第17話 新たなる扉 (第一章最終回)

 前回、鋭い一撃を放った俺。


 (・・・なんか太くない?)


 ちくわ程の太さがある何かが打ち出され、ゆらゆらと飛んでいく。

 そして、ポスンと的に当たって消えた。


「・・・す、凄いですわカケル様!当たりました!」

「・・・頑張りましたね。勇者様」

「くぅ・・・」


 確かに当たった。当たりはしたさ。

 でもなんだあの威力。

 石でも投げた方がまだ強い。


「くそおおおお・・・」


 俺は項垂れた。

 スポーツ漫画で言うと宿敵に敗北したシーン。

 ちくわ撃っただけだけど。


「で、でも当たりましたし。さすがカケル様ですわ。ね。ユズハ」

「はい!凄いです!」

「俺が一番分かってるから、慰めないで」


 年下の美少女達が必死に凄い凄いと言ってくれる。

 優しさが沁みて辛さ倍増。


「次はきっと上手くいきますわ。だって初めてまともに撃てましたもの」

「・・・確かに」


 そうだ。結果は練り物でも撃てたし当たった。

 確実に成果が出たのだ。


 (ありがとう元カ・・・いや絶対に許さない)


 別れるにも格というものがある。


「明日も頑張ります」

「はいっ、今日はここまでに致しましょう」

「ありがとう二人とも」

「カケル様・・・それでは早速」


 何か約束していただろうか。

 記憶にございません。


「えっと、何だっけ」

「今日は、カケル様の背中に乗って帰りますわ」

「はい・・・?」

「もうお忘れですの?わたくしとの約束を・・・?」

「そ、そんなわけ!」


 急激にモード変更をした姫に詰め寄られる。

 エステルとの約束って、なんだっけ。

 甦れ俺の記憶。


「・・・わたくしの言う事は」

「ぜ、絶対・・・」

「次忘れたら、おしおきです」

「ごめんなさいでした!」


 目のハイライトを消して迫ってくるのは勘弁して欲しい。

 俺はいつの間に絶対命令権を与えてしまったのだ。

 

 あぁ、昨日の夜か。

 例のイベントのせいで記憶の大半がエステルの足で埋まっている。

 

「早く犬になりなさい」

「はい・・・」


 大人しく四つん這いになる。 


「犬が人の言葉を?」

「わ、わん!」

「あはっ、賢い犬ですわ」

「わん!(嬉しそうでなによりです)」


 きっと上機嫌なのだろう。

 これも魔法のため、強くなるまで我慢だ。


「・・・くすっ」

「・・・わん」

「ぷっ・・・こほん」


 ユズハもお気に入りらしい。 

 あとで、いやいつか覚えていろよ。

 やりたいことリストに『ユズハを猫メイドにする』を書き加えた。


「もっと座りやすいようになさい」

「は、わん」

「そうそう、良い子ですわ」


 エステルの気配が近づくと、背中に重みがかかる。

 

 (え?跨るの?・・・なんてはしたない姫様・・・!)


 彼女は前と違い、足を上げて俺に跨った。

 今は短い黒のドレス姿だから・・・。

 

 (まさか俺の背中には・・・エステルのパ、パパパ・・・!?)


 そんな、一国の姫ともあろう方がパンティーを?

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

「ふふっ、息が荒いですわ。そんなに乗られるのがお好きなの?」


 そうじゃない。そうじゃないけど。

 俺の妄想はどんどん膨らむ。

 服越しではあるが、なにやら暖かいし。

 もし、動かしたりでもしたら・・・。


「早く動きなさい」

「・・・っ!」

「はーやーく!」

「わ、わんわん!」


 あれはダメだと言い聞かせながら、ゆっくりと移動。


「ふふっ・・・んっ・・・」


 大丈夫かこれ、不敬罪で死刑になりそう。

 スピードをさらに緩めるが、


「・・・あっ・・・んんっ・・・はぁ」

 

 もう限界だ。

 鼻血が出そう。


「これ以上はあかん!ユズハ!」

「は、はい!」

「え、エステルを降ろして!・・・ぐっ!?」

「ユズハ・・・?わたくしが上にいるのに・・・!発情した犬・・・!」


 上に乗られたまま首を絞められる。

 洒落にならない。死んじゃう。

 発情したのは俺じゃないはずなのに。


 俺はただ、この国のために。

 エステルの色んなもののために・・・。


「ま・・・で」

「まだ言いますか!この・・・!」

「ぐっ・・・うっ」

「ひ、姫様!?お止めください!」


 意識が遠のいて来た気がする。

 首絞めって苦しいだけのはずなのに、どうしてこう苦しいだけじゃないんだろう。

 朦朧とする中、どうでもいい思考が巡った。


「だめ・・・!もっと・・・もっと!」

「姫様!!多分勇者様は姫様のために!」

「・・・?どういうことですの?」


「あのですね・・・こう・・・です」

「・・・!そ、そんなこと・・・」


 よく聞こえないが、きっと察しの良いメイド様が何か言ってくれたのだろう。

 締めていた手の力が緩んだ。


「げほっ!がはっ!・・・ごほっ」

「ゆ、勇者様・・・」

「ま、またわたくし・・・カケル様・・・」

「・・・良いから、大丈夫」


 泣きそうになっているエステルを庇い、最大限の笑顔を作る。

 いや泣きたいのは俺の方なんだけど。

 

 まぁ突然大声で叫んだし、多分姫様には意味不明だっただろうし。

 とにかく背中に彼女がいるときは、他の子の名前を叫ぶのは止めておこう。


「もう首絞めるのはやめてくれ」

「え・・・も、もちろん・・・」


 じっと自分の手を見つめている。

 どうしてだろう、嫌な予感がする。


「ふぅ・・・はぁ・・・この手が・・・」

「ほ、程ほどにして・・・お願いだから」 


 エステルはきっと初めて人の首を絞めて、罪悪感が半端じゃないのだろう。

 そうだ、何事も前向きに考えていこう。


 

 一つ言っておくと、鞭やマナ流入に比べたら首絞めの方がまだマシ。







勇者カケル


 レベル3



スキル


 ・とくしゅ言語知覚(モンスターの声が聞こえる)



魔法


 ・ちくわ(火)


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