こころちゃんの涙と、子供たちの加勢と

その様子に慌てた絵里は、そっと我が子を抱え上げた母親に頭を下げて二人の表情を伺う。母親はマスク越しに絵里に笑ってから、我が子に向かって語り掛けた。


こころ、お姉ちゃんのお話はまだまだ続きがあると思うよ? 泣いちゃったら、ドッキドキのわくわくなお話、聞けないなあ~。リーダーとカツ夫君の大活躍が見れずに終わっちゃうなあ~。こころはそれでいいの?」

「……」


 澄んだ大粒の涙を零しながら母親を見上げたこころは、ブンブンブン、と首を横に振って、その胸にしがみつく。母親が苦笑いをしながら我が子を指さして、その指を自分と図書館の入口へと向けた。


「続きは、この子が悲しむようなお話? 外、出た方がいい? 私はここから先の展開、期待してるんだけどなあ」

「ごめんなさい……あの……いえ!」


 おどけた素振りで微笑みを浮かべる母親に絵里は頭を深々と下げた。そしてすぐに両手で、ぐっ!とガッツポーズを見せ、囁いた。


「任せて、ください!」


 その言葉と共に、めいっぱいの気持ちを込めて母親を見つめた。絵里を見た母親はにっこりと笑って、絵里にサムズアップをした。


「よっし、こころ! お母さんと一緒にリーダーたちのここからの大逆転劇、聞いちゃおうぜ!」


 そう言った母親に顔を拭かれながら、唇を噛み締めたこころが首を大きく上下に振る。


 すると、そこに。

 子供たちの応援が加わった。


「だいじょうぶ! みんなでシャチをおっぱらおうよ!」

「僕のキックが届けば……! 僕らも一緒に戦うから」

「お姉ちゃんのお話の続き、一緒に聞こうよ!」

「あー! きゃうー!」


 泣いている幼い子を元気づけようと子供たちが絵里に加勢し、その力強さにこころの唇が笑いたいのを我慢して、モニョモニョ、と動く。


「こころちゃん。私のお話、続きがあるの。みんなの活躍…………ここからだから、聞いてくれる?」

「…………うん!」


 唇をへの字にしていたこころが、顔を赤く染めて笑った。


(よかった…………)


 安堵の余りに椅子からずり落ちそうになった絵里は、何とか態勢を立て直しながら周りを見渡した。


 微笑みながら見守る大人たちと、頷き合いながら人々の列を整理する図書館のスタッフたちにも元気をもらった絵里は、目を閉じて指先を顎に当て、改めてこの話の結末に思いを寄せる。


(女の子にごめんなさい、キチンとしないと。でも、もう少しだけ待っててね。悲しい気持ちでは終わらせない! 絶対に、ハッピーエンド!)


 深呼吸をし、そして手に力をぐっ! と籠めて、子供達を安心させるようにゆっくり微笑んでガッツポーズを見せた絵里は、大人と子供達の歓声の中でまた、語り始める

た。

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