C2-7 撃ち抜くのは未来
「あれは不味いね・・・・・・」
メリアが駆け足で後方の進へ向かう。
「進、話せるかい?」
「・・・・・・」
漂う甘い匂いの不快感に、人殺しの罪悪感。様々なものが脳内で氾濫し、進はフリーズしていた。
「進? 大丈夫かい?」
「な、なに?」
肩を揺らされ、現実に戻る進。ふう、と一息ついてから、メリアは強い口調で話し出す。
「あんたには、二つの選択肢がある。一つはさっきの家に戻って、鏡を壊して避難すること。新しく出てきた奴らはとても強い。もう、私たちがあんたを守り切れる確証はない」
「も、もう一つは?」
「もう一つは、さっき焼き払った崖の上に登って、隠れてあの女を狙撃すること。最初の一発を撃ったら、下手に連射しないように」
メリアは崖へと繋がる、傾斜の緩くて登れそうな部分を指差す。確かにそこからなら登れそうだ。だが・・・・・・
「狙撃・・・・・・でも、正直当てられるかは分からない」
素人が当てられるほど簡単なものではない。実際の銃だろうと、この世界の銃だろうと、それは同じだ。
「それに、防壁みたいなのもあるし、威力の低いこの銃でどうにかなるのか?」
「いいんだよ、それで。ただし、私たちが同一射線上にいるときは、撃たないで」
「え? どういうこと?」
「やってみれば分かるさ。多方向、多人数から狙われることの恐ろしさ」
「・・・・・・」
進は
「崖に登り切るまで守りきる。どうする? 今すぐに決めて」
体中の傷が痛みだす。それは警告なのだろう。逃げろ、やめろという。加えて、先ほど誰かを間接的に殺してしまった罪悪感で動悸がとまらない。だが幸か不幸か、仲間の奮闘を目にし、止まれないほどに彼は勇気づけられてしまった。
「・・・・・・分かった」
二人は焼け野原になった崖の上に向かって走り出す。ギシギシと、進の重たい装備が揺れる音とともに。女王の視界に二人は入っていない。視線は、9と10を倒した腹立たしい小娘たちに釘付けになっている。
「ふん、家畜の癖によく頑張ったよ。褒美に血祭りにしてやる」
「!!」
突如、11が疾風のような速さでフォランに襲いかかる。どうやら11はスピードに特化した戦士らしい。
「まずい、避けきれない!?」
「はっ!!」
フォランのすぐ後方に構えていたフレナが再度、防御壁を展開する。それは二人を包み込む、球形状の防壁だ。11の攻撃は弾かれ、派手に仰け反る。速度はあっても、11の体幹はあまり強くないようだ。
「鬱陶しい黒豚だね! もういい!」
フレナと11の相性がよくないと判断した女王は、11にラハムを狙うよう指示する。
「なにっ!?」
再び疾風のように走り出し、ラハムを狙う11。あまりの速さに、彼は11を捉えきれず、腕や背を切られる。
「くっ!」
「はは、いいね! そのまま首を刎ねちまいな!」
「・・・・・・
ラハムは槍を消し、代わりに白銀の光輝く美しいフルアーマーを生成して身につける。そして、首に向かって振り下ろされた11の刃を弾く。
「なっ!? あいつ一体何種類持ってるんだい!?」
女王が驚くのも無理はない。なぜなら、武装魔法は普通、一人が生成できるのは一か二種類までだからだ。三種類以上は、才能に恵まれた者しか与えられない。とはいえ、生成できるのは一度に一種類のみ。ラハムはアーマーを着たまま、格闘技を駆使して11と戦い始める。
「しぶといわね・・・・・・」
一方、フォランは絵札の戦士の片割れ、13と戦っていた。何度も炎を浴びせるが、13はすぐに再生してしまう。速さは11と違い、並程度。だが、タフネスと再生能力を活かして、じりじりとフォランとフレナのペアを追い詰めていく。
「私も手伝うよ。あんたがこいつを倒せるかにかかってる」
進を送り終えたメリアは、フォランの元へと駆けつける。それと同時に、緑色の札をフォランに貼り付ける。
「
メリアの魔法名とともに、メリアからフォランへ魔力が譲渡されてていく。その移動する魔力の動きは、女王にも感覚で分かるものだった。
「なるほど、その金髪は魔力の貯蔵庫ってことか。先に殺しとけばよかった」
「へえ、意外ね! 後悔できるだけの頭と器があったのね、いい子! いい子!」
忘れた頃に発せられる、フォランの煽り。事実、効果はある。ここまでレジスタンスたちが生き残れたのは、女王に冷静さと慎重さが欠けていたことが大きい。
「黙れこの出来損ないが!」
魔法で何度怒りを抑えようとも、デスコヴィは溢れんばかりの負の感情を完全に制御できずにいる。彼女は病気にも等しい狂気と癇癪を抱えているのだ。
「!!」
剣を振り回す女王に恐怖したブリタは再度、魔法のラッパで女王を
「ふんっ!
だが、ブリタは女王の積もりに積もった怒りに対して、徐々に魔法の効果が薄れていくのを感じていた。そんなとき・・・・・・
ーーバキュウウン!
北東の崖から女王を狙撃する音が聞こえる。しかし、放たれた弾丸は、女王の後方5m以上離れた場所に着弾する。掠りすらしない。
「くそっ! やっぱり当たらない・・・・・・」
「さっきの黒髪のネズミか? どこ狙ってるんだい。下手くそが!」
だが言葉とは裏腹に、進の狙撃は女王に大きな圧をかけるものとなった。放たれた銃弾の魔力量は少なく、離れているとはいえ、進本人からは魔力そのものを感じない。そもそも攻撃の狙いもまともに定まらない。要するに役立たずの雑魚。女王もそれは分かっている。
だが、どうしても無視はできず、女王も兵士も微小ながら集中力が削がれる。加えて、仮に目の前の四人を殺せても、それで終わりでなく、11か13のどちらかを残さねばならないという不安が芽生えた。魔法抜きで100%進に勝てる保証はないからだ。
ーー12《クイーン》は単なるの防御魔法の上に、使用中に私は歩けなくなる。これだけが残っていても、まともな戦いになるかどうか・・・・・・
女王は先ほどまで、11を13に合流させ、フォランたち三人を先に始末しようと考えていた。だが、そうすれば、11か13はラハムに隙を突かれて破壊される可能性が高い。とはいえ片方が残れば、他の奴らは始末できるという計算だった。
しかし、小物とはいえ進が戦闘にまで参加してきたせいで、その計算が正しいか少し怪しくなった。不安を払拭できない女王は決断ができず、だらだらと11と13を戦わせている。その判断が命取りとなるとも知らずに。
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