九言目 柚木原さんとお絵かき

 柚木原さんは絵が上手い。たまにノートを見せてもらうと、隅っこの方、時々一面でその日の気分で好きなキャラクターとかが日替わりで描いてある。ブルアカのトキ、FGOのモルガン、スタレの星、ヴァイオレット・エヴァーガーデンのヴァイオレット、進撃のミカサ、モンストのアビスetc……。取り敢えず、誰でも7、8ページくらい捲れば柚木原さんが石川由依さんを大好きだということは理解してもらえると思う。最近はアーモンドアイの似顔絵を書きながら「さっさとシルク実装されてアモアイのCVゆいっしーになんないかなぁ」とか言っている。彼女は馬を描くのも上手い。あと「イクイノックスは私がやりたーい」とか言ってるからかなり傲慢。


「でも、今日は写生だよ?」

「分かってるって……今しゃせいって言った?」

「よくそのメンタルで完璧美少女やれてるよね柚木原さん」


 校内のちょっと小高くなった丘の木陰みたいなところに腰を下ろして、私達は並んでおしゃべりしていた。私は喋りながらでもこういう手を動かす作業は出来るし、なんなら柚木原さんはもう書き終わってて、勝手に持ってきた真っ白なノートに早速落書き……というには精巧なイラストを描き始めていた。


「そういえば前も画集みたいなの読んでたけど、柚木原さん絵好きなの?」

「うん。好き。ほら、勉強こっそりサボる時とかさ。シャーペンとノートだけで時間潰せるじゃん。絵描けると」

「あ、サボるのが先なんだ」

「うん。サボるためならなんでもやるよ」


 「しかもツイッターに上げたらみんな褒めてくれるからすっごい承認欲求満たせる」なんて笑う柚木原さん。彼女はアンチイーロンという明確な意図を以てツイッターと呼び続けているタイプの人間だ。私も、確かにエックスとは呼ばないけど、でも彼女ほどツイッターに固執してるわけじゃない。ちなみに最近3万くらいまで行ったらしい。「顔上げたらもっと伸びるんじゃない?」なんて一瞬言いかけたが、流石に止めとこうかなと私の中で理性が勝つと同時に柚木原さんは「まあ顔晒したらもっと行くけどさぁ」と言い放った。なんだこの自信家。


「レレレのおじさんってトンカチ持ってるときだけデデデのおじさんになるらしいよ」

「へー、急に話題どっかいったね」

「思いついちゃったんだもん、しょうがないじゃん」


 そう言ってへにゃっと笑う彼女は、正直完璧美少女よりもずっと年相応……というよりは幼い寄り。手元では普通にちょっとグロ目のFGOのシーンを再現してる最中だった。なんで青空の下でモルガンの最期とか描いてるんだろう。しかもご丁寧にメッセージウィンドウまでついてる。


「ねえ、声抜きだったらFGOで一番好きなの誰なの?」

「カマちょ」

「あー、好きそう」

「え、そんなふうに見えてる?私のこと」

「うん。一臨でしょ?」

「わ、当たり」

「ほら、柚木原さん若干ロリコンの気入ってるじゃん」

「わー、マジで?」


 「マジマジ」と笑いながらスケッチブックにシャーペンを走らせる。そろそろ完成しそうだけど何か足りないな、となって私はふと閃いて、スケッチブックに体育座りする柚木原さんの足の輪郭を書き加えた。

 チャイムが鳴るまでに描き終わるかな。

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