僕だって、私だって!

 子供たちを不安がらせまいと、ゆったりでふわりふわりとしたリアクションを交えながら、絵里は語り続ける。


『楽しくみんなで泳いでいたいだけなのに……悔しい! 悔しい! そう思ってたら、体が熱くなってきて、大声が出たんだ。「リーダーは食べさせない! 俺も体当たりする!」』


(ごめんね、お待たせ! カツ夫たちのカッコいいとこだよ!)


 ぐっ!


 胸の前で力強く拳を握りしめて言い放った絵里に、子供達が、わぁ! と声を上げる。


「僕も! 僕も体当たりするよ!」

「応援しようよ! 頑張れ! 頑張れ!」

「僕のヤマタノオロチぃ! 行けえっ!」

「きゃうあうあーい! だぁだ!」

「りいだ! かっちょカツ夫! きゃああ!」

「うわ! ここころころぉ! 飛び跳ねたら危ないよ?! ふふっ……泣いたカラスが何とやら、ね」


 子供達の顔が輝き始め、先程まで泣いていた心も母親の腕の中で笑顔を見せて一緒にはしゃいでいる。その姿に力をもらった絵里は、ゆっくりと話を続けていった。


『そうしたら、僕とみんなは、力いっぱい叫んでた。「僕も!」「私も!」「ワシもじゃ!」「アタチも!」そうして、クジラさんやイルカさんも一緒に全員で、シャチのヤツに体当りしたんだ! そうすると………………』


 絵里はここでいったん言葉を切り、子供たち一人一人と目を合わせた。


「「「「「「「………………!」」」」」」」

「あうー! だぁ!」

「はやや……」


 子供達は息を詰めて絵里を見つめ、赤ちゃんと心は可愛い声をあげる。絵里は更に観衆が増えている事に、もう気付かない。


『……シャチのヤツが「いたっ! いたたた! やめてくれ! もう食べようとしたりしないから! ぐすっ……うおおおおん!」と泣いて逃げたんだ! シャチのヤツをリーダーの勇気と頑張り、僕達の気持ちで追い払う事ができたんだ!』


 わあああっ!


 子供達から、大きな大きな歓声が上がった。


 後ろで聞いていた保護者や図書館のスタッフ達からも小さな歓声がこぼれ出る。


(あと、ちょっと……もう少しで終わり!)


 絵里は最後のストーリーを静かに紡ぐ。


『僕はあれからもっと、身体が大きくなった。シャチやサメが来ても、みんなで勇気を出して追い払えるようになった」


 絵里は微笑みながら、最後まで聴いてくれた子供達や多くの見守る大人達とに視線を巡らせた。やり遂げた達成感と皆の反応に嬉し気に頬を染めた絵里は、顔いっぱいのふわふわ笑顔でまた周りの笑顔を呼び込んでいく。


「リーダーみたいに勇気があれば、僕らみたいに力を合わせれば。体がおっきなヤツラにも絶対負けないよ。今日も海は青く澄んでて、太陽がキラキラしてる。今日もみんなと、どこにいこうかなぁ』




 絵里はそこで、ペコリ、と頭を下げた。




「……カツ夫と海の仲間たち、おしまい」




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