はい、これ!

『猫の王子様』の話を終えた後も傍から離れたがらない子供達の遊びや話に付き合っていた絵里は、図書館の17時のチャイムと共に帰宅の準備をし始め、その姿に唇を尖らせる子供達に懸命に謝った。


「えー! もっと遊びたい!」

「ゾウさんとキリンさんのお話はー?」

「ごめんね、もうそろそろ帰らなきゃ。今度また図書館に来る時までにお話、探しておくね?」


 しゃがみ込んで子供達の一人一人と目線を合わせる絵里も、子供達と同様にしょんぼりとする。そこに、白い紙を手に持った男の子が駆け寄ってきた。


「お姉ちゃん! はい、これ!」

「え? これ、なあに?」


 メモ紙を受け取った絵里が首を傾げた。紙を見ると名前と携帯の電話番号が書かれている。


「僕の名前と電話番号! パパのお話が完成したらお姉ちゃんにお話するから、電話番号教えて!」

「あ……うん! ちょっと待ってね!」


 一瞬だけ戸惑った絵里だったが、頬を染めた少年を見て微笑むと、メモ帳に名前と電話番号をサラサラと書きこんで手渡した。


「私は清川絵里っていうの。君は『九重和樹ここのえ かずき』君だ。カッコいいお名前だね!」

「えへへ、ありがと! じゃあ、楽しみにしててね!」

「うん、待ってる!」


 すっかり元気になった男の子、和樹を見てホッとした絵里だったが、そこに子供達が乱入した。


「お姉さん! 私、友岡彩音ともおかあやねっていいます! お友達になってください!」

「は、はいいっ!」

「僕、岡田優太! 電話番号教えて!」

「ふわあ?!」

「みーちゃん! みーちゃんもっ!」

「あ、あはは……うひゃあ?!」


 ぼっすん!

 ぎゅうう!


 次々に突撃してくる子供たちに目を白黒させながらも、その可愛さに頬を綻ばせた絵里であった。


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