C2-6 邪悪への謁見

「9番は私がやるわ」


「わかった。10番は俺がやる」


 走り出すラハムとフォラン。フォランは9に向かって全力で駆けていく。直線的な動きになって的にならないよう、斜めに切り込んでいく。


 ーードカン!!


 9から何度か大砲が放たれる、だが、射線を切るように、素早く斜行するフォランに弾は当たらない。


「あんなもの、動きを予測すればいいんだよ!」


 女王の言う通り、斜行してるとはいえ目的地は一つ。よくよく見れば、フォランの行く先は推測できる。


「そこだ!! 二連射だ!!」


「!?」


 少女の動きを見極めた女王が、今までに見せていなかった二連の砲弾を放つ。これは次の発射までの時間が倍になる諸刃の剣だが、確実にフォランを仕留められる一手のはずだ。だが・・・・・・


「Mk《メルティ・ノック》」


 新たな技名とともに、フォランが後方に向けていた手から、小規模な爆発が起こる。それと同時に、走っていたフォランが吹っ飛び、急加速する。その勢いで、9の放った砲弾をかわす。


「な!?」


 彼女は吹っ飛び一回転するものの、体勢を即座に整える。そして、一瞬で9との距離を詰め、密着する。


「黒化粧、似合うといいわね」


 彼女は9の顔面に手をかざし、至近距離から火炎を放つ。それは瞬く間に、頭部を含める9の上半身を真っ黒にする。そして、9は動かなくなった。


「はっ!!」


 一方、ラハムは巧みな槍術で10を追い詰めていた。10の攻撃の威力は、ラハムを大きく上回る。だが、それは大きく振りかぶって殴れればの話。9の邪魔がなくなり、適度な距離と頻度を保ちつつ槍を突き続けられる彼を相手に、10は本来の威力を発揮できないでいた。


「ここだ!」


 長い間斬り合い、ラハムは相手の動きを見切る。そして、彼の強烈な突きが、10の頭を貫く。それと同時に10は握っていたハンマーを離し、地面からゴシャアと鈍い音がした。そして、トランプ兵たちは、ほぼ同じタイミングで動かなくなった。


「!? クソガキどもが・・・・・・」


 女王は怒り、握っていた剣をバシン、バシンと何度も地面に叩きつける。その姿はまるで、癇癪を起こした子供のようだ。


「!!」


 その姿を見て、戦慄したブリタは即座にラッパで音を奏でる。女王を怒らせたままにしておくと、自分の身に危険が及ぶやもしれないと。


「・・・・・・ふう」


 ブリタの魔法で全員の表情が緩む。だが、それでも進は後方で一人落ち込み、沈黙して考え込んでいた。自分が魔力の匂いに気づいた結果、敵が阿鼻叫喚とともに死んだのだ。危機的状況で、アドレナリンが出ていて気づかなかった。いや、気づかないフリをしていた。悪人とはいえ、自分の言葉で誰かの人生が終わることを。


 ーーあなたは優しいから、苦しむときが来るわ。


 あの村で聞いた、母親の声が脳内に響く。まさか、こんなにも早く思い出すことになるとは思わなかったが。


「はあ・・・・・・本気を出すのはいつぶりかね」


「なに!? まだ何かあるっていうの?」


 女王が持っている剣を前に突き出す。それと同時に、禍々しく巨大な魔力が周囲を包み込む。


「行きな。11《ジャック》、13《キング》」


「!? ごほっ! うえ!」


 暴力的ともいってもいいほど、大量に漂う甘く鉄分を含んだ匂い。進は思わず膝をつき、むせ返る。


 新たに召喚されたのは、11と13の戦士だ。11は黒く禍々しい鎧と兜、刃渡り20cm強の両手剣を持っている。13は色は白いが11と同じ形状の防具を身に纏っており、右手には棘だらけの大きな棍棒を握り締めている。


 顔には、白いスペードが11の両目と口として描かれている。13の顔面には、黒のクローバーが両目と口の箇所に配置されている。双方ともに不気味な面持ちだ。


 この二体の召喚によって、レジスタンス全員が恐怖し、体が硬直した。9と10よりもさらに魔力量が一段上。これまで彼らが出会った中でも、指折りの怪物が召喚されたのだ。

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