日記1 目覚めると犬?
「……っっ!!??」
冷たく、そして硬い感触を感じた。
次にじめっとした、それでいて冷たい風が肌を舐める。
俺はその言いようのない不快感に襲われて、目を覚ました。
どうやら寝てしまっていたのか?
酔っ払っていたから、窓を開けっぱなしにしていたのか。
ゆっくりと目を開いた。
不思議と頭痛がない。
いつもなら二日酔いの頭痛に襲われるはずなのだが。
「……。……っっっ!!!????」
ここはどこだ。
目を開いた先にあったものは、家の天井などではなく、黒っぽい、ゴツゴツした天井だ。
確実に家じゃない。
ここは……洞窟……?
まさか俺、外で寝て……?
まずいな。
警察の厄介になるのはごめんだ。
早く帰らないと……?
そう思って腹筋に力を入れるが、なぜか力が入らず、起き上がることができなかった。
仕方がないからゴロリと回ってうつ伏せになり、ヨッコラセと立ちあがろうとするが。
おいおいなんだ。立ち上がれないだと?
しかも体が軽い。
なぜだか四つん這いになるのが精一杯だった。
立ち上がることができないのである。
例えば酒のせいで足がおぼつかないから立てないとか、怪我をしていて立てないとか、そういう類のものではない。
能力的問題である。身体構造上の問題だ。
何故だろう。俺はそう思ったが、すぐに理解した。
理解というより、察した、という方が正しいかもしれない。
俺は、犬になっていた。
犬。
そう、文字通り犬。
詳しく言えば、俺はダックスフンドになっていた。
近くにあった水たまりに姿が反射していたので間違いない。
紛れもなく俺はダックスフンドになっていたのだ。
垂れた耳。胴長。愛嬌のある短足。クリクリとした目。
俺は、ダックスフンドになっていた。
そう思ったらなるほど確かに、嗅覚と聴覚が以前と比べて格段に向上していた。
中年のおっさんのものとは思えないほど優秀な器官だったから、疑問に思っていたのだが、こういうこととは。
風の音が聞こえる。辺りは静かではない。
遠くで何かと何かが争う音が聞こえる。
匂いは血生臭い匂いが少し。大半はカビ臭い。
俺は心穏やかではなかった。
なにしろ気づけばダックスフンドになっていて、気づけばおそらく洞窟であろうところに転移してしまったのだから。
おそらく俺は、異世界に転移してしまった。
客観的に見て、おそらく間違いはないだろう。
俺は驚きはしなかった。
その代わり、状況を理解するにつれ、言いようのない不安に襲われ始めた。
異世界転生や転移を夢見ることは、俺だって経験してきたからな。
だが、俺はどうしたらいいだろうか。
このままでは死ぬ。
俺は犬だ。人間ではない。
食い物は? 水はまあ、そこら辺に水溜りがあるからなんとかなるかもしれないが。
いやでも流石に飲めない……だろ。汚いだろ。
ここにはどうやら、俺以外の何かが棲んでいるようだ。
おそらくは、魔物。
ダックスフンドなんて格好の的だろ、どう考えても。
見つかったら確実に食われるぞ。
とはいえ、とりあえず動いてみないことにはどうしようないということで、俺は探索してみることにした。
それなりに広い洞窟。
大変暗いが、ダックスフンドの視野が優秀なこともあり、なんとか暗闇でも視界が保たれている。素晴らしいことだ。
あちこちには草が生えており、水がある。
今の所、魔物はいない。
鉱石の類か? 綺麗な石もある。
「クゥンクーン……」
声が出ないため、なんともまあ情けない鳴き声が出てしまった。
そもそも何故俺は犬に?
もしかすると、転移前に愛犬を想っていたことが原因なのだろうか。
そんなことよりもまずは食料だ。
俺はのっそりと動き出し、この洞窟を探索してみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます