ノゾミよ。まずは話を聞いてほしい」

「なぜ、俺の名前を」

「どうして私の名前を知ってるの……」


 カイ、そしてノゾミは日本からこのルラルド王国に勇者として召喚された。

 ざっと説明するならこうだった。

 ルラルド王国は魔大陸に最も近い国であり、魔族との対立が激化している。

 昔の文献に、異世界から召喚した勇者は特別な力を持ち、人間よりも遥かに身体能力が高い魔族にも対抗出来ると記されていた。


 ようやく、ルラルド王国は勇者召喚に成功したのだ。


「ふっざけんじゃねぇ! とっとと俺を元の世界に帰してくれ!」


 冷静に自体を分析し、次の一手に備えようとするノゾミとは対照的に、カイは声を荒らげた。


「俺には、元の世界に家族がいる。サッカーだって、ほかにも……。やることがあるんだ」

「すまないな勇者カイ。現在召喚することはできても、元の世界に帰す方法は無いのだ」 


 ルラルド王はそう無慈悲に告げた。


「そんな……」

「私たちにはそんな力。魔族に対抗出来る力なんて、あると思えませんが?」

「そのことに関してだ、勇者ノゾミよ。フィーネ、説明してもらえるか?」

「はい」


 メガネをかけたインテリそうな宰相、エドワードに促され、フィーネが一歩前に出る。

 彼女はこの国の宮廷魔術師だった。


「勇者召喚、そして英雄召喚された方達には、特別な能力があるのです。この後、お二方には魔術の才を確かめさせていただきます」

「勇者召喚に英雄召喚……。俺たちがその勇者とやらなら、他に英雄候補がいるということか?」


 カイとノゾミは勇者候補として召喚された。

 ならば他に、英雄候補がいる。

 しかし、この場にはいないようだった。


「ふむ……。フィーネよ、英雄は?」

「それがルラルド様、英雄候補の召喚は成功したのですが……その……」

「なんだ、言ってみよ」

「どうやら、召喚場所に不具合が生じてしまったらしく、詳しい位置は分からないのですが、迷宮内に召喚されてしまったようです」

「な、なんだとっ!!??」


 愕然とするルラルド王。

 カイとノゾミは安心した。迷宮内に召喚されるよりはマシだ。

 それに、少なくとも身の上は安全であろう。


「ルラルド様。すぐに兵を手配し、救出に向かいましょう」

「そうだな。とりあえずフィーネよ。勇者たちを案内し、しかるべき手続きを行ってくれたまえ」

「承知しました」

「勇者カイ。そして勇者ノゾミ」


 二人の前に、ルラルド王は歩き出し……。


「お、王様」


 地面に膝をついた。

 ルラルド王の予想外の行動に二人は呆然とし、慌てる。

 

「頼む。どうか我が国のために、そして民のために、力を貸してくれぬか、勇者よ。国王として頭を下げる」

「……顔をあげてください王様」


 ノゾミはどこか決意を固めたような顔をしていた。


「勇者召喚は突然だけれど、こうして私が選ばれたのなら、力を尽くします。それに、こういう異世界もの、私、憧れてたんです」

「おお……。勇者ノゾミよ……」

「俺は……。もし、帰る方法が見つかったなら、帰らせてもらう。それまでは力を貸してやる」

「温情に感謝する。勇者よ」


 こうして二人の勇者が召喚された頃。

 迷宮に召喚された英雄はただ一人、新たなる力を得ようとしていた。

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