十言目 柚木原さんとスイーツ
柚木原さんは甘い物が好きだ。どれくらい好きかというと、どら焼きが主食になれるくらい。水筒は最低でもスポドリだし、エナドリとはコーラは平常運転。酷い時は半割くらいのカルピスが入ってる。「糖尿病なるよ」と忠告しても「大丈夫、私神に愛されてるし」と彼女はぐっとサムズアップして笑う。もし彼女が柚木原彩花でなければ「そんなわけ無いじゃん」と一蹴できたのだが、残念なことに彼女はだいたい全てを持ち合わせた完璧美少女柚木原彩花。私は納得するしかない。
「ねえ咲楽。スイーツビュッフェ行こうよ」
「スイーツビュッフェ?」
そんな彼女が、甘い話を持ちかけてきた。
「そうそう。駅前に新しく出来たとこ。父さんからチケット貰ってさ」
「いいよ。エクレア食べたい」
「いいじゃんエクレア。私シュークリーム派だけど。カスタードの」
「あー、クリームかも私」
「あ、でも今の季節だといちごとかあるっぽくない?」
「それ最高」
◇◇◇
「おお」
「おおって感じだね」
カチカチとトングを鳴らしながら、私達はスイーツの並んだガラスケースの虜になっていた。
流石最新のお店ということもあって和洋中の構えに一切の隙はない。艷やかなマスカットゼリーがグラスに乗っかった横には甘く濃厚なアーモンドの香りを漂わせる杏仁豆腐。カラフルなドーナツはミスドのフレンチクルーラーみたいな王道からアメリカでしか許されないような粉砂糖まみれの劇物までズラリ。そしてお目当てのエクレアはクリームカスタードいちごチョコともはや色鮮やか。見れば見るほど気分は昂っていき、柚木原さんのトングが刻むリズムはどんどん早くなっていく。
「どれにする?どれにする咲楽?」
「知らないよそんなの。好きなの全部持ってこ」
「おっけ海賊スタイルだ」
目を輝かせる柚木原さんは近くの棚からお盆をもう一つ取ってくると、目を見張るようなスピードでガラスケース内のスイーツを並べていく。私も負けじとテトリスのようにエクレアやバームクーヘン、ショートケーキなんかを皿の上に積んでいく。
「わ、咲楽随分とフルーティーだね。JKって感じだ」
「いや実際JKだよ。っていうか柚木原さん凄いね。飲み物までお汁粉だ」
「ほら、カレーと同じくくり」
「じゃあ飲み物じゃないじゃん」
「え、飲めるじゃん。カレー」
「ねえ柚木原さんのご飯ってどこに消えてるの?」
「うーん……おっぱい?」
「いつ殺されても文句言えないよそれ」
「私完璧美少女だから恨みとか買わないし大丈夫だって」
「ほんとなんで完璧美少女やれてるのさ」
私が余裕をもって運べるように一つのお盆に二つのお皿くらいで留めたのに対して、柚木原さんは二つのお盆に計8つのお皿。曲芸師か手慣れのウェイトレスといった感じの風格だった。
「柚木原さん、余ったら私食べてあげるよ」
「えー、こっちの台詞なんだけど」
「正気の沙汰じゃないや」
かくしてテーブルに並んだ宝石たち。先述のメンバー以外にも柔らかく震えるプリン、、なみなみ湛えられたフルーツポンチ、ふっくらしたあんこぎっしりのどら焼きにいちご大福……その他も分厚いメンバー層が揃った最強チーム。
私と柚木原さんは一緒に手を合わせ、目を輝かせながら言った。
「いただきます!」
「いただきまーす!」
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